下北沢通信

中西理の下北沢通信

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北村明子 アジア国際共同制作プロジェクト 『Cross Transit "vox soil"』@せんがわ劇場

北村明子 アジア国際共同制作プロジェクト 『Cross Transit "vox soil"』@せんがわ劇場

・演出・構成・振付・出演:北村明子

・ドラマトゥルク・音楽提供・出演:Mayanglambam Mangangsana(インド・マニプール)

・振付・出演:清家悠圭、西山友貴、川合ロン、加賀田フェレナ、Chy Ratana(Amrita Performing Arts, カンボジア)、Luluk Ari(Solo Dance Studio, インドネシア

・出演:阿部好江(鼓童

・音楽ディレクター・音響:横山裕章agehasprings

・舞台美術・宣伝美術:兼古昭彦

・テクニカルディレクター・照明デザイン:関口裕二(balance,inc.DESIGN)

・照明:菅橋友紀(balance,inc.LIGHTING)

・衣装:堂本教子

・音響協力:金子伸也

・プロダクションマネージャー:秋元淳

・制作・ Webディレクション:中山佐代
振付家・ダンサーの北村明子が、日本とアジアのアーティストと共に創り上げる国際共同制作プロジェクト「Cross Transit」の最新形。2015年に始動し、日本とアジアの地域・伝統文化の調査を行う中で出会ったアーティスト・文化と共に作品作りを継続している。

プロジェクト3年目、インド・マニプールの音楽家・Mayanglambam Mangangsanaをドラマトゥルクに迎え、日本・カンボジアインドネシアのダンサー・アーティストと作り上げる珠玉のダンス作品。

踊りは、民族や国籍、言語の差を越えて、足元に広がる大地を通して繋がる行為。身体の重さを地面に伝える「踏む」という動作は、様々な出自を持つダンサーたちのステップに、その振動はリズムとなり地面で混じり合い、ダンスという対話へと変換される。 これは、土地ごとの音楽や身体の所作に大切に受け継がれている(トランジット)「種」を融合(クロス)させ「未来のアジア」として開花させるという、ひとつの祈りかもしれない。

 北村明子「To Belong / Suwung」@表参道・青山円形劇場を2014年ダンスベストアクトで1位に選んだが、この作品について交流相手のダンサーの歴史的、地理的なコンテクストを無視してアジアのダンスとの交流と言いながら一方的に北村の方法論に落とし込んだとして「アジアのダンスの搾取ではないか」との批判が一部批評家からあったと記憶している。
 この「Cross Transit 」シリーズはそうしたことを踏まえてアジアとの交流活動を継続したものだが、非常面白く思ったのはそうした批判に対して、相互のコンテクストを尊重するという方向性へ転換ではなく、むしろそういうコンテクストを完全に捨象した方向性に舵をきったきとだ。「踊りは、民族や国籍、言語の差を越えて、足元に広がる大地を通して繋がる行為。身体の重さを地面に伝える『踏む』という動作は、様々な出自を持つダンサーたちのステップに、その振動はリズムとなり地面で混じり合い、ダンスという対話へと変換される」と関連サイトにあるようにすべてを東浩紀のいうデータベースのようにフラットな関係に還元し、その代わりにサンプリングの対象をインドネシアならインドネシアと一国だけではなく、他のアジア諸国へと拡大していく。そうすることで、日本(北村)がアジアのダンスを搾取するというような構造をとらないように作品構築の構成を組み替えているのだ。
 この作品にはインド、 カンボジアインドネシアを含め8人のパフォーマー(音楽家も含む)が出演しているが、それぞれ大幅に異なる身体言語を持つダンサーをあえて集めている。そして、作品中で2人ないし3人程度のユニゾンの動きが多いのも特徴で、その場合は誰かひとりの特徴的な動きを他のダンサーができるだけ模倣して取り入れていくようなことを繰り返しながら、もともとは色々なコンテクストで生まれてきた色々な動きを共通言語として取り入れることで、レニ・バッソ時代には身体ボキャブラリーが様々なソースから北村が取り入れ、集めてきたものとはいえ、どうしても個人的なものにとどまっていたのを「アジア的」とでも仮に名づけられるような普遍性のあるものに開いていこうと試みているように感じた。
 もっとも、今回の舞台ではパフォーマーの数が8人と多く、全員が集まっての稽古期間も3週間程度と短かったこともあってか、シーンによって熟成の度合いにバラつきが感じられた。ただ、秋には横浜のKAATで今回の作品を練りなおした「Cross Transit2」の上演も予定されており、期待して待ちたいと思う。