下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

平田オリザ×本広克行 PARCOプロデュース2019『転校生』オンライン同窓会~卒業生にまた会える~<女子校版>@Youtube

平田オリザ×本広克行 PARCOプロデュース2019『転校生』オンライン同窓会~卒業生にまた会える~<女子校版>※6/13(土)14:59までの期間限定アーカイブ@Youtube


舞台「転校生」スペシャル対談(作・平田オリザ×演出・本広克行)

※6/13(土)14:59まで
 本広克行監督の演出により昨年紀伊国屋劇場で上演された平田オリザの「転校生」がYoutubeで無料配信されている。昨年の上演も見てはいるが出演者の数が21人と多いことと、座った席が後方で出演者ひとりひとりの顔の表情までは克明に見えるというほどではなかったので、感想はもっとも印象に残った主演の天野はなへに絞り込んだようなもの*1になってしまった。それだけにコロナ時期だけの特別な公開だとは思うが、今回映像バージョンが公開になり、より克明な出演者それぞれの演技を見ることができたのは得難い機会となった。

 実は「転校生」は初演は1994年と26年前の作品だが、5年ほど前にも上演されていて*2、その際には出演者について「キュートな容姿とそれに似合わぬハスキーな声で多くのモノノフ(ももクロファン)を魅了してきた伊藤沙莉。やはり、舞台「幕が上がる」から引き続き出演の多賀麻美、坂倉花奈、藤松祥子ら青年団組。「解体されゆくアントニン・レーモンド建築旧体育館の話」などで印象的な演技を見せてくれた注目株、清水葉月、舞台「NARUTO」のオーディションでヒロインの座をつかんだ伊藤優衣、青森中央高校の元エース折館早紀。挙げていったらきりがないが21人にはひとくせもふたくせもある強力なメンバー」などと書いたが、伊藤沙莉などは押しも押されもせぬ人気女優に成長。この舞台の新たに選抜された21人からも伊藤沙莉をしのぐホープが潜んでいる可能性も大きい。上演時間も1時間強と見やすいのでぜひ時間がある人は一度見て「21世紀に羽ばたく21人の女優たち」の魅力を確かめてほしい。
 前回公演の時にSPICEに書いた紹介によれば内容はこんな風である。

 舞台となるのは21人の女生徒のいる教室。ここにひとりの転校生がやってくるところから舞台は始まる。この転校生は「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」という不条理な存在でこれは明らかに劇中でも何度も会話のモチーフとなっていたカフカの「変身」が下敷きになっている。平田の作劇のもうひとつの特徴は劇で描かれる世界がそのまま「世界の写し絵」となっていること。この場合、明らかにここで描かれていく教室はただの教室ではなく「私たちが住むこの世界」のメタファー(隠喩)となっている。一見たわいない女生徒らの会話に擬態しているが、ここで交わされる会話はそれぞれが私たちがこの世界を自分自身で考えるときの一助となるような内容でもあり、それを通じて観客はそれぞれ世界とはどのようなものかを考えることになる。これがこの作品に仕組んだ平田の仕掛けである。

 実は初演と同じ年に平田オリザ青年団で「東京ノート*3も上演しており、こちらは岸田國士戯曲賞を受賞した平田の代表作である。実は岸田戯曲賞の候補には当初「転校生」の方が挙がっていて、戯曲の提出を求めてきて、それを知った際に白水社側に作品の差し替えを願い出て、それが結局受賞につながったと平田自身は明らかにしているが、「転校生」も「世界の写し絵」としての演劇というメタファー的構造や多人数の出演者による同時多発会話など平田ならではの特色を色濃く示しており、高校生向けに書き下ろした作品とはいえ、こちらがノミネートされていてもやはり受賞はあったのではないかと個人的には考えている。
 最後に今回映像を2回見直してみたうえでの感想。コロナで世界が変容しつつある現在を考えると、この女子高生たちの優しい世界はすでにかつてあった桃源郷のようにも見えた。高校生らを集めてら再びこの時のような舞台が作れるのはいつのことになるだろうか。女子高生を演じた女優たちは魅力的ではあったが、見終わってしばらくたった後でもやはり天野はなの印象が強い。この舞台がそういう構造になっているからといえばその通りではあるのだが、前回のバージョンで転校生を演じた桜井美南だけがこれほど強い印象を残したかというと天野が特別なのだということが分かるかもしれない。それより、実は前回は「転校生」の前に舞台や映画の「幕が上がる」に出演していた出演者がかなりいた。加えて、清水弥生らすでに別の舞台で見かけた人も出ていた。それゆえ、半数以上の出演者がすでにある程度認識できている状態で見たのに比べて、今回は舞台で初めて見る女優ばかりだった。こういうところでは私の弱点が出て、人数の多いアイドルグループでも往々にしてそういうことが起こりがちなのだが、個別認識がなかなかできないのだ。舞台で見た時には客席が後方だから仕方がないなどとも思っていたのだが、映像を見てもそれほど変わらないのは少し情けなく思った。ただ、それによって逆に浮かび上がってきたのはそういう状態でも演劇としては十分に面白いし、それぞれの役柄のぼんやりとした輪郭というか空気感のようなものはすでに提示されていて、それは私たちに届くんだということだった。とはいえ、公開期間が一週間ぐらいはあるので、その間には最低でももう一回は見てみたいと思った。
 さらに2019年舞台『転校生』では男子校版も製作。こちらは女子校版以上にこれが初舞台だというダイヤモンドの原石も含まれていそうなキャスティング。こちらも6/13(土) 15:00~プレミア配信されるので、見る価値ありだと思う。

<作>平田オリザ
<演出>本広克行

<出演者>
21世紀に羽ばたく21人の女優たち
愛わなび 天野はな 上野鈴華 小熊綸 金井美樹 川﨑珠莉 川嶋由莉 齋藤かなこ 榊原有那 指出瑞貴 里内伽奈 澤田美紀 田中真由 西村美紗 根矢涼香 羽瀬川なぎ 廣瀬詩映莉 藤谷理子 星野梨華 増澤璃凜子 桃月なしこ

<舞台スタッフ>
美術:久保田悠人
衣裳:新崎みのり
照明:佐藤啓
音響:鹿野英之
演出助手:大久保遼
舞台監督:本田和男
制作:三宅彰 山口萌
プロデューサー:毛利美咲
製作:井上肇
企画製作:株式会社パル

<収録スタッフ>
監督:本広克行
編集ディレクター:山口淳太 小林哲也
撮影:株式会社ビスケ
製作:井上肇
プロデューサー:毛利美咲
製作:株式会社パル

simokitazawa.hatenablog.com