舞台「幕が上がる」(日向坂46主演版)@サンシャイン劇場
「幕が上がる」*1はももいろクローバーZ主演で2015年に映画化、舞台化されている。その時から8年が経過。今回の舞台は同様に平田オリザの小説「幕が上がる」を原作とはしているものの、脚本・演出は久保田唱*2。本広克行、平田オリザが企画した「幕が上がる」プロジェクトとは直接の関係はない。それゆえ、もし原作のイメージを崩されていたら嫌だなということがあって、見に行くかどうか迷ったけれど、日向坂46は以前(けやき坂時代)に平田オリザの劇団に所属していた柴幸男の「あゆみ」がとてもいい舞台だったように運営の現代演劇についての見識の確かさへの信頼感もあり、どういうものになっているかがやはり知りたいとも思い観劇することにした。
結論からいえばこの種の企画としてはきわめて上質の舞台といえるのではないだろうか。迷っている人がいるならぜひ見に行くことを薦めたい。
ももクロ版の舞台は映画は小説の筋立てをもとにしていたものの、舞台版については平田オリザ自らが書き下ろしたオリジナルストーリーとなっていた。今回の舞台「幕が上がる」は映画版では演劇部全員を女子に変更するなどの変更のためにカットされていた後輩男子部員わび助を登場させるなど原点に戻り、設定は原作小説にほぼ忠実。原作小説を読んでいる人にとってはなじみやすい作品に仕上がっているかもしれない。
ただ、私にはどうしてもももクロの映画のイメージが色濃く残っているため、最初のうちは「ここはこうなのか」などと違和感を感じるところが多々あった。特に最初のうちは本広演出は平田オリザの現代口語演劇に準じた従来の演劇のように張り上げない発声などを多用するなどしていたのに対し、いわゆる「演劇らしい演劇」となっていたことの違和感がぬぐえないところがあった。
過去に制作された作品が良質であればあるほどリメイクはそうなることはよくある。場合によればそれで作品に入り込めないようなことが起こりかねないが、今回の日向坂46主演版に関して言えば舞台の進行に従い次第にそうした違和感は消えうせ、作品に没入することができた。
原作に仕掛けられた「銀河鉄道の夜」をはじめとするいくつかの劇中劇の仕掛けとしての面白さなどはもちろんあるが、この舞台が高校演劇に青春をかける高校生たちの物語であり、それを演じた若き女優たちの熱気がその魅力を支えていたのは間違いないだろう。
引き込まれたのは中心人物である演劇部最上級生の4人(さおり=森本茉莉(日向坂46)、ユッコ=山口陽世(日向坂46)、中西さん=浜浦彩乃、ガルル=高井千帆)を演じた女優たちの魅力だった。
クレジット上はさおり役、ユッコ役のW主演となっている。ももクロの時にはこれに下級生の明美ちゃん(佐々木彩夏が演じた)の5人を主演としてももいろクローバーZ主演となっていた。これはどちらも興業上の理由といえそうだが、ももクロ版では駅での場面が映画全体のクライマックスとなったように百田夏菜子演じるさおりと有安杏果が演じた中西さんがダブル主演といえるような内容だった。
日向坂46版はこの二人に加えて劇中劇「銀河鉄道の夜」が見せ場があることから、ジョバンニを演じたユッコがよりクローズアップされることになったが、カンパネルラを演じる中西さんはやはり重要な存在。これは元こぶしファクトリーの浜浦彩乃が演じた。現役アイドルと元アイドルのこの3人が好演したのが、魅力的な舞台となった大きな要因だといっていいだろう。特に劇中劇中でのジョバンニを演じた山口陽世は舞台女優として見栄えがよい。舞台での華を感じさせ、これが初舞台のようだが、最上のスタートを切ったといえるかもしれない。一方、さおり役はそれと比べると演出家・部長としての苦悩などを見せなければならないが見せどころが難しく、この役にはそれまでただ明るい役しか演じたことがなかった百田夏菜子も苦悩したようにいまだに悪戦苦闘しているかもしれない。しかし、百田夏菜子がこの役をきっかけに演技に目覚めたように今後も演技を続けるということがあるのであればとても素晴らしい経験をしている真っ只中で、今後千秋楽に向けて毎日が重要な体験となるだろう。
実はこの舞台にはももクロが所属しているスターダストプロモーション(スタダ)から高井千帆が出演、同級生ガルルを演じた。これもなかなかの当たり役ではなかったか。最初は映画で高城れにが演じたガルルと全く違うので若干の違和感を感じていたが、おそらくこちらの方が原作イメージに近いと思う。いまから考えるとれにちゃんのガルルはいきなり先生にカンチョーをぶち込むなど破天荒すぎて「高城れに」そのものだった気がする(笑)。それを真似るのは無理で、どうしようかと迷ったかもしれないが、彼女なりのガルルをよく演じた。高井もアイドルを卒業、女優転向後第一作目だったが、いかにもスタダらしい華を感じさせる女優ぶりで、今後も活躍してほしい。
実は「幕が上がる」はももクロ主演での続編映画制作の構想があり、シナリオも第一稿が完成していたが、百田夏菜子が朝ドラオーディションに合格、「べっぴんさん」への出演が決まったためスケジュールがとれず流れてしまったという経緯がある。そのため、ももクロファンとしても何らかの形での続編を期待。個人的にはももクロ妹分のアイドルらによる舞台なども期待していたが果たせずにいたところに今回の企画を聞いた。そのため、何もできないでいるうちに坂道グループに企画を取られてしまったと考えた時期もあったが、映画封切りからずいぶん時間が経過したことで「幕が上がる」の知名度も下がり、関連企画自体が難しいという現状もあった。映画は高校演劇の世界に大きなムーブメントを引き起こした。この再舞台化を契機にスタダとか坂道だとかそういう事務所の壁を越えて、アニメ化、映画版のリメイクができないか。舞台を見ながら思わぬ妄想が広がった。
原作は、2012年に出版された劇作家平田オリザによる処女小説で、2015年2月には映画化され、生徒役としてももいろクローバーZのメンバー全員出演で話題となり、作品および出演者は、日本アカデミー賞、TSUTAYA映画ファン賞、報知映画賞などを受賞。同年5月には舞台化*3され、こちらもももいろクローバーZのメンバーが出演し、大きな反響を得ました。
そして今回、日向坂46の森本茉莉と山口陽世のW主演で、新たに舞台として上演することが発表されると、日向坂46の同期であり同じ歳で誕生日も同じ、自他共に認める親友同士のふたりが初めて挑戦する本作に大きな注目を集めています。
気になる共演者は、ハロー!プロジェクト所属「こぶしファクトリー」のメンバーとして活動後、現在は女優として様々な舞台に立つ浜浦彩乃、アイドルグループでの活動を経て、女優、モデルとして活躍する高井千帆、テレビ朝日「仮面ライダーギーツ」に墨田奏斗/仮面ライダーダパーン役で出演し、今回初舞台となる宮本龍之介、第44回ホリプロスカウトキャラバン「ミュージカル次世代スターオーディション」ファイナリストの飛香まい、2019年美笑女グランプリでグランプリを受賞し、TV、舞台などで活躍する高野渚、フジテレビ「ワイドナショー」にワイドナ女子高生として準レギュラー出演する竹内麗、秋元康プロデュースの「劇団4ドル50セント」の劇団員・宮地樹、そして劇団俳優座に所属し、確かな演技力を誇る千賀功嗣、劇団俳優座時代から数多くの舞台作品で大役を演じてきている田野聖子、ドラマ、映画、舞台で女優としての経験を積み、近年ではアクションにも挑戦するなど、活躍の場を広げる片山萌美、お笑い芸人として確かな地位を築きつつも、その類まれなる演技力やリアクション力をステージ上で発揮し、今年秋にはNHK連続テレビ小説「ブギウギ」への出演を控えるなだぎ武、数多くのドラマ、映画、舞台に出演し、バラエティ番組でも存在感を放つ唯一無二の名俳優・酒井敏也という経験豊富な役者からフレッシュな役者まで、個性豊かな顔ぶれが揃いました。まさに”高校演劇部”という舞台を、リアルに演じます。<STORY>
ある地方の高校演劇部を指導することになった女性教師が部員らに全国大会の出場を意識させる。
高い目標を得た部員たちは恋や勉強よりも演劇ひとすじの日々に。
演劇強豪校からの転入生に戸惑い、切磋琢磨して一つの台詞に葛藤する役者と演出家。
彼女たちが到達した最終幕はどんな色模様になるのか。
爽快感を呼ぶ少女たちの青春譚。【公演概要】
タイトル:舞台「幕が上がる」原作:平田オリザ
脚本・演出:久保田唱
日程:2023年7月12日(水)〜17日(月祝)
会場:サンシャイン劇場【出演】
さおり役 森本茉莉(日向坂46)
ユッコ役 山口陽世(日向坂46)中西さん役 浜浦彩乃
ガルル役 高井千帆
わび助役 宮本龍之介
明美ちゃん役 飛香まい
成田さん役 高野渚
高田さん役 竹内麗
孝史先輩役 宮地樹(劇団4ドル50セント)さおり父役 千賀功嗣(劇団俳優座)
さおり母役 田野聖子吉岡先生役 片山萌美
溝口先生役 なだぎ武
滝田先生役 酒井敏也
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