下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

2018年ダンスベストアクト

2018年ダンスベストアクト

 2018年ダンスベストアクト*1*2*3 *4 *5 *6 *7 *8を掲載することにした。皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。

2018年ダンスベストアクト
1,高橋萌登ソロ「未来永劫彼方へ」駒場東大前こまばアゴラ劇場*9
2,lal banshees(横山彰乃)「ムーンライトプール」@三軒茶屋シアタートラム*10
3,木ノ下歌舞伎「三番叟」「娘道成寺吉祥寺シアター
4,MOKK「f」駒場東大前こまばアゴラ劇場
5,Aokid×橋本匠「we are son of sun!」@象の鼻テラス
6,田村興一郎「F/BRIDGE」@横浜レンガ倉庫
7,モノクローム・サーカス「TRIPTYQUE 三部作」@アートシアターdB神戸
8,ニブロール「コーヒー」@横浜・赤レンガ倉庫
9,黒田育世「ラストパイ」(2005)草月ホール
*11
10,勅使川原三郎カラス・アパラタス「アップデイトダンス」シリーズほか@両国・シアターX(カイ)

 私が現在振付家としてもっとも期待しているのが、KENTARO!!率いる東京ELECTROCKSTAIRSの2人の女性ダンサー・振付家高橋萌登・横山彰乃)。カンパニーでは優れたダンサー、パフォーマーでもあるが、高橋萌登ソロ「未来永劫彼方へ」@こまばアゴラ劇場、lal banshees(横山彰乃)「ムーンライトプール」@三軒茶屋シアタートラムとそれぞれ自らの作品を発表、振付家としての力量が並みのものではないことを示した。
 東京 ELECTROCK STAIRSでは個々のメンバーの個人による個別の活動が盛んになってきているが、高橋萌登ソロ「未来永劫彼方へ」もそうしたもののひとつだ。 最後の方に出てくる歌詞付きの曲こそ、師匠のKENTARO!!の提供曲を高橋が歌ったものだが、それ以外の劇中曲は全て高橋が自分で作曲・制作した楽曲であり、いままで以上に作品のどこを切っても高橋萌登ワールドという彼女ならでは世界観が濃厚に示されたものとなった。
 前半はどちらかというと抑制された静かな動きの中で、インストゥメンタルの音楽と照明効果により空間を構成していくような構成。物語りも舞台設定の具象性もいっさいなく、どちらかというともすれば重くなりかねない、シーンのつなぎだが、高橋の小動物を思わせるようなコミカルなキャラと動きがそうなることをふせぎ独特の軽味を作品に付け加えている。
 一方、横山彰乃によるlal banshees vol.2「ムーンライトプール」は人間が人間として踊る群舞というよりも、集団で群生する人間以外の生物の群れのようなものを集団で表現するような印象。実は集団表現による異世界生物の表現と言えば横浜ダンスコレクションの審査員賞を一昨年受賞した黒須育海(現ブッシュマン)の作品などを連想させるが、黒須の作品があくまで例えばスタニスワフ・レムに出てくるようなハードSF的な異世界異生物を想起させるのに対し、横山彰乃のはジブリに出てくるようなファンタジーなイメージを紡ぎ出している。舞台上にいるダンサーをソロ、デュオ、トリオなど変えてみせる構成は今回も健在。ただ、横山彰乃本人を含め、前回参加の5人のダンサーのうち今回も4人が参加したほか、新たに3人のダンサー(asamicro、菅原理子 、仁科幸)が加わったこと、劇場空間がこまばアゴラ劇場からシアタートラムへと大幅に拡大したことで、ダンスの構成は格段に複雑さを増した。
 独立して自分の活動を開始して久しいから元東京ELECTROCKSTAIRSと称するには語弊があるが、演劇・ダンス・美術と複数のアート領域を横断するようなAokidの活躍ぶりも特筆すべきものがあった。静岡・ストレンジシードでのきたまり、ヌトミックの額田との一連の共同作業も魅力的なものであったが、ここでは「この1本」ということであれば横浜ダンスコレクションのグランプリ受賞記念公演として上演されたAokid×橋本匠「we are son of sun!」はガラスの壁面ごしに港の風景が見える閉鎖された劇場空間ではない象の鼻テラスの空間(場)としての面白さを存分に活用した作品で、作りこんでいく完成度よりも共同作業者との関係性を重視して作品作りを行うAokidらしさに溢れた舞台であった。
コンテンポラリーダンスの全盛期を支えた実力派作家も過去作品の再演で実力を誇示した。モノクローム・サーカス「TRIPTYQUE 三部作」@アートシアターdB神戸
ニブロール「コーヒー」@横浜・赤レンガ倉庫、黒田育世「ラストパイ」(2005)@草月ホールがそうだが、いずれも若いダンサーと作品を再構築することで、優れた作品は時代を超えて魅力を保持するということを示すことができたのではないか。いずれも素晴らしいが、商業分野でも活躍するダンサー、菅原小春を起用し、彼女にとっても新境地を描き出した黒田育世「ラストパイ」は出色の成果を残したと思う。