下北沢通信

中西理の下北沢通信

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在阪テレビ局舞台にウルトラマンの爆笑パロディ 万博を前に右往左往の大阪府政を批判 休団中の代表へのエールも 笑の内閣「ゴメラの逆襲・大阪万博危機一髪」(1回目)@こまばアゴラ劇場

笑の内閣「ゴメラの逆襲・大阪万博危機一髪」(1回目)@こまばアゴラ劇場


笑の内閣「ゴメラの逆襲・大阪万博危機一髪」@こまばアゴラ劇場を観劇。笑の内閣は「朝まで生ゴズラ」「朝まで生ゴズラ2020」と2回に渡って「怪獣の出てこない怪獣演劇」というのをやっていて、今回は第3弾ということになる。「朝まで生ゴズラ」は舞台を収録した映像でしか見たことがないのだが映画「シン・ゴジラ」を連想させるような筋立てだが時期的にはこちらの方が先行していた。昨今の官邸の様々な問題への対処の右往左往などを揶揄して、もしゴジラのような怪獣が実際に現代日本に現れたら、どうなってしまうのかという風刺劇となっていた。
 「ゴメラの逆襲」もその続編かと思って観劇を開始したが、「ゴメラ」というのは最初に考えていたような「ゴジラガメラ」ようなネーミングではなく、「ウルトラマン」に出てくる古代怪獣ゴモラ*1をもじったものだった。ということもあり、全編「ウルトラマン」に対するパロディにもなっており、若い観客にとってはどんな感じなんだろうと若干の疑念も感じたものの、パロディとしてはかなり緻密に作られており、私のような初代ウルトラマン世代のど真ん中の人間にとっては全編笑いっぱなしのような内容であった。「この回は原作のこの回ね」などというのが、すぐに分かるために気軽に楽しめた。
 一方、笑の内閣らしく「ゴメラの逆襲」のもうひとつのターゲットは維新による大阪府政。「大阪万博危機一髪」の副題から明らかなように2025年の大阪万博を前にやはり右往左往状態に陥りつつある大阪の現状を揶揄した演劇で万博、IR(カジノ)と維新が積極推進を進める政策への批判することにもある。以前上演した「東京ご臨終2020+1」*2がコロナ禍の中で無謀に五輪へと突き進んでいく東京都をインパール作戦当時の旧日本軍と二重重ねにして描いたが、今回は在版テレビ局の報道局を舞台に選び、維新や府知事の動きを直接描くのではなく、維新に迎合している大阪のマスコミを批判し揶揄する形である種の「大阪批評」も行っている。そういうところに躊躇なく踏み込んでいくところが、いかにもこの劇団らしく、笑の内閣の面目躍如である。大阪府に対しこの内容で助成金申請を行い認められなかったのでファンドも企画したと言っていたが、いくらなんでもこの内容で大阪府の申請に通るわけがないと思う(笑)。
 関西のコメディ劇団というと「大阪風の笑い」を想像するかもしれないが、作・演出の高間響は実は北海道の出身で、ボケ突っ込み的な大阪の笑い(吉本興業の笑い)の洗礼は受けていないと本人は語っている。とはいえ、笑の内閣の魅力は関西風味を感じさせる場合によっては「コテコテ」の役者陣の魅力でもあって、そういう意味ではこれが高間本人が主張するような「東京的な洗練された笑い」ではないことだけは間違いない。
 そして、この舞台に出演していないのに「不在の中心」として核となっているのが看板俳優で現在休演中の「髭だるマン」*3の存在である。それがどういうことなのかはぜひ自ら劇場に足を運び、確かめてほしいが、政治批判など公共的な主題を扱いながらこれほど劇団の私的領域に着地する作品もないのではないか。髭だるマンにはぜひ次回作品では「帰ってきたウルトラマン」のように復帰してもらいその雄姿を見せてほしい。

作・演出:高間響
今回は大阪万博の話です。こまばアゴラ劇場での公演は2019年以来となります。その際は「東京オリンピック」の話をする予定でしたが、作・演出の高間が鬱になり、新作を書けず、急遽、違う作品を再演し、ご迷惑をおかけしたので、今回は新作を持って行けてとても嬉しいです。
関東の皆はんから見れば、関西なんてみんな一緒に見えるかもしれませんが、うちら京都の人間は、大阪なんて馬鹿にしとりますから、京都から見た大阪のアホさ加減、一緒に笑うてくれたらよろしおす。

2005年、高間響を中心に旗揚げ。昔は、芝居中にプロレスをするプロレス芝居をしていたが、2010年頃から、時事ネタ風刺劇団として時事コメディを始める。
日本全国各地のほか、韓国でも公演を行っている。
ゲンロンが運営している、動画プラットフォーム、「シラス」にて、動画チャンネル「笑の内閣のタカマニズム宣言」を月額定額2200円で配信中。ぜひ定額会員になって頂きたいと思っております。


出演
由良真介、野口萌花(学園座/21世紀のキリン)、白石幸雄、月亭太遊、山中麻里絵、田辺学、ヤマナカサヨコ(プロトテアトル)、杉田一起(mandala)

スタッフ
作・演出:高間響(笑の内閣)
舞台監督:玉井秀和(劇団FAX)
音響:島﨑健史(ドキドキぼーいず)
照明:真田真吉 
映像撮影・配信:竹崎博人(FlatBox)
映像制作 HIROFUMI
フライヤーデザイン・写真:脇田友(スピカ)
運営補助:葛川友理(劇団トム論)
演出助手:大利美桜
広報協力:西端歩・能條あかり
制作協力:谷口静栄・村田瞳子
制作:秋津ねを(ねをぱぁく)

natalie.mu