下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmai.comまで連絡お願いします。

北村明子「Echoes of Calling」@Streaming+(配信)

北村明子「Echoes of Calling」@Streaming+(配信)


Echoes of Calling 2020.02 リハーサルPV
北村明子は世間一般の評価はそこまででもないかもしれないが、コンテンポラリーダンスの世界において日本有数の振付家・ダンサーだと考えている。自ら率いて海外ツアーなどを実行してきたレニ・バッソを解散後、ソロプロジェクトとして主としてアジア圏のアーティストと共同制作を重ねてきたが、2020年からに共同制作先をアイルランドに変更し、日本とアイルランドから中央アジアへと発展していく長期国際共同制作を展開することになった。コロナ禍でスパイラルホールで予定していた劇場公演は中止せざるを得なくなったが、無観客での配信公演を手掛けることになった。
 映像作品では冒頭近くで北村明子自身が登場し短いソロを踊る。これぞ北村という鋭い動きで健在ぶりを見せてくれるが、このソロが手前の人物の頭のシルエットに半分隠れるような構図になっていて、完全には見えない。配信とはいえ彼女はもともと映像作家や音楽家など他分野のアーティストとの共同作業を得意としており、映像にも映像作家が勝手に制作したというようなものは微塵もなくて、細部にわたって彼女の意図が示されたものとなっている。そういう意味ではこの構図も彼女が意図的に提示したものだが、ダンスのムーブメントだけをあからさまに見せるのだけがダンス作品ではないという北村の美学がここにも示されていて、いかにも「らしい」作品だと思った。
 今回の共同製作作品の映像や音楽はテイストとしてはレニ・バッソ時代とはかなり異なる質感を感じる。例えば音楽は以前はエッジの効いた電子音楽やノイズを使ったりしていたのが、アイルランド音楽と思われるボーカリストの生歌唱を生かしたり、コンピューター処理した映像ではなく、映画的に撮影したものを加工したものらしい映像を多用し、ダンサーの動きとともにより生っぽさを感じさせるようなものとなっている。
 とはいえ、変わらないことはあってそれは出演するダンサーにおいては北村が意図した動きを確実に体現できるようなスキルの高いダンサーをそろえ、具体的にどこがどうとははっきりとはいえないが、東洋の武道の動きやストリートダンス、いかゆるコンテンポラリーダンスでよく使われる技法を自在に組み合わせたうえで、他ではあまり見たことがないような動きを特に群舞としても体現させている。
 実はレニ・バッソ解散後にアジア圏のアーティストと一緒に創作した作品もいくつも見ているのだが、特に伝統舞踊系のダンサーらと共同作業をした場合にはどうも相いれないというか、作品への相互理解がなかなかうまく進まないというような傾向があった。
 今回はアイルランドということでそういうことはないかもしれないが、コロナも関係している可能性もあるが、相手側のかかわりを音楽とドラマトゥルクに限定し、ダンサーは日本人かつ北村がこれまでも仕事をしたことがあるダンサーに絞り込んだのは以前のプロジェクトでの経験による反省もあったのかもしれない。
 ダンスは前半部は緩やかにはじまるが、後半になってくるにつれて次第に激しさを増し、北村の振り付けのひとつの特色である片手を伸ばして回転方向に振った腕の動きに引っ張られるように素早く旋回するような動きもどんどんと加速していく。さらに動きのバリエーションも増え、おそらくブレイクダンスなどの技術を基礎としたと思われるアクロバティックな動きが次々と繰り出される。日本のコンテンポラリーダンス全般として絶え間なく動き回るようなダンスが少なく、群舞であっても身体の変容を見せていくようなダンスが目立つ中では孤高の存在といってもいいほどだが、ダンス作品としての完成度はきわめて高く、無観客配信のみの公演となってはしまったが、ひさしぶりにレニ・バッソ時代の最高到達点と私が考えている「Finks」や「Ghostly Round」「Elephant Rose」といった傑作群に匹敵、あるいは超えたかもしれない作品が現れたと感じた。年初の作品だが、今年のダンスベストアクトの有力候補が現れたと言っていいだろう。

A Collaboration Project between Ireland and Japan
“Echoes of Calling”について

日本とアイルランド中央アジアへと発展していく長期国際共同制作の舞台プロジェクトです。ケルトの伝統文化や日本に古代から伝わる、形に残らない身体表現や音が、いかに私たちの記憶に働きかけるのか。表現形式や文化、国籍、言語などの違いを超えた伝統と現在との関わりがいかに可能か。グローバル化する社会の中で不透明になりがちな「土地の文化」を、歴史的・空間的に横断し、伝統文化の脈と未来へと切り開かれるダンスを創出していきます。変動する自然環境の中で、人間と自然の共生に深い関わりを持ってきた共同体の”祈り” を現代的なテーマとして捉え、言語を超えた自然のリズム・呼吸・声のエコーをダンスへと、そして人間の力をはるかに超えた存在と共にあることの希望へと導いていきます。

A Collaboration Project between Ireland_and_Japan
Echoes of Calling

自明の地が崩れゆき
歩くことを問いなおす

対話の糸口がみつからない
絶望のとばりが降りるとき
ひとつの声が響きわたる

声は何も語らない
ただ身体の中で何かが突き動かされる

生ある思考を働かせ
人間なるものを超えた存在を夢見る

食べて、眠って、起きて、探して、食べて、眠って、起きて、探して

やがてひとつのリズムがかたちをなす

時空を超えるリトルネロ  
くりかえし口ずさめば
明日目覚めることがなくても
わたしはあなたと共にいる

企画・構成・演出・振付:北村明子
ドラマトゥルク:シェーマス・スキャンロン、荒谷大輔
音楽:横山裕章agehasprings
美術・映像:奥秀太郎
ダンス:香取直登(コンドルズ)、川合ロン、西山友貴、岡村樹、永井直也、近藤彩香、北村明子
歌:ドミニク・マッキャル−・ヴェリージェ、ダイアン・キャノン
舞台監督:川口眞人(レイヨンヴェール)
音響:田中裕一(サウンドウェッジ)
照明:岩品武顕
衣裳:さとうみち代
映像技術:福地健太郎
演出助手:中山佐代
通訳:福岡里砂、加賀田フェレナ
制作:福岡聡(カタリスト)
宣伝美術:柳沼博雅(GOAT)
主催:一般社団法人オフィスアルブ
後援:アイルランド大使館
会場協力:株式会社ワコールアートセンター
助成:文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
令和2年度港区文化芸術活動サポート事業助成
公益財団法人 関西・大阪21世紀協会
EU・ジャパンフェスト日本委員会

akikokitamura.com