青年団リンク キュイ「景観の邪魔」(綾門優季作)Bプログラム@こまばアゴラ劇場
「景観の邪魔」Bプログラムは東京から離れて、大阪に住む人たちの話から始まる。そういう意味ではAプログラムが「東京の物語」となっていたのに対して、「日本全体の未来史」のような意味合いが強まったものとなった。
Aプロでは東京各地に住む土地神とともに東京から人が出ていき、東京が没落していくさまが描かれたが、冒頭ではそこから出ていった人々が京都や大阪に流入していった日本の姿がまず語られた。Aプロにはペットボトルに照明を当てた舞台美術が配置されていたがBプロは舞台に装置はいっさいなく、ホワイトキューブ的な空間で俳優だけで演じられるが、Bプロでは舞台背面にスクリーンがあり、そこに雲や都市の風景などの映像が映され、俳優がひとりづつ客席正面を向けて発話する。自分語り的なモノローグのテキストに音楽が組み合わさって、通常の演劇というよりもかなりパフォーマンス的に展開した。
あるセリフを俳優が発している間に他の俳優がその左右の背後にいたりすることがあるのだが、この舞台では大きな動きをするわけではないのだが、セリフを話さない俳優の身体所作も演出によるものであるのか、それぞれの工夫によるのかは定かではないのだけれど、相当以上に作りこまれた精度を感じさせるものとなっていてスキがない。そのせいかこの舞台は観客に相当以上の集中力を要求するようなものになっていて、演劇(劇場)ネタなど以前に異なる演出で見た際には楽屋的な笑いが起こっていたところでも、笑いなどはいっさい起こらないほど張り詰めていた。私にはそれは刺激的で魅力的な体験ではあったが、かなり、観客を選ぶ演出となっているのじゃないかと思う。
今回の「景観の邪魔」でもっとも存在感を示したのはただひとり両プログラムともに出演した悪い芝居の野村麻衣。ABプロで異なる役柄を異なる演技でこなしているうえにこれは悪い芝居での演技とも異なるもので俳優としての幅の広さを感じさせた。特にBプロ最後の方で詩集を読むのが朗読の声の響きとも相まって非常に魅力的であるし、その後のセリフなしの部分の目力に女優としての存在感を感じさせた。
作:綾門優季 演出・上演台本:橋本清(ブルーノプロデュース)
どんどん嫌いになる方向にいかないでほしい、と毎日のように思います。東京のことです。僕の故郷は東京ではなく、上京してきた頃はすぐに慣れるだろうとタカをくくっていたので、未だに東京に体が慣れていかないことに、驚きを隠せません。中途半端な旅人として、いつもここにいるような気がします。大好きな劇場も大好きな劇団もあるのに。大好きな場所も大好きな人もいるのに、嫌いになりそうなのは辛いです。愛憎半ばする東京を『景観の邪魔』に精一杯、敷き詰めたつもりです。都民の皆様、予め謝っておきます。ごめんなさい。僕はこのように考えました。
綾門優季青年団リンク キュイ
専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして活動中。劇作を綾門優季が担当し、外部の演出家とタッグを組みながら創作するスタイルを基本としている。戯曲は「震災、テロ、無差別殺人など、突発的な天災・人災を主なモチーフとすること」を特徴とする、独自の世界観を構築している。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。2015年、『不眠普及』で第3回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。
出演【Aプログラム】
新田 佑梨(青年団)
長沼 航(散策者)
野村 麻衣(悪い芝居)【Bプログラム】
長野 海(青年団)
里見 真梨乃
高須賀 あき乃(明るい人類)
冨田 学
野村 麻衣(悪い芝居)
松﨑 義邦(東京デスロック)
スタッフ
作:綾門 優季
演出・上演台本:橋本 清(ブルーノプロデュース)照明:井坂 浩 (青年団)
音響:櫻内 憧海(お布団/青年団)、近藤 海人
映像美術:柳生 二千翔 (女の子には内緒/青年団)
舞台監督:島田 曜蔵 (青年団)
衣裳:正金 彩(青年団)
音楽監修:カゲヤマ気象台(円盤に乗る派)※Bプログラムのみ
フライヤーデザイン:谷 陽歩
演出助手:児玉 健吾(かまどキッチン)
制作:半澤 裕彦(青年団)
制作助手:山下 恵実(ひとごと。/青年団)
インターン:渡邊 遥夏(跡見学園女子大学)