下北沢通信

中西理の下北沢通信

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都市雄classicS「ワーニャ伯父さん:自殺願望者の為の生活戯曲」@アトリエ春風舎

都市雄classicS「ワーニャ伯父さん:自殺願望者の為の生活戯曲」@アトリエ春風舎

作:アントン・チェーホフ 翻訳:神西 清 演出:都市雄 
ワーニャ伯父さんは言わずと知れたチェーホフ四大戯曲の1つです。
今作は自殺願望者の為の生活戯曲と副題を付けます。
物語の主役はワーニャ伯父さんです。これがまた最近も生活を見渡せばよくみるおじさんで、その姪が放つ「生きなきゃ」という戯曲終盤の絞り出される言葉は、病んだワーニャ・現代・観客と様々な者への処方箋になるのでは無いかと思うのです。効能に個人差はありますが、このような力強い言葉に、演劇にこそ私は期待したい。そんな作品を目指します、それも口当たりの軽い喜劇として。


都市雄classicS
主宰の都市雄がチェーホフの上演を行う為設立。
昨年 登場人物を全て子供として老人フィールスの視点から見る演出による平均年齢20歳ほぼ女性のみのキャスティングで上演した「桜の園=Everyone is a child」は好評で、小さい会場ながら東京大阪述べ20ステージを満席で終了した。

ひとまず三年間で四大戯曲を上演するのが目標。


2018年10月「桜の園=Everyone is a child」

出演
谷川洋平
田中良季(都市雄classicS)
外桂士朗
遠山ひかり
杉山愛
生駒元輝(perrot)

スタッフ
舞台監督:海津忠 (青年団
制作協力:黒澤健 (ゆうめい)

 3年間でチェーホフの四大戯曲を上演するのが目標という小山都市雄の「桜の園」に次ぐ第二弾。とは言え「桜の園」は見られなかったのでこの集団のチェーホフを観劇したのは初めてである。
「ワーニャ伯父さん」がどんな作品であるのかについては比較的オーソドックスな演出だったケラリーノ・サンドロヴィッチ演出版*1に書いたのでそちらも参照してほしいが、四大戯曲のなかで他の3作品と比べれば上演されることが少ないのはこういうテーマだということが示しにくいことにあるのかもしれない。もちろん、チェーホフ平田オリザも言っているように社会主義リアリズムの作品ではないから、ひとことで「これ」と提示できるような主題があるわけではないけれど、例えば「かもめ」で言えば「世代の対立」「母子の関係性」「芸術とは何か」のような取り出しやすい問題群にはことかかない。「桜の園」も「三人姉妹」もそうだ。
 それと比べると「ワーニャ伯父さん」はそこが漠然としている。もちろん、ないということはなくてケラ版ではそこに「老いるということ」という主題を見つけたが、逆に言えばそこにこそ若い劇団がこれを上演することの困難さはあるといえるのかもしれない。
 都市雄classicSによる上演はワーニャの役を鬱病にかかってベッドに寝たきりの男が演じるというようなメタシアター的な趣向を仕掛けて、原作に色濃い「老い」というモチーフはやや背景に退いている。