下北沢通信

中西理の下北沢通信

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北村明子「Echoes of Calling – Gushland –」@青山スパイラルホール

北村明子「Echoes of Calling – Gushland –」@青山スパイラルホール

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 北村明子の作品は振付、ダンサーのスキルの高さだけでなく、音楽、美術、映像などを組み合わせることでの総合的な完成度において、日本のコンテンポラリーダンスとして、ひとつの到達点ではないかと思う。実は今回の「Echoes of Calling – Gushland –」は昨年1月に配信による作品*1 *2が公開されたほか、映像版も配信されていたために再演だと思うし、見に行くかどうか迷っていたのだが、やはり北村明子作品を見逃すことはできないと直前にした決断は大正解。これは振付自体は残っている部分が多いとしても音楽や映像が差し替えられたせいで、配信や映像の作品とまったく違う印象を受けるしもう新作と言ってもいいほどだ。2022年ダンスベスト1*3かどうかは今後上演される作品も多いのではっきりとは言うことができないが、まだ2月であってもこの作品が今年のダンス作品の上位3位以内に入ることは間違いなさそうだ。
 北村は自らが率いるダンスカンパニー「レニ・バッソ*4を解散した後はアジアのアーティストの共同制作に力を入れてきた。「Echoes of Calling」のプロジェクトでは共同作業の相手をヨーロッパのアイルランドとしたこと、ダンサーとして今回参加するはずだったミンテ・ウォーデがコロナ禍による入国制限で来日できなくなり、映像参加のみとなったため、北村作品の常連である日本人ダンサーのみによる作品となったことなどがあってかひさびさにレニ・バッソ時代の空気感を濃厚に感じさせる北村らしさに溢れた舞台となった。
 北村自らも出演しているとはいえ、出てくるのは後半部分での短いソロシーンのみで、ほとんどの場面は男性4人、女性2人によるアンサンブルで構成されている。レニ・バッソ時代を感じると書いたのはダンサーが時折二人組になって踊るときにハイスピードの動きでありながら、二人の間に接触(コンタクト)があまり起こらないで、自分の身体の方向に鋭く侵犯してくる相手の手や足の動きをあたかも武道家紙一重で回避するような動きが繰り返されたりすることなどがレニ・バッソの作品ではよく見られた手法で、そういう部分ではアジアのダンサーや武道の動きを取り入れた最近の作品とは一線を画しているかもしれない。とはいえ、アンサンブルとは書いたがこの作品はそれぞれのダンサーが別々の場所で踊る位置取りが基本なので、それぞれの動きは時折ユニゾン的にシンクロしたり、まったくバラバラな動きになったりとかなり複雑な組み合わせとなっているように見える。
 ダンサーではアンサンブルに入った二人の女性(近藤彩香、西山友貴)の個性が対照的で印象に残った。西山は北村のプロジェクトに2012年以降継続して参加しており、現在の北村作品を代表するようなダンサーといってよいかもしれない。踊りも北村自身の動きを引き写したようなところがあり、最初のいくつかのシーンでは北村と取り違えてしまったほどだ。一方で近藤彩香はバレエ出身、英国L.A.B.A.N卒業後、野田秀樹「キャラクター」などダンス以外の作品への出演経験もあり、自分の動きを生かしながら振付に対応するタイプ。この二人の動きの質感がかなり異なることが作品の中でよい意味でのアクセントになっているのではないかと感じた。

 
 

天賦の身体は大地でうごめく

天賦の大地は誰のものか

貪婪の地図が崩壊した後

荒蕪の土地に辿り着いた者たちは

ちいさきものの口ずさむ音をきく

からだの中のあらゆる穴が耳と化し

ほとばしる声の津波を生み出す

生あるからだは格闘と共振を繰り返し

リズムの脈は大地の種となり花となる

“Echoes of Calling”について

日本とアイルランド中央アジアへと発展していく長期国際共同制作の舞台プロジェクトです。

ケルトの伝統文化や日本に古代から伝わる、形に残らない身体表現や音が、いかに私たちの記憶に働きかけるのか。表現形式や文化、国籍、言語などの違いを超えた伝統と現在との関わりがいかに可能か。

グローバル化する社会の中で不透明になりがちな「土地の文化」を、歴史的・空間的に横断し、伝統文化の脈と未来へと切り開かれるダンスを創出していきます。

変動する自然環境の中で、人間と自然の共生に深い関わりを持ってきた共同体の”祈り” を現代的なテーマとして捉え、言語を超えた自然のリズム・呼吸・声のエコーをダンスへと、そして人間の力をはるかに超えた存在と共にあることの希望へと導いていきます。

■ 開催概要
◉日時
2022 2.18 (FRI)19:00
    2.19 (SAT) 14:00 / 18:30
 2.20 (SUN) 14:00 

◉会場
スパイラルホール(東京都港区南青山5-6-23 スパイラル3F)
東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」駅下車徒歩5分

◉料金 全席自由(税込)
一般5,000円 学生3,500円
港区民(在住・在勤)優待料金 3,500円
※当日のご精算で優待料金でご入場頂けます。

※未就学児のご入場はご遠慮下さい。
※学生券は小学生以上の学生の方が対象となります。

◉チケット取扱い 
イープラス 各日程予約ページ https://eplus.jp/sf/word/0000124712

◉お問い合わせ
オフィスアルブ info@akikokitamura.com 070-7528-7065(10-20時)

企画・構成・演出・振付:北村明子
音楽:横山裕章agehasprings
映像:兼古昭彦
ドラマトゥルク:荒谷大輔

ダンス:ミンテ・ウォーデ(映像参加)、岡村樹、香取直登(コンドルズ)、川合ロン、北村明子黒田勇、近藤彩香、西山友貴
歌:ドミニク・マッキャル−・ヴェリージェ、ダイアン・キャノン

舞台監督:川口眞人(レイヨンヴェール)
音響:田中裕一(サウンドウェッジ)
照明:岩品武顕(with Friends)
衣裳:さとうみち代
通訳:山田規古
制作:福岡聡(カタリスト)
Design: GOAT

主催:一般社団法人オフィスアルブ
後援:アイルランド大使館
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)独立行政法人日本芸術文化振興会 / 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 / 令和3年度港区文化芸術活動サポート事業助成

会場協力:株式会社ワコールアートセンター