下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

黒田育世『ラストパイ』(2005)@草月ホール

黒田育世『ラストパイ』(2005)@草月ホール

世間的には菅原小春が出演することに話題が集まるだろうし、私も楽しみなのでそれに異論はないが、個人的には北村成美(しげやん)の出演に注目している。黒田と北村のこれまでの活動は自ら率いるBATIKを中心にグループ作品を主体に創作してきた黒田育世に対し、しげやんという得がたいキャラクターを核にソロダンス主体に活動を続けてきた北村は対極的な存在だ。

北村成美プロモーションムービー

=菅原小春ダンスパフォーマンス= #StrongSouls –世界同日開催新アルティミューン発売イベント-

 ただ、この2人には実は共通点も多い。ひとつは2人ともダンスの原点はバレエであり、黒田は谷桃子バレエ団、北村は石井アカデミー・ド・バレエ*1の出身でともに踊りの基礎にバレエを持ち、時期は違うが英国のラバンスクールへの留学経験を持つ。
 近年はともに子供を持ち、育児とダンスを両立。ともに自分の子供を舞台に上げたことがあるというのも共通点で、この2人の活躍はこれから結婚、出産をする女性ダンサーにははげみになっているのではないかと思う。
 「ラストパイ」は2005年7月15日に金森譲率いるNoism05により「Triple Bill」として初演された。残念ながら初演を見られなかったのだが、この作品の元となった黒田育世本人が踊るソロダンス「モニカモニカ」は何度も見たことがある。強烈なリズムを刻む松本じろのギター演奏に合わせて、激しい動きを何度も何度も繰り返していくことで、強い負荷を受けた身体が立ち現れるのを見せていく、という作品だ。
 身体に負荷を与えることでそこから立ち現れる生命のエッジのようなものを見せていくという作品群は2000年代以降のダンス、演劇においてひとつの潮流をなしてきた。この「ラストパイ」は「3年2組」など矢内原美邦のいくつかの作品、多田淳之介の「再生」「RE/PLAY」などとともに代表的な作品だということを今回の再演を観劇して再確認させられた。
 さて、それでは実際の舞台がどうだったのかといえばこれはソロを踊った菅原小春の命を削るような全身全霊をかたむけたダンスには強烈なインパクトがあった。かつてテレビ番組「情熱大陸」で彼女の紹介を見た。その印象ではこのひとはとにかく妥協というものを知らずにダンスに向けて純粋な熱意で飛び込んでいく人なんだなと感じた。そうした意味では自分を追い込んでいくのは彼女のダンスへの取り組みとしてはルーティンだと言ってもよいのだろう。
 だが、いくら妥協をしないといっても普段踊っているような自分の振付作品ではそこに無意識に自分の限界を設けているようなところがあるはずだ。
 黒田の「ラストパイ」はそうした無意識の妥協さえ許容せず、ダンサーをひたすら追い込んでいく作品。この作品における菅原小春はもがき苦しんでいて、スタイリッシュにダンスを切れよく踊れるダンサーというこれまでの彼女のイメージを根底から覆すしている。
 これまで菅原小春が辿り着いたことのない領域だったのではないかと思う。舞台終了後の菅原は何とかカーテンコールには現れたもののふらふらで憔悴しきった様子。いかにこの日の彼女がエネルギーを最後の一滴まで搾り取るかのように全身全霊で踊ったのかというのが伺えた。これを機に菅原がどんなダンス作品を創作していくのかというのが楽しみな舞台でもあった。

 さて、最初に書いた北村成美だが、アンサンブルの一員として周囲を引っ張っていく役で健在振りを発揮した。このダンスは舞台下手で延々とソロの菅原小春が踊り続けるが、途中から4人のソリスト的なダンサーが出てきて、舞台中央あたりでそれぞれのソロ的なダンスを踊る。さらに中盤以降はBATIKのダンサーらが集団で出てきてこちらは先に出た4人のようにソロの集積ということではなく、群舞として円状の形態を全体として形成しながら、全体として脈動するような動きになっている。実は北村はこのアンサンブルの核をなすような扇の要的な役割を任せられており、ソロではないので一見地味なようではあるが、Noismの初演ではこの部分は井関佐和子が踊ったというから、重要な役割を任せられたといえよう。
 とはいえ、この公演の大きな意義は狭義のコンテンポラリーダンスの外側で活躍してきた優れたダンサーである菅原小春をコンテンポラリーダンスと出会わせたことにあると思う。
観客の一部からこの作品を踊るのにバレエ経験のない菅原小春は作者の黒田や初演の金森譲と比べ、柔軟性やテクニック的な多様性を欠き、不適との指摘を耳にした。私も作品を見始めてからしばらくは動きが意外と直線的なんだなとか、もう少し動きが柔らかいとより映えるのになと思う瞬間はなくはなかった。ところが、この作品においてはそういうことはどうでもいいとまで言えなくても、それほど重要じゃないんだというのが菅原小春の踊りを見続けていると次第に分かってくる。それはある意味、ダンスという形を取った生命の蕩尽といってもいいのだが、踊り続けるということが何度も身体能力の限界にぶち当たり、もがき苦しむなかで立ち現れてくるもの。これこそが黒田自身がいくつもの作品で体現してきたものだし、この作品において菅原が黒田から継承したものなのだ。

公演日時
10/3 Wed 19:00
10/4 Thu 19:00
10/5 Fri 19:00
※上演時間 約40分
※開場は開演の15分前
会 場
草月ホール
※4歳から入場可
日本のコンテンポラリーダンス界を牽引する振付家黒田育世が、Noism05から振付委嘱され2005年に初演した話題作。
異なるダンスシーンを駈け抜けてきたダンサーらによるドリームチームがDance New Air 2018に集結。伝説の作品が蘇る。
振付・演出:黒田育世
音楽・演奏:松本じろ
出演:菅原小春、小出顕太郎、加賀谷香、熊谷拓明、樋浦 瞳、北村成美、奥山ばらば、関 なみこ、BATIK(伊佐千明、大江麻美子、大熊聡美、政岡由衣子)

照明デザイン:森島都絵(株式会社インプレッション)
音響プラン:牛川紀政
音響オペレート:青谷保之
舞台監督:千葉翔太郎

衣装デザイン:山口小夜子

制作:瀧本麻璃英

初演:Noism05「Triple Bill」2005年7月15日 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館<< 

*1:ちなみに寺田みさこは同バレエ団のプリマである。

漫画「ちはやふる」

漫画「ちはやふる

 ネットカフェで漫画「ちはやふる」を現在刊行中の(39)まで読了。「ちはやふる」は実写版映画に加えて、テレビ版のアニメ、原作である漫画があるが、基本的なシチュエーションは共有しながらも物語の筋立てがそれぞれ違う。映画版の終わり方は極めて秀逸だったのではないかと思うが、原作漫画が完結していない状況で映画としては終わらせなければならないという苦慮の果てというのがあったのに違いない。

世田谷美術館パフォーマンス・シリーズ トランス / エントランス vol.16 朗読劇「銀河鉄道の夜」

世田谷美術館パフォーマンス・シリーズ トランス / エントランス vol.16 朗読劇「銀河鉄道の夜

2018年9月29日(土)・30日(日)
東京都 世田谷美術館 エントランス・ホール

出演:古川日出男管啓次郎、小島ケイタニーラブ、柴田元幸

PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」(3回目)@舞浜アンフィシアター

PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」(3回目)@舞浜アンフィシアター

公演日程2018年9月24日(月・休)~2018年10月8日(月・祝)
会場舞浜アンフィシアター
作鈴木聡
演出本広克行
出演百田夏菜子 玉井詩織 高城れに 佐々木彩夏
ももいろクローバーZ
妃海風 シルビア・グラブ

井田彩花 伊藤彩夏 大澤えりな 草野未歩 KUJINKO 小石川茉莉愛 佐藤マリン 滝澤梨吏華
二橋南 MIO 八尋由貴 結木春衣 吉田 藍 大澤信児  加藤貴彦 sho-ta Anna

3回目の観劇。アイドルグループ「HEAVEN」の登場ですっかりこの作品の世界に引き込まれはするが、この舞台の本当の見せ場はこの後にあるかもしれない。
 残されたHEAVENのメンバーの新曲として「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」が披露されるが、 妃海風が出てきて「この世界はカナコの夢の中の世界でもうすぐ消滅する」と伝える。本広監督のイメージではこの辺りの作品構造のモデルは押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」であるということらしい。
 これは本広の確信犯的なもので脚本の鈴木聡に執筆の前に「うる星やつら2 」を見てほしいとの注文をつけたらしい。同作品はループ構造やゲーム的な世界観からゼロ年代の作品に大きな影響を与えているが、大本の「うる星やつら2 」をはじめ多くの作品で導入されているループ構造はここではない。ここで受け継がれているのは「生きることの全ては夢の世界のできごと」というテーマ。もちろん、これは新しいものではなく、元をたどれば「荘子」の一節「胡蝶の夢」からの影響も大きい*1
「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」が面白いのはその世界観に深みのあるディティールはないのだけれど、その世界はいくつかの短いルールによって規定されているような仕掛けになっていることだ。
 このミュージカルは4つの世界から構成されている。一つ目はカナコたち4人がダンス部で翌日に高校ダンスの決勝を迎える世界。ところが冒頭の部分で自動車事故が起こり、次にカナコが気がつくと「天国」に来ている。
 仲間の3人(アヤカ、シオリ、レニ)を探すカナコだが、4人は死んでカナコ以外の3人はすでに生まれ変わってしまったと告げられるが、どうしてもダンスの大会で3人と踊りたいカナコは納得しない。
 逆に天使たちから時空間転送装置を奪って、生まれ変わった3人のところに会いに行く。

*1:舞台の直後のミニ感想戦でミステリ作家の太田忠司さんも「胡蝶の夢」のことを指摘されていた

福留麻里×村社祐太朗 新作公演 『塒出(とやで)』 @横浜STSPOT

福留麻里×村社祐太朗 新作公演 『塒出(とやで)』 @横浜STSPOT

2018年9月28日(金)-9月30日(日)
公演チケット予約



変化は捉えきれない。でもここはその変化を、 言い得ない何かをそれでも言葉にしようとすることを、億劫だけどでも次を考慮して足を置き直す様をやに思い出させる。どう言ってこれを渡そう。母はマッターホーン(のバームクーヘン)の舌触りを父にちゃんと伝えてくれるだろうか。


クレジット:
『塒出(とやで)』
ダンス 福留麻里
テキスト 村社祐太朗(新聞家)

照明 吉本有輝子(真昼)
イラスト 中島あかね
フライヤーデザイン 内田涼
特別協力 急な坂スタジオ
共催 横浜アーツフェスティバル実行委員会
制作・主催 STスポット
Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018 共催
フェスティバル/トーキョー18 連携プログラム

 新聞家の村社祐太朗のテキストをダンサーの福留麻里が踊り(動き)ながら語る。テキストと身体が互いに独立しながら、ある部分ではゆるやかに関連する。この関係のあり方をこの二人の共同作業は互いに妥協なく緻密に考えぬいて創作していると感じさせた。
以前から興味は持っていたのだが、村社祐太朗の作品を見たのはこれが初めてだ。ただ、アフタートークを聞く限りは普段は新聞家においては身体を動かしての身体表現というあまりなくて、テクストをどのように語るのかということにその主眼が置かれているようなので今回の作品はかなり趣きが違うようだ。
 一方、福留麻里の作品の方はほうほう堂時代のデュオ作品から継続的に観劇を続けている。彼女のソロ作品は昨年のソロダンス「抽象的に目を閉じる」@三鷹SCOOL*1をはじめ、最近は自ら語る言語テキストを使うことも多いので、今回の作品は見始めて最初の部分はそういう作品の延長線上の作品として見始めている。
 「ひざが痛いので曲げにくい」などと愚痴めいた言葉を発しながら前をいくらしい人についていくようなところから始まるので、最初はこれまでの福留の作品によくあるように発話の主は福留自身の事かと受け取っていると、しばらくするとそれはおそらく村社祐太朗による言語テキスト(戯曲)であり、福留は自分以外の誰かを演じているのらしいことが分かってくる。
福留の動きについては最初はミニマルかつ抽象的な動きの連鎖という風に見えているのだが、完全に具象的なものではないとしてもセリフが盆踊りのことについて語っていることから一旦「盆踊りのような動き」に見え始めるとそれ以降は「盆踊り」にしか見えない。そうかといって動きと発話の間にはある種の関係性はあるが、動きと発話行為はそれぞれ完全に独立していて、決して普通の演劇作品のように「盆踊りをしている人がしゃべっているところの具象的な描写」とはなっていないのが、舞台表現として刺激的なところだ。
 ダンスのような身体表現を取り入れた演劇や言語テキストや発話を取り入れたダンスはどちらも最近はよくあってもはや珍しいものではないが、本来そこの部分を徹底的に考え抜かねばならない言葉と身体所作の関係性を徹底的に思考した作品は限られている。
 数少ないそういうアーティストの1人がチェルフィッチュ岡田利規であり、代表作「三月の5日間」など初期の超現代口語と言われていた時期の作品もそうではあるが、今回の作品は俳優の動きと身体所作が関連し合いながら、どちらかがどちらかを表象するというような関係になく、互いに別々のものであるというセリフと身体所作の関係性において、作品同士の形態的類似はないけれどチェルフィッチュ「わたしたちは無傷な別人である」(2010年)を連想させるところがあった。 
とはいえ両者の間に形式的類似があるというわけではない。「わたしたちは~」では言語テクストを一種の参照項としてある種の身体所作がそれと呼応するように存在していたが、セリフを発するパフォーマーとそのセリフをもとにして動くパフォーマーは別の人で、ここではセリフと動きの担当者が分かれていた*2
 「塒出(とやで)」にはパフォーマーは福留麻里一人だけしかいないので、セリフと動きの担当者が分かれるということはないが、福留は極力、動きとセリフがくっついてしまわないように互いに独立した存在となるように意識化していくことに力がそそがれていた。
 

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:山縣太一が演じた人はそうではなかった

文化庁委託事業「平成30年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」現代舞踊新進芸術家育成Project2@新国立劇場小ホール

文化庁委託事業「平成30年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」現代舞踊新進芸術家育成Project2@新国立劇場小ホール

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現代舞踊協会の作品というのはあまり親しんできたとはいえないのだが、現在はもうグラハムメソッドとかそういうアメリカのモダンダンス系の舞踊じゃないんだというのが分かった。出演ダンサーは皆いわゆる「踊れる」人たちだが、私の目から見るとその分ほとんど似たような感じに見える。
 とはいえ、いくつか少し面白いなと思える作品もあった。ワンアイデアだが、「いったいどうなっているのか?」と強い印象を残したのが、内田奈央子の「砂の女」。表題から安部公房?と思ったのだが、恐らく関係はないようだ。どういう仕組みかよく分からないけれども髪の毛などに細かい粉状の粒子が仕込まれていて、舞台上で回転したりするとそこからまさに砂塵のように白い煙のように微細な粉が舞い上がる。実際に踊る身体だけでなく、この舞い上がる粉もダンスを踊っているように見えてきて、面白い効果を醸しだしていた。

PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」(2回目)@舞浜アンフィシアター

PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」(2回目)@舞浜アンフィシアター

公演日程2018年9月24日(月・休)~2018年10月8日(月・祝)
会場舞浜アンフィシアター
作鈴木聡
演出本広克行
出演百田夏菜子 玉井詩織 高城れに 佐々木彩夏
ももいろクローバーZ
妃海風 シルビア・グラブ

井田彩花 伊藤彩夏 大澤えりな 草野未歩 KUJINKO 小石川茉莉愛 佐藤マリン 滝澤梨吏華
二橋南 MIO 八尋由貴 結木春衣 吉田 藍 大澤信児  加藤貴彦 sho-ta Anna


 2回目の観劇。この日新たに気がついたことも書き加えていくが、まずは第2幕のことから。第一幕の終わりでカナコがほかの3人を集め、「踊りたい」というので高校ダンスコンクールの会場にいくかと思うと、なぜか何かのオーデション会場に迷い込む。そこは新しいアイドルグループのオーデション会場で、4人はそのオーディションに合格。総勢9人でアイドル「HEAVEN」の活動がスタートする。
こうして第2幕の前半部分はアイドルが演じるアイドルについての物語になっていくのだが、これは不思議といえば不思議である。もちろんアイドルもダンスを踊るのは踊るけれど「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」というぐらいだからこのミュージカルはダンスについての話のはずだったのではないかとの疑問が脳裏をよぎるが、この作品ではその辺りもけっこうアバウトなのだ。
 ただ、「HEAVEN」のライブの場面は「あり得たかもしれないもうひとつのももクロ」を連想させる意味で楽しい。1回目観劇のレビューの冒頭近くにこの作品についていわゆるミュージカルというよりは演劇的な要素を取り入れたライブコンサートの新趣向と書いたが、この書き方にもちょっとした保留事項は必要だろう。というのはこの作品の一番ライブ的な部分はももクロのライブではなくて、HEAVENのライブだからだ。実はこのことはももクロのファン(モノノフ)をかなり当惑させた。
 どうやら本広監督はこの部分でコールをしてもらいたいようで、ツイッターなどでもそのように発言しているのだが、どうもコールというものが分かっていない節があると感じられる。
 というのはこのライブはももクロのライブではなく、あくまでHEAVENのライブである。だから、コールはHEAVENへのコールじゃなくてはいけない。ただ、私の周囲のその辺りに詳しいモノノフに聞いてみてもHEAVENへのコールはしにくいという。実はももクロの過去のライブで似たようなシチュエーションは以前にも何度かあった。ひとつはNHKドラマの「天使とジャンプ」に出てきたアイドルグループTwincle5でこのグループには番組中で緑色の天使、原 江梨子(通称:リコピー)、紫の天使、五十嵐弥生(通称:ドッキー)、ピンクの天使、小野 春乃(通称:のんのん)、黄色の天使、川添 美奈(通称:ミーニャ)と愛称と本名がはっきり分かり、Twincle5のオタクがデパートの屋上ライブでミーニャなどそれぞれのメンバーの名前をコールする場面もあったので、ももクロライブで歌った時にこのコールをコピーして叫んだ豪のものもいたようだが、今回は厳しい。この時、コールした人によればももクロ以外のメンバーにはソロパートがないため、名前コールを入れられないからということだった。
 さらに私自身も別の面から似たようなことを感じた。HEAVENはももクロがそうであったように最大9人だったのが、それぞれの事情で卒業して最後は4人になってしまう。この場合、劇中の4人とももクロは同じ名前なのでももクロメンバーにだけ無理やりコールを入れることは不可能ではないが、それをするとソロパートもらえない不人気メンが順番にやめていくみたいな風になってしまいかねないのだ。
 2回目で初めてオベラグラスでももクロ以外のHEAVENの表情などを眺めることができたのだが、特にダンスではアイドルのプロであるももクロメンバーと遜色なく、そのままアイドルグループのメンバーとも思われるような演技を頑張っていたのに感心させられた。今回は筋立てが分かっていることもあり、最初一緒に踊っていた9人のメンバーのうち5人は卒業してしまうのは分かっているのでなおさら身に詰まされる。それは何も私が杏果推しだったからだけではないと思うがよく分からない。特に最後に抜けることになる2人は「猛烈~」などをももクロメンバーと完全に一体化したフォーメーションを組んで踊るから、ソロパートこそないものの相当以上の負担がかかっているはず、なんてことを考えていたら卒業の場面ではグッとくるものがあった。緑の髪飾りをつけた人が気になったのだが、何という人だろう。
HEAVENはももクロを模したグループだけれどももクロではない。劇中のパラレルワールドというキーワードの通りにHEAVENはももクロメンバー、そして我々がいる世界とは別世界にいる別のアイドルグループである。だから、ミュージカル作品という意味ではももクロのメンバーもそこではそこではそこではHEAVENを演じているし、メンバー以外の女優たちもそうなのだ。そして見ていて興味深いのは初日よりこの日はそうだし、3回目に見た舞台ではさらにそうであるようにそこではHEAVENというグループのそれぞれのリアリティーが日ごとに深まっていって実在のグループ感が増しているように感じられたことだ。
 実のところ、今回HEAVENのももクロ以外のメンバーは実際には短い時間のパフォーマンスでありながら、プロのアイドルであるももクロメンバーに混じって、遜色のないフォーメーションのダンスを踊りこんでおり、HEAVENのダンスは厳密に言えばももクロの振付とは違うとはいえ、元がももクロナンバーゆえに他のアイドルと比べれば相当以上に激しいものであることは間違いない。それを見劣りせずについて行っているというのは(ソロの歌パートがないとはいえ)相当な努力の賜物だと思われ、それゆえにそれぞれの卒業の場面ではグッときてしまったのである。(3回目に続く)

【ももクロMV】ももいろクローバーZ『天国のでたらめ』Music Video

simokitazawa.hatenablog.com

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劇団チョコレートケーキ企画公演「ドキュメンタリー」@下北沢楽園

劇団チョコレートケーキ企画公演「ドキュメンタリー」@下北沢楽園

1985年、日本に新しい病気が姿を現した。その感染経路の一つは『薬』。-

1985年、後天性免疫不全症候群いわゆるAIDSの脅威が
日本の水面下に拡大しつつあった。とある製薬会社の社員の一人が
ジャーナリストに内部告発を行う。そしてジャーナリストと社員は
日本医学界の深い闇を知る・・・

【脚本】古川健

【演出】日澤雄介

【出演】浅井伸治/岡本篤/西尾友樹

【劇場】小劇場 楽園 (世田谷区北沢2-10-18 藤和下北沢ハイタウンB棟 地下1階)

【公演日程】全13ステージ
携帯からの予約はこちらをクリック!



※受付は開演の40分前、開場は開演の30分前
※上演時間は1時間20分~1時間25分を予定
※チケットをご予約のお客様でも、
開演の10分前を過ぎますとお席を確保出来なくなりますので、
お早めのご来場をお願い致します。

【料金】
全席指定席
前売 ¥3,500
当日 ¥3,800
U25  ¥3,000 (25歳以下。要証明書提示。)

【スタッフ】
舞台美術  鎌田朋子
照明    松本大介(松本デザイン室)
音響    佐久間 修一(POCO)
衣装    藤田 友
舞台監督  本郷剛史
宣伝美術  R-design
写真    池村隆司
撮影    神之門 隆広(tran.cs)
Web    ナガヤマドネルケバブ
制作    菅野佐知子
制作協力  塩田友克

企画・製作 一般社団法人 劇団チョコレートケーキ
助成金  芸術文化振興基金助成事業

【協力】
トム・プロジェクト
POCO
tran.cs
松本デザイン室
舞台美術研究工房 六尺堂
蒻崎今日子
(順不同・敬称略)

【お問合せ】
劇団チョコレートケーキ
info@geki-choco.com

ナチズム、イスラエルから朝鮮半島の隠された歴史まで社会や歴史の問題に正面から取り組んできた劇団チョコレートケーキが今回主題に選んだのは薬害AIDSの問題である。これまでも作劇に関わり実際の事実関係を詳しくリサーチしたうえで作品化してきた同劇団だが、今回あえてその表題を「ドキュメンタリー」としたというのはかなり大きな意味合いがあるのではないかと思われた。
この作品はひとりのフリージャーナリストが内部情報を得てグリーン製薬(ミドリ十字)の薬害AIDS事件について取材していく過程でこの会社が旧日本軍731部隊と関係があると分かり、人体実験などを行ったその部隊の倫理的な逸脱がその後の薬害AIDS事件までつながる体質的なものがあったのではないかという話になっている。それは間違いではないのだろうけれどどうやら731部隊の件への作者の関心が強すぎることで、薬害AIDS事件についてのドキュメンタリー演劇としては焦点がボケてしまったきらいがある。
 作中のジャーナリストの取材は内部告発者であるグリーン製薬の社員が脱落してしまうことで、途絶してしまうわけ。舞台は朝日新聞が大学教授ルートの取材で薬害AIDSの患者の存在を明らかにするスクープ記事を打つというところで終わっているのだが、この終わり方も釈然としないところがある。
 11月に上演される予定の次回作「遺産」が本格的に731部隊を取り上げたものらしいので、今回だけではなく、この作品と合わせて評価すべきものなのかもしれない。

PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」@舞浜アンフィシアター

PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」@舞浜アンフィシアター

公演日程2018年9月24日(月・休)~2018年10月8日(月・祝)
会場舞浜アンフィシアター
作鈴木聡
演出本広克行
出演百田夏菜子 玉井詩織 高城れに 佐々木彩夏
ももいろクローバーZ
妃海風 シルビア・グラブ

井田彩花 伊藤彩夏 大澤えりな 草野未歩 KUJINKO 小石川茉莉愛 佐藤マリン 滝澤梨吏華
二橋南 MIO 八尋由貴 結木春衣 吉田 藍 大澤信児  加藤貴彦 sho-ta Anna


ミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」9月24日(月・祝)開幕!
舞台「幕が上がる」は演劇作品としてほかの演劇作品と同じ土俵で比較しても評価に値する作品と言えたけれど、今回はミュージカルとして評価の対象とするのは難しいかもしれない。ただ、例えば中島みゆきの「夜会」のような演劇的な要素を取り入れたライブコンサートの新趣向としては可能性を感じる部分は多々あると感じた。
 実はももクロの楽曲でジュークボックスミュージカルをやると聞いた時点で期待に冷水をかけることになりかねないので、その時点では書かなかったが、「ジュークボックスミュージカルというのはけっこうハードル高いのだが大丈夫だろうか」と感じていた。というのはその時に成功例として紹介したクイーン楽曲を用いたミュージカル「We Will Rock You」の物語の深みのなさと登場する世界の未来観に「なんだ、この薄っぺらさは?」と呆れ返ってしまった記憶があるからだ。
  ただ、そういう感想を初見で持ちながらも「ウィ・ウィル・ロック・ユー(We Will Rock You)」は何度か観劇している。それはクイーンの楽曲の素晴らしさが、フレディ・マーキュリー亡き後、本家のライブに行ったとしても得るのが難しいようなパフォーマンスがそこでなされていたからだ。特にカーテンコールで全キャストにより歌われる「ボヘミアン・ラプソディー」はオペラ部分も全員の生歌唱、生演奏で上演されており、物語的に入れる場所がなかったのでここに入れたが本当はこの曲を生上演するためにこのミュージカルは企画されたのではないのだろうかと思ったほどだった。
 私にとってのミュージカルはまずロンドンで体験した「レ・ミゼラブル」であり、音楽に乗せて演劇的物語の魅力を伝えるものというイメージが強い。それゆえ、日本のオリジナルミュージカルもオンシアター自由劇場の「上海バンスキング」、音楽座の「マドモワゼルモーツァルト」、アトリエ・ダンカン「阿 OKUNI 国」と演劇的な色彩の強いものが好みだ。
今回脚本を担当していた鈴木聡(ラッパ屋)は「阿 OKUNI 国」の脚本を手がけていたことから期待をしていたのだが、鈴木は自分の持つ世界観を強固に作品化するタイプではなく、本広克行のオファーに職人的に答えており、それゆえ例えば平田オリザによる「幕が上がる」のように作家性の強いものとはならず*1、今回の「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」は残念ながらそういう期待に応えるようなものではなかった。
 ただ、ももクロファンに今後のももクロについて期待を高めてくれるコンテンツとしては魅力的なところもある。ひとつのキーワードはパラレルワールド、つまり平行世界だ。ももクロの歌の中ではこれまで輪廻転生を繰り返しながら高次の存在に上りつめていくような世界観が頻出してきていたけれど、今回はダンス部の4人の生徒(レニ、カナコ、シオリ、アヤカ)の交通事故による突然の死から物語は始まるけれど生まれ変わりは未来世に生まれ変わるのではなくて、この宇宙には無数の平行世界があって、死後は魂がその平行世界のどこかに転生するというのだ。
 そして第一幕は転生を拒絶したカナコがかつての仲間を召還して回るという物語となっている。3人は前世の記憶はなくして、互いに出会うことなく別の人生を送っているが、実はそれぞれがまったく異世界というわけではなくて、同じ世界の同じ時代で暮らしている。3人はカナコのことも仲間のこともいっさい記憶にはないのだけれど、カナコが「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」の歌を歌いながら踊り始めるとなぜか振付を覚えていて、4人は一緒に踊りだすのだ。(2回目に続く)
simokitazawa.hatenablog.com

 

*1:マドモワゼルモーツァルト」「阿 OKUNI 国」にはそれぞれ漫画、小説の原作があった

モメラス第4回公演『反復と循環に付随するぼんやりの冒険』

モメラス第4回公演『反復と循環に付随するぼんやりの冒険』

2018年2月に鳥取鳥の劇場プログラム「若手演劇人の作品向上、社会との関係づくり支援事業」の一環として滞在制作した作品を前身とし、新たに加筆修正したモメラスの新作公演。

偽札と真札、虚構と現実。

ニセモノとホンモノを通して見えてくる

"価値" の話。

「あなたにとって、お金とは何ですか?」
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2018年9月20日(木) - 24(月)

作・演出|松村翔子

出演| 安藤真理 井神沙恵 上蓑佳代 海津忠

    黒川武彦 曽田明宏 西山真来 山中志歩 ほか

撮影|黒川武彦

映像|柳生二千翔

音響|牛川紀政

舞台監督|海津忠

宣伝美術|嵯峨ふみか

制作|中村奏太 モメラス

制作助手|波多野伶奈 結城真央

協力|青年団 (株) gina creative management 萩庭真 インタビューに答えてくださった皆様

企画・主催:モメラス