下北沢通信

中西理の下北沢通信

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早坂彩「新ハムレット」@こまはアゴラ劇場

早坂彩「新ハムレット」@こまはアゴラ劇場



早坂彩「新ハムレット」@こまはアゴラ劇場を観劇。「新ハムレット」は表題に「ハムレット」を冠しているけれど、シェイクスピアの「ハムレット」から主要登場人物のキャラと設定を借りてはいるものの、筋立てや結末なども完全に変わってしまっており、太宰治の新解釈というよりは今風な呼び方をすれば「二次創作」に近いかもしれない。
私はシェイクスピアのファンで「ハムレット」の上演も変わったところではピーター・ブルック演出のひとり芝居から、勅使川原三郎振付・演出の「オフィーリア」まで様々な変わり種バージョンも観劇しているが、太宰版の「新ハムレット」はそういうものとも一線を画していて、これだけ変わってしまっていたら、もはや「別物」の感が強かったのである。
 原作「ハムレット」とは異なる作品との前提で見れば、クロ―ディアス役の太田宏、劇中劇でも迫真の演技を見せたポローニアス役のたむらみずほら青年団の俳優それぞれの熱演に舞台そのものは見ごたえのあるものに仕上がっていた。
 ただ、そうは言ってもシェイクスピア好きにとっては太宰の二次創作は腑に落ちないところも多く、どうしても違和感を感じてしまうのも確かなのだ。一番の不満は「新ハムレット」はクロ―ディアスやポローニアス、オフィーリアらの原作では描かれていない側面に光を当てたことで、こうした人物の見せ場は増えているのだが、その分主役(タイトルロール)であるハムレットが物語の中心から退いてしまった感があることだ。ハムレットがどういう意図に基づいて行動をしているのかが全然浮かび上がってこないのだ。
 ハムレットには原作が初演された時から「謎めいた人物」との定評があるのだが、その後の上演の歴史から伝統的な「決断できない夢想家の青年」から比較的最近の「慎重な性格ではあるが、復讐に向け着々と準備を進める行動の人」まで解釈の歴史があるが、「新ハムレット」はそのどれにも当てはまらないため首尾一貫した解釈としては浮かび上がってこなくて「いったい何がしたいの」と思ってしまうのだ。

早坂彩
ハムレット
作:太宰治 演出:早坂彩(トレモロ青年団
太宰治の長編戯曲風小説(レーゼドラマ)を、軽快にかつ濃密にお届けする一幕劇。
太平洋戦争開戦の直前・1941年初夏、太宰治シェイクスピアハムレット』の翻案(パロディ)を書きあげた。登場人物たちの懸命で滑稽な生き方は、2024年に生きる私たちにどのように響くのか。
豊岡演劇祭2022(於:出石永楽館)とSCOTサマー•シーズン2022(於:利賀山房)で好評を博した『新ハムレット』。1年半の時を経て、東京•京都で凱旋ツアーを敢行します。


早坂 彩
演出家、脚本家。トレモロ主宰、劇団青年団所属。
利賀演劇人コンクール2015『イワーノフ』にて優秀演出家賞・観客賞受賞。
シェイクスピア戯曲から現代口語まで、戯曲をつぶさに捉えた作品作りを行っている。
近年の代表作は、日韓演劇交流センター『寂しい人、苦しい人、悲しい人』、トレモロ『寝られます』、八王子市学園都市文化ふれあい財団『夏の夜の夢』など。

出演
太田宏*、松井壮大*、たむらみずほ*、清水いつ鹿(鮭スペアレ)、大間知賢哉、川田小百合、瀬戸ゆりか*、黒澤多生* (*=青年団
※出演を予定しておりました申瑞季さんは、体調不良により、川田小百合さんにキャスト変更となりました。

スタッフ
演出助手・スウィング:長順平
舞台監督:鐘築隼[京都公演]、久保田智也[東京公演]
舞台美術:杉山至*
照明:黒太剛亮(黒猿)
音響:森永恭代
音楽:やぶくみこ*   (*=青年団
衣装協力:徳村あらき
宣伝美術:荒巻まりの
制作:飯塚なな子