下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ゲーム的リアリズムで 電脳世界としてインナーワールド描く スペースノットブランク『ハワワ』@こまばアゴラ劇場

スペースノットブランク『ハワワ』@こまばアゴラ劇場

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「ハワワ」はゆうめいの池田亮が原作を提供したスペースノットブランクの連作の2本目の作品。前作「ウエア」と比べれば随所に歌が入るなど飽きさせない工夫もあり観劇のためのハードルは低めとも思ったが、やはり断片的な場面や映像がコラージュ的につながった構成はこちらも「ウエア」同様で、物語も単純に筋立てが説明できるようなものではない。
 分かりにくさにはいろんなレベルがあって、そのうちひとつはこの物語の参照項にはさまざまなゲームやアニメなどがあり、例えば劇中に「アースガールズ」という架空のアニメ(あるいはゲーム)が登場する。戦闘少女として女の子たちが敵と戦うバトルゲーム(アニメ)のようなものだ。スペースノットブランクのサイト内でインタビューに答え、原作者の池田亮は参考にした作品として「ストライクウィッチーズ」=下記参照=を挙げている。

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 アニメや漫画、ライトノベルなどを参照項としてそれまでの演劇におけるリアリズムと一線を画した表現を行う作家たちはポストゼロ年代以降増えており、ヨーロッパ企画上田誠やロロの三浦直之*1がその代表例といえるが、池田亮の場合はそうしたゲームやアニメの単なるファンというのに留まらず、現在もその業界で制作にも携わっている。
 現在進行形で進化するゲームやアニメはスペックの技術的な革新にともない大きく変わっている。ヨーロッパ企画上田誠はゲーム業界での経験のあるもののその頃とはゲームはテクノロジーもビジュアルもまったく様相が一変しており、そういう現状に幾分かでもイメージが持てる人とない人では受け取り方が違ってくる。そういう共通理解がある程度はないと、いったい何が何だか分からないということにもなりがち。作品から受けるイメージも大きく違ってくるだろう。
 私自身は「ストライクウィッチーズ」は見たことがなく、インタビューを読んで初めてその存在を知った。こうした分野に詳しくはないため、限られたソースとして美少女バトルゲーム(アニメ)としては以前から知っていたアイドル「TEAM SHACHI」が主題歌を担当することで最近知った「ドールズフロントライン」を参照項として作中ゲームをイメージしていた。それが作者側の意図にどれぐらい沿っていたのかは計りかねるが、こういうのは一度イメージを持ってしまうとそれを変更することは難しく、例え「ストライクウィッチーズ」を知った上でもう一度観たとしての初見の時に想像したイメージを大きく修正するのは難しい。つまり、どういうものをイメージするかについては観客側のその分野への経験値によって大きく変わってこざるをえないのだ。

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 実はこの作品を見る直前にヨーロッパ企画の「九十九龍城」*2を観劇した。これもやはりゲームが下敷きになっていたが、「九十九龍城」からは少し昔のゲームの雰囲気が感じられた。参照とするゲームのビジュアルはおそらく主としてビジュアル面で何世代も違い、そのことが両者の舞台の印象の違いにもつながっているような気がする。
 スペースノットブランク『ハワワ』には私には電脳世界の物語として、押井守の「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」を連想させるところもあった。これも観客それぞれの経験の差異によって見えてくるものが違ってくるのかもしれない*3
 電脳化された世界の描写ではエヴァよりも押井守ウォシャウスキー兄弟(ウォシャウスキー姉妹)の作品などを契機として、現実(リアル)の描き方がそれまでの小説や映画と大きく変化している。スペースノットブランク『ハワワ』はそうしたことを反映していると感じられた。
 興味深いのはゆうめいの作品と今回の作品との関係性だ。「ハワワ」には後半部分に「ウエア」の主要登場人物だった岡と須田が再び登場するが、実はその片方が自殺してしまっていて生き残っている方の想像上の人物として現れていることが分かる。この二人の関係はゆうめいの「姿」でも描かれた主人公(つまり池田亮本人)と命を自らたった高校時代からの親友と重なり合うようなところがあると分かる。
 「ウエア」「ハワワ」は電脳世界の出来事として描かれているためフィクションの要素は強いが、いずれも池田の自伝的な出来事を素材としているということでは双生児のような存在ともいえる。ただ、大きな違いはゆうめいの作品では垣間見られるぐらいで基本的には隠蔽されていた作者のインナーワールドが駄々洩れのように描かれていることだ。それゆえ、作品世界を理解するためにはこの両方を相補的に参照することが有効かもしれない。

原作・美術:池田亮 音楽:額田大志 演出:小野彩加、中澤陽

スペースノットブランク、三度目のこまばアゴラ劇場となる本公演では、遺伝や家族にまつわる実体験をベースとした舞台作品を創造する演劇ユニット〈ゆうめい〉代表の池田亮氏を原作及び美術に、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出でパフォーミングアーツの枠組みを拡張していく舞台作品を創造する演劇カンパニー〈ヌトミック〉主宰の額田大志氏を音楽に迎えた創造的なコレクティブによって、アンコンシャス・バイアスの化身「メグハギ」をめぐるアドベンチャーを描きます。2020年3月に初演された『ウエア』を再解釈したニューバージョンを上演すると共に、世界観を共有する新作『ハワワ』を上演。一週目に『ウエア』を上演したのち、たった一度の「通し上演」を行ない、二週目は『ハワワ』へとバトンタッチする公演形態となります。


スペースノットブランク
小野彩加と中澤陽が舞台芸術を制作するコレクティブとして2012年に設立。舞台芸術の既成概念に捉われず新しい表現思考や制作手法を開発しながら舞台芸術の在り方と価値を探究している。環境や人との関わり合いと自然なコミュニケーションを基に作品は形成され、作品ごとに異なるアーティストとのコラボレーションを積極的に行なっている。


出演
『ウエア』荒木知佳、古賀友樹
『ハワワ』大須みづほ、古賀友樹、鈴鹿通儀、奈良悠加

スタッフ
音響・照明:櫻内憧海
舞台監督:鐘築隼
保存記録:植村朔也
当日運営:渚まな美
制作:花井瑠奈

simokitazawa.hatenablog.com

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:公式サイトのインタビュワーも参考にしたのではないかというイメージとして「ケロロ軍曹」を持ち出して一蹴されていた。インタビュワーはエヴァのことも持ち出して、何度も聞き返すほど熱心に水を向けていたが、池田の反応は鈍い印象だった。