下北沢通信

中西理の下北沢通信

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笑の内閣 オンライン演劇 「信長のリモート 武将通信録」シナリオ1「本能寺のzoom」

笑の内閣 オンライン演劇 「信長のリモート 武将通信録」シナリオ1「本能寺のzoom」

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 「信長のリモート 武将通信録」シナリオ1「本能寺のzoom」=写真上=は織田信長明智光秀によって本能寺に討たれた天正10年(1582年)において、もしネットがあり信長傘下の武将たちがZOOMで軍議をしていたらというSF的設定を取り入れたZOOM時代劇である。信長側を描いたシナリオ1「本能寺のzoom」と明智側を描くシナリオ2「麒麟がこぬ」 を2夜連続で上演。この日は前編の「本能寺のzoom」が上演生配信された。
 笑の内閣は東京都の健全青少年育成条例案に触発された「非実在少女 のるてちゃん」、ヘイト問題などを取り上げた「ツレがウヨになりまして」などその時々の社会的な問題をコメディーという切り口で作品にしていくきわめてユニークな集団である。
 今回のコロナ禍下で現状に即座に反応、病気療養で実家のある北海道に長期滞在中の作演出高間響が京都の俳優とZOOMで連絡をとり、それぞれの俳優が自宅から一人芝居を上演し好評を得たが、今回は第二弾の企画。とはいえ、京都市が設立した新型コロナウィルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金に応募しての出演者多数のおそらくそれまでになかったであろうほど大規模なZOOM演劇となった。
 内容はきわめて笑の内閣らしい面白さを持つ作品に仕上がったのではないかと思う。現在の世相を取り入れた時には軽薄に思えるほどの小ネタギャグを連発して笑わせながらも「もし信長傘下の武将たちがZOOMで軍議をしていたら」という荒唐無稽な大嘘を除けば歴史マニアでもある高間響はZOOMがあったらという設定を除けば史実にかなり忠実に当時こんな風だったのでないかという歴史を描き出しているからだ。
 もうひとつの特徴はZOOMの機能をうまく活用して、それぞれのセリフの合間にそれぞれの武将が現在いる地理的位置などを図示した地図も提示されるのだが、その全体のビジュアルが戦略ゲームのようになっていること。高間は「信長の野望*1や「三国志」など、歴史シュミレーションゲームで有名な、コーエーテクモホールディングスが緊急奨励金の原資となる資金を提供したから、それにちなんでこの主題を選んだと主張しているが、全体のビジュアル的なモデルは「信長の野望」などの戦略ゲームにありそうで、こういう「ゲーム的リアリズム」をうまく作品に落とし込んでいることがこの劇団らしい。
 もちろん、シナリオ2の表題が「麒麟がこぬ」 となっているようにNHK大河ドラマを意識しているものであるのはそれ以上に間違いなく、この日も帰蝶役の女優が「別に」といったまま、画面からいなくなり「薬で変わった」などと言ってまったく違うタイプの女優に入れ替わる(笑い)などきわどすぎるブラックねたも連発される。
 生配信での第一夜は終わっているが、アーカイブはしばらく残り、有料チケットを購入すればそれを見ることも可能のようなので、もし都合のつく人がいればぜひ見てみてほしいとお薦めしたくなるクオリティーであった。

天正10年(1582年)に、ZOOMがあり、
織田家の武将たちがリモート軍議を行っていたら…』
【日時】

シナリオ1「本能寺のzoom」6月20日(土)20:00配信開始

シナリオ2「麒麟がこぬ」   6月21日(日)20:00配信開始

出演
◆シナリオ1・2両方に出演

淺越岳人(アガリスクエンターテイメント)、岡本昇也、神田真直(劇団なかゆび)、三遊亭はらしょう、杉田一起、谷屋俊輔(ステージタイガー/焼酎亭)、寺地ユイ(きまぐれポニーテール) 、中路輝(ゲキゲキ/劇団「劇団」)、髭だるマン(笑の内閣)、福地教光(バンタムクラスステージ)、山下ダニエル弘之

◆シナリオ1のみ出演

和泉聡一郎(劇団道草)、伊藤今人(ゲキバカ/梅棒)、大町浩之(拳士プロジェクト)、河合厚志(押ボタン制作)、熊谷みずほ、近藤珠理、高瀬川すてら(劇団ZTON/Sword Works)、田宮ヨシノリ、土肥嬌也、松田裕一郎、三鬼春奈(gallop)、横山清正(気持ちのいいチョップ)、ラサール石井

◆シナリオ2のみ出演

アパ太郎(トイネスト・パーク)、阿部潤(こと馬鹿ら)、伊藤えん魔、ガトータケヒロ(シイナナ)、黒川猛(THE GO AND MO’S)、椎木樹人(万能グローブガラパゴスダイナモス)、じゅういち、篠原涼、杉森功明、高間響(笑の内閣)、土肥希理子、月亭太遊長岡天神サンダーライガー(不眠クラブ)、HIROFUMI、前田友里子(アガリスクエンターテイメント)、由良真介(笑の内閣)、若旦那家康(コトリ会議)  ほか

開催にあたってのご挨拶
 
 このCOVID-19禍により、数多くのオンライン演劇が誕生しています。笑の内閣もGW中、それぞれの役者の自宅から一人芝居を配信し成功を収めました。
 しかし、その多くは「劇場を開けられないための代替」です。もちろん、緊急事態に、急に企画したのだから致し方ない面もありますが、私は作るからには生の舞台でも表現できる「劣化舞台」でも、映画・ドラマでも表現できる「劣化映像メディア」でも意味がない。生の舞台でも、既存の映像メディアでも絶対にできない表現を、作っていくことがオンライン演劇を発展させていく意義だと思います。代替ではなく、たとえ劇場が空いたとしても通用する作品を作っていきたいと思います。
 今回、笑の内閣は京都市に設立していただいた新型コロナウィルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金に応募しました。まだ採択はされていませんが、その奨励金は、内容が広く市民に還元できる内容で、京都市の文化芸術の発展に寄与するものであることが条件で、またその原資が「信長の野望」や「三国志」など、歴史シュミレーションゲームで有名な、コーエーテクモホールディングスであることから、京都が舞台の歴史ものをやりたいという思いました。
 そこで、もし「天正10年(1582年)に、ZOOMがあり、織田家の武将たちがリモート軍議を行っていたら」という荒唐無稽な設定の下、新しいコメディが誕生しました。

 配信日時、キャスト、配信方法などは順次発表します。続報お待ち下さい。
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見どころはこちら
お断り

 今回の「織田家の家臣団がZOOMで軍議をしている最中に、信長が本能寺で襲われる」という設定は、同じく京都の劇団でコメディの先輩でもある「中野劇団」さんが、2009年に行われた第11回公演『義理の夫』で上演されたコント『チャット本能寺』の設定に似ております。また「滝川一益が斜め45度で座っている」など一部被っているネタもあります。もちろん別々に思いついたのですが、書き上げた後に念のために似たような話がないか、検索している際に発見しました。

 そこで、作者の中野守さんに「偶然とはいえ、今思えば『チャット本能寺』というタイトルとあらすじをチラシで見た覚えがある。心の奥底にそのタイトルがあったから思いついた設定であることを否定できないので、原案・中野守と発表することも考えているのですが、いかがでしょうか?」という連絡をしたところ、「時代物は元があるし、被ってるネタも思いつきやすいので、気にする必要はないですよ」「原案を入れる必要はないですし、もし『中野劇団をパクっている』という些細なツッコミを気にするのであれば入れてもらってもどちらでも構いません」という回答をいただきました。よって、「中野さんのこの返答を公表します」ということで落ち着きました。当事者間でこのような形で解決済みですので、皆様にもご理解をお願いいたします。

高間響

「信長のリモート 武将通信録」シナリオ1「本能寺のzoom」
askyoto.or.jp