下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ももクロ後輩らが演じる宝塚歌劇「ベルサイユのばら」のパロディ クラポの三田美吹が歌に演技に圧倒的存在感 東京やかんランド vol.3「鶯谷のばら」@東京キネマ倶楽部

東京やかんランド vol.3「鶯谷のばら」@東京キネマ倶楽部



東京やかんランド vol.3「鶯谷のばら」@東京キネマ倶楽部を観劇。vol.1、vol.2はライブ+寸劇というイベント企画という色彩が強かった。それでも滅多に聴けないスタプラ以外のアイドル曲を聴けるなどライブイベントとしての魅力度は高かったが、今回は宝塚の「ベルサイユのばら」のパロディの体裁を取りながら、キャストに宝塚出身の彩羽真矢を迎え、彼女に男役の所作の指導や宝塚式のメイク法など全面的に協力をしてもらう*1ことで、本格的なミュージカルといってもおかしくないクオリティーの舞台に仕上がっていた。

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 物語は「ベルサイユのばら」をかなり忠実になぞっており、オスカル(三田美吹)、アンドレ(安杜羽加)、国王ルイ(彩羽真矢)、マリー・アントワネット(藤谷美海)といった原作の主要人物はそのままの名前で登場。東京キネマ倶楽部のある鶯谷という土地にちなんでルイ王が正体を隠し店長を務めているホストクラブが舞台となり、王の命令でそこの店を切り回す監督役に近衛士官であるオスカルが任じられ、部下のアンドレとともに出向くという設定。ホストの場面では王の命令に反して、無理やりホストクラブにやってきたマリー(マリーゴールドと名乗っている)がシャンパンタワーに「フランス中のシャンパンを持ってこい」などと命じるいかにも彼女らしい浪費家ぶりを発揮するなど、原作のキャラ設定とも絶妙に呼応するような行動で大いに笑わせてくれた。堀くるみの男装がどう見てもパーマをかけた大阪のおばちゃんにしか見えないのにも笑わせてもらった。
 この辺りはパロディ色が強いが、後半は民衆が王政への不満から暴動を起こし、バスティーユ監獄に向かい、それに応じるように革命にオスカル、アンドレも加わり、そのなかで命を落とすという大団円の悲劇的な展開は原作通りのシリアスなものとなっており、それを演じる出演者も文字通りの熱演でそれを支えており、単なるパロディを超えた出来栄えの音楽劇となっていた。
 なんといっても素晴らしかったのは三田美吹の歌と演技。アイドルが頑張って演じていますというような感じは微塵もなくて、いますぐ東宝などの本格的なミュージカルに出演しても遜色がないレベル。クラポとしては今彼女が数か月であってもグループから離脱するのはあまりにも厳しいが、「レ・ミゼラブル」などの本格的なミュージカルのオーディションをすぐにでも受けるべきだと感じさせるレベルだった。
 オスカル役の安杜羽加も立ち姿がすっとしていて男役が似合った。逆にわがままなお姫様のアントワネットを抜群に可愛らしく演じた藤谷美海も魅力的で、これまでにどちらもこれまでいぎなり東北産のライブとは全然違う新たな魅力を発揮していた。
 ゲスト組では絹井愛佳が第二部のショー的な部分で歌ったEGO-WRAPPIN「くちばしにチェリー」が驚くべき出来栄え。この人は本当に歌がうまい。
  同じ二部で彩羽真矢は宝塚のナンバーでも披露するのかと思っていたら完全なアイドルソング(しかもオリジナル曲)で登場。掘り起こすといろいろまだ出していない持ち味も持っていそうで、ももクロ玉井詩織が座長の明治座公演にも配役されているから、本当に楽しみである。

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【日時】
2023年9月6日(水)
open 18:00 / start 19:00

【会場】
東京キネマ倶楽部

【出演者】
藤谷美海・安杜羽加(いぎなり東北産)/三田美吹(CROWN POP)/絹井愛佳(C;ON)/大黒柚姫(TEAM SHACHI)/村星りじゅ(ukka)/内藤るな/瀬田さくら(ばってん少女隊)=出演中止/春名真依/播磨かな/堀くるみ/彩羽真矢

*1:作劇演出は本広克行の弟子筋にあたる映像クリエイターの矢崎隼人が担当したようだが、彩羽はほぼ共同演出のような役割を果たしているのではないか。