下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

東京デスロック 『Anti Human Education』 @横浜STSPOT

東京デスロック 『Anti Human Education』 @横浜STSPOT

2019年8月31日(土)-9月8日(日)

人はいかに作られるのか、子育て、教育、理想と現実、、、
非人間的と言われる事件の背景やルソー著による近代教育のバイブル『エミール』を参照し、
ゲストによる教育現場の声を交えた「人間らしさ」を検証する抗ヒトパフォーマンス!

構成・演出:多田淳之介
出演:夏目慎也 佐山和泉 伊東歌織 原田つむぎ 松﨑義邦

タイムテーブル/ゲスト:
8月31日(土)15:00 / いしいみちこ(追手門学院高等学校 表現コミュニケーションコース 教諭)
9月01日(日)15:00 / 畑 文子(埼玉県立大宮高等学校 前埼玉県立富士見高等学校 国語科教諭)
9月02日(月)19:00 / 中村陽一(海城中学高等学校 国語科教諭)
9月03日(火)休演日
9月04日(水)19:00/ 齋藤美和(社会福祉法人東香会 しぜんの国保育園 small village園長)
9月05日(木)14:00/ 渡邉武俊(学校法人自由学園 JIYUアフタースクール リーダー)
9月06日(金)19:00/ 和田正宏(寄宿生活塾はじめ塾 塾長)
9月07日(土)14:00/ 齋藤夏菜子(福島県立ふたば未来学園高等学校 教諭)
9月08日(日)14:00/ 平田知之(筑波大学附属駒場中・高等学校 国語科教諭)

料金:(日時指定・全席自由・整理番号付)
一般…予約 3,500円/当日 3,800円
学生…予約 2,000円/当日 2,300円
高校生以下…無料(要予約)

チケット取扱い:
https://481engine.com/rsrv/pc_webform.php?d=e1efba0046&s=&PHPSESSID=896e2a3adbcd76eb428adf81f844cdb9

 今回は教育がテーマ。多田淳之介はダンス作品において全体のコンセプトや構成などは多田が担うが、個々のダンスやパフォーマンスについては出演アーティストに委ねるような作り方を手掛けてきたが、この作品でも最初4人の俳優が登場してまるで本人の体験談だったかのように自らの育てられ方を語るのだが、これは全て事実ではなく、それを演じる出演者が創作したものだという。もちろん、小学生時代は優秀だったのに他人の空気を読むことにばかりかまけているうちにすっかり自分はああいう人間になりたくはないと考えていたようは人間になってしまったという最初の原田つむぎのエピソードはまだ少しは信憑性があったものの次へ次へと進むにつれてエピソードは小中学時代のいじめに復讐しようとする男(夏目)、東大を中退してI Tベンチャーを立ち上げる男(松崎)とそれはもう作り話であって事実ではないだろうということがすぐ分かるものとなっていく。もちろん、構成上そういう内容となっているということであれば個々のエピソードがもっともらしいかどうかはどうでもいいことだ。問題は何を提示しようとしてこういう構成になっているのかがよく分からないことだ。  
 ルソーの「エミール」が下敷きのようなのだが、そこのところは単純に舞台を見ただけではよく分からない。原著の翻訳を読み直してみる必要があるのかもしれないが、過去に見た他の多田作品がそれぞれどういう趣旨で作った作品なのかということはある程度理解できたことを考えれば今回の作品の仕掛けは今一つうまくいってないのかもしれない*1

*1:ただ、ルソーの「エミール」については以前多田が下敷きに使ったプラトン「饗宴」などと異なり、再三読み返したりしている愛読書ともいいがたいし、以前に読んでから何十年もの歳月がたち、記憶も薄れ掛けているので、もう一度読み直してどこまで細かな対応関係があるのかを確かめる必要があるのかもしれない。

劇団あはひ『ソネット』@北千住BUoY

劇団あはひ『ソネット』@北千住BUoY

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2019.08.30(金)- 09.01(日)BUoY (東京公演)
2019.09.14(土)- 09.15(日)みのかも文化の森/美濃加茂市ミュージアム (美濃加茂公演)
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吉田健一は、翻訳は一種の批評である、と書いた。私が演劇において志向しているのは、こんなことかもしれない。つまり、落語や、能や、今回でいえば、シェイクスピアの書き連ねた詩群を、現代の演劇の言語に「翻訳」すること。そしてそれが同時に、それらを批評する言語にもなっていること。
154篇のソネットを通して、彼は誰に対して、なにを語ったのだろうか。
そんなことにはあまり関心がない。
それよりも、テキストそのものが、現代日本に生きる私たちになにを語りかけてくるか。
それだけを見定める。

原典:
『十四行詩抄』W.シェイクスピア著、吉田健一訳(『訳詩集 葡萄酒の色」岩波文庫所収)

上演台本・演出:
大塚健太郎

出演:
上田悠人、東岳澄、古館里奈、松尾敢太郎

 劇団あはひは初観劇。どういう種類の作品を上演するのかの前知識もほとんどなく、シェイクスピアなのに戯曲ではなくて『十四行詩抄(ソネット)』が原作だということを聞き、音楽にのせて詩を群読するようなパフォーマンス的な公演を予測して見にいってみると全然違った。
 早稲田大学のまだ現役の学生たち(3年生)による集団だというが、作演出の大塚健太郎には若さに似合わずセンスのよさを感じ、俳優の演技レベルもかなり高く、最近は低迷気味にみえているかつての名門から出現したひさびさの俊英と感じた。
 形式はモノローグではなく、会話劇である。原作はシェイクスピアの「ソネット」というが吉田健一訳のテクストが原点となっており、ソネットの翻訳以外の吉田健一の著作もこの舞台には引用されて、コラージュされている。冒頭は酒席で偶然顔を会わせた若い男性2人が酒を酌み交わしながら湯豆腐をつまみ、会話を交わす場面から始まるが、これはおそらく、吉田健一のエッセイを下敷きにしている。それに続く場面も下宿での若い男性2人の会話、高校生らしき男女の会話と続くがその話題の端々にはアンドレ・ジッドのこと、オスカー・ワイルドのことなど吉田の著作からとられたらしいモチーフが散りばめられている。
ソネット」で詩の対象とされているという人物が2人いて、それがダーク・レディ(黒い女)とW・H氏なのだが、この舞台ではそのイメージは大学時代に下宿で同居している男と以前付き合っていた女に仮託されている。
 彼らの演劇のスタイル自体は物語の要素は薄く、描かれる世界のディティールが極端に省略されて、俳優だけがそこに置かれるなどポストゼロ年代以降の演劇を経由したものだということが歴然としているが、描かれる対象が妙に古風で現代の学生というよりは時代をタイムスリップしたような学生たちが描かれているのが面白い。
吉田健一の著書なども私のような老人には40年も前の学生時代には読んでいたが、その後再読することもしていないので記憶のなかからは欠落しかけていた。逆にオスカー・ワイルドシェイクスピアは演劇を見始めるよりも以前から愛読していたこともあり、この「ソネット」という作品は個人的になんとも懐かしい記憶を蘇らせるような作品だった。
 舞台を見ながらこういう作品を作るのはどんな古風な文学少年なんだろうかと思いながら舞台を見終わったうえでさらに驚かされたのはTV局プロデューサーの佐久間宣行氏を招いてのアフタートークである。佐久間宣行氏はテレビ東京のプロデューサーだが、最近はラジオDJなど広い活動をしていることで知られていて、私も早見あかり東京03バカリズム劇団ひとりらが出演していた『ウレロ☆未確認少女』以来彼の作品を注目しているのだが、大塚健太郎は何の面識もないのにラジオ放送の出待ちでアフタートークへの参加を直訴するほどの彼の大ファンで笑い(コント)も大好き。結果的に出来上がったものは笑いの要素は皆無だが、この「ソネット」という作品ももともとはコント的な舞台を目指して構想されたというのだ。
 そうした経緯は作品の印象からはかなり思いもよらぬものであるため、そういうことは考えもしなかったがそういう風に言われてみるとこの舞台の人物の組み合わせと登場の形式性はシティーボーイズ東京03のコントと共通点を感じさせられるところもなくもない。終演後、大塚に聞いてみると「この作品にはほとんどないけれど過去の作品には笑いの要素の強い作品もあった」とのことで、作品の様式(スタイル)についてはまだ模索中ということのようだ。
 今回の舞台の印象は「これは演劇ではない」のフェスティバルに参加した先行世代の劇団のような作風を一般の人にも受け入れやすいようにより洗練させたというようなところがあり、これはこれである程度完成されたもののように見えたが、劇団としてはもう少し作風に幅がありそうな様子であり、特に次回公演は本多劇場で予定されているということもありこれは本当に注目だと思った。

葡萄酒の色―吉田健一訳詩集 (1964年)

葡萄酒の色―吉田健一訳詩集 (1964年)

ミュージカル「プレイハウス」(根本宗子作・演出、GANG PARADE出演)@東京芸術劇場プレイハウス

ミュージカル「プレイハウス」(作・演出根本宗子)@東京芸術劇場プレイハウス

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作・演出
根本宗子
音楽
GANG PARADE
出演
GANG PARADE
カミヤサキ/ヤママチミキ/ユメノユア/キャン・GP・マイカ/ユイ・ガ・ドクソン/ココ・パーティン・ココ/
テラシマユウカ/ハルナ・バッ・チーン/月ノウサギ/ナルハワールド)
磯村勇斗
栗原類 鳥越裕貴 富川一人 ブルー&スカイ 猫背椿
楽曲
Wake up Beat! ※書下ろし新曲 /
GANG PARADE / GANG 2 / LAST / Close your eyes / Happy Lucky KiraKira Lucky / sugar /
正しい答えが見つからなくて / RATESHOW / FOUL / Are you kidding?/Jealousy Marionnette /
上演時間
約2時間45分(休憩15分含む)予定
パルコ×根本宗子×GANG PARADEで贈る、
夏フェスを吹き飛ばす勢いのミュージカル!
月刊「根本宗子」の主宰であり、女優、脚本家、作詞家、演出家として広く活躍している根本宗子が、劇団旗揚げから10周年を迎え、遂にパルコとの初タッグで新作舞台を生みだします。彼女が今一番創作意欲を刺激されるという、異色アイドルグループGANG PARADE(通称:ギャンパレ)が舞台初出演、初主演いたします!

<公演特設ページはこちら!>

男性主演のカリスマホスト役にはミュージカル初出演、初主演となる磯村勇斗が決定!ミュージカル作品への参加は初となり、もちろんミュージカル主演も初。これまで見せたことのないカリスマホストを演じ、活躍の幅をさらに広げます。
さらに、昨今は舞台俳優としての活動で脚光を集め、白井晃演出の舞台『春のめざめ』の再演でもさらに評価を高めている栗原類2.5次元舞台で絶大な人気を集め、昨年末の紅白歌合戦にも出場を果たした鳥越裕貴、2011年からノゾエ征爾率いる“劇団はえぎわ”に座員として参加し、ますます活躍の幅を広げている富川一人、劇作家、放送作家、演出家、俳優と八面六臂で活躍するブルー&スカイ、大人計画に所属し、様々な舞台から、テレビや映画など映像作品でも引っ張りだことなっている女優、猫背椿といった、バラエティー豊かなそうそうたるメンバーが集結してくれました。

パルコ×根本宗子×ギャンパレ×磯村勇斗×個性&実力派キャストたちで贈る、夏フェスを吹き飛ばす勢いのミュージカル『プレイハウス』に、どうぞご期待ください!!


8月25日(日)より開幕する、ミュージカル「プレイハウス」劇中使用ミュージカルナンバー発表!

ギャンパレの既存楽曲に加えて、公演の為に、新曲「Wake up Beat!」が制作されました。
作詞は根本宗子、rap詞ヤママチミキ、作曲はギャンパレのサウンドプロデューサーでもある松隈ケンタとのタッグで、作品を最高に盛り上げる一曲です。
尚、新曲「Wake up Beat!」は、ギャンパレが11月13日(水)にリリースするメジャー1stアルバム「LOVE PARADE」へ収録されます。

 根本宗子の劇作品を初めて観劇。ミュージカルなので普段の作品とは感じは異なるのだろうと思うが今回はかなり破天荒なアイドルグループであるGANG PARADEに当てて書いた風な作品で、根本はプロデュース側の注文に合わせて巧みに舞台作りを手掛けたと好印象を持った。
www.youtube.com

 GANG PARADEというアイドルグループについては前身であるP.O.P時代にはアイドルフェスで何度か見たことがあったけれど、BiSHと同じ事務所WACK所属のグループであるという程度の知識がしかなく、GANG PARADEとして見たのはこれが初めてだ。客席が後方だったので個々の顔を確認することは難しかったが、以前から知っていた短髪のカミヤサキやヒロイン役を演じたヤママチミキら何人かのメンバーはかなりの歌唱力があるということは分かった。WACKの所属グループであるからそれも当然といえなくもないが、「かわいい」だけではない奔放さを感じさせるようなイメージがグループにあり、この舞台で新宿歌舞伎町を舞台に全員が風俗嬢の役を演じたように、根本はそれにあて書きしたのではないかと思われた。
 そういう意味ではこういう設定はももクロなどスターダストプラネットの所属グループには難しいだろう*1なども思い、そういう意味での自由さをこの舞台からは感じたし、今回の舞台はこのグループの魅力を存分に引き出していたのではないかと思う。
 楽曲はこの舞台に合わせて作られた新曲「Wake up Beat!」はあるが、他の曲はギャンパレの既存曲をそのまま使用したと思われる。そういう意味ではももクロの「ドゥユ・ワナ・ダンス?」同様にジュースボックスミュージカルといえるのかもしれないが、もともとグループの楽曲を知らなかったので、歌割りなどを含めてどの程度いつも通りなのか、アレンジしていたのかはよく分からない。ただ、ミュージカルとしては普通にオリジナルミュージカルとして見た場合の違和感はなく、楽曲は物語の進行にうまく溶け込んでいた。
 とはいえ、ヒロイン役とその相手役はプラトニックな関係であるという普通に考えればかなり無理な設定になっている。他のメンバーの性的なシーンもリアルに表現することは避けていて、やはりアイドルに対するそれなりの配慮はあるように見えた。
 こんなことを書いたのは根本宗子がももクロファン(モノノフ)であり、本人もももクロと一緒に仕事をしたいという野望を明らかにしているため、これまでももクロが一緒に仕事をしてきた「おじさん」の劇作家・演出家ではない、もっと若い才能と一緒に仕事をしてほしいというモノノフの一部から彼女との仕事を望む声が上がっていたからだ。
 そして結論から言えばこの舞台を見ただけではももクロと一緒に映像はともかく舞台をやるべき作家なのかがまだよく分からなかった。というのはおそらくこの人はかなり器用なタイプの作家で今回の舞台については事務所側からの注文に応じてこうした世界観の作品を制作したのではないかということから、もしももクロと一緒に舞台をやるとすれば今回とはまるで違う雰囲気の舞台となるだろう(こういう役どころはももクロにはできないだろうし、根本宗子もももクロにあてがきをするはず)と想像される。それゆえ、ももクロと一緒にやるとして、その舞台がうまくいくかどうかは未知数というのが現時点での判断だ。

*1:それでも私立恵比寿中学などのメンバーなどは若手男優とのラブシーンなども普通にこなしているが、ももクロは明らかにドラマ制作側にそういうものに対する忖度があると思われる。

オフィスコットーネプロデュース 『さなぎの教室』@下北沢駅前劇場

フィスコットーネプロデュース 『さなぎの教室』@下北沢駅前劇場

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綿貫 凜(プロデューサー)からのメッセージ

第4弾は、大竹野正典作「夜、ナク、鳥」
*1と同様、2002年に発覚した4人の女性看護師による連続保険金殺人事件をモチーフに、九州・宮崎を舞台に、より閉鎖的な人間関係から彼女たちが犯行に至るまで、またその後の心理描写を緻密に描く新作です。(綿貫 凜/プロデューサー)

●8/29~9/9◎駅前劇場
作・演出◇松本哲也
プロデューサー◇綿貫 凜
出演◇佐藤みゆき 吉本菜穂子 今藤洋子 古屋隆太 朝倉伸二 小野健太郎(Studio Life) 新納敏正 松本哲也

〈料金〉各種あり指定席¥4,000~4,500 シード(U25)¥3,000
〈お問い合わせ〉オフィスコットーネ 070-6663-1030

http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/ootakeno10/sanagi.html
 


 福岡県久留米市で起こった複数の看護師の手による連続保険金殺人事件*2が題材。大竹野正典はこの事件をモデルに「夜、ナク、鳥」*3を書いたが、今回は宮崎県出身で普段、宮崎弁による会話劇で知られる小松台東の松本哲也が同じ事件を新作舞台に仕立てた。
 事件の主犯格であるヨシダ役を作演出の松本哲也が自ら演じ忘れがたいインパクトを残した。実はその役を演じるはずだった女優が急遽降板となったための苦肉の策だったらしいのだが、結果的には男である松本がヨシダを演じたことで、彼女の周囲の人間を強引に自分のペースに巻き込んでいくなんともいえない不気味さが浮き彫りになったといえる。いささか変な表現だが災い転じて福をなすの一例だと思う。
 同じ事件をモデルにしているというだけではなく、この「さなぎの教室」は明らかに「夜、ナク、鳥」そのものを下敷きにしている。一番分かりやすいのは死んでいるのに妻のもとに出てくる夫の存在だ。ただ、この部分は大竹野正典版では奈良の鹿を猟銃で撃って食べてしまったなどコミカルではあるが、荒唐無稽な話になっているのが、今回は古屋隆太(青年団)が飄々と演じるからこれが回想シーンなのか、幽霊なのか、妻の妄想なのかが渾然一体となってよく分からなくなっている。
 舞台を宮崎市周辺に設定し直し、宮崎方言をセリフとして多用することなどもあり、現実に起こった事件との距離感は「さなぎの教室」の方が近くみえる。これは実は大竹野の作品は事件の裁判途中の時期で書かれたのに対し、今回は実際の判決がおりた後で執筆しているということもあるかもしれない。ただ、事実と作品との違いについていえば大竹野作品では4人の女性のうちの1人は治験コーディネーターだったのが、今回は全員が元看護師ということになっている。これは4人を看護学校の同級生という設定にする必要があったからかもしれない。
 芝居にはいくつか不可解な謎も残る。気にかかるのは表題がなぜ「さなぎの教室」なのかということである。4人が看護学校の同級生であったという設定が看護師の卵=蝶か蛾になる前のさなぎという意味を持たせているのだとは思うのだが、大竹野の「夜、ナク、鳥」がナイチンゲール(小夜啼鳥)→フローレンス・ナイチンゲール→看護師と分かりやすいの対して、今回の表題は少し考えさせるような内容となっている。看護学校ではさなぎだった4人が羽化した後、蝶になるのか、蛾になるのか、それともそれ以外のもっと醜悪なものになるのかは誰にも分からないという意味なのだろうか。

DULL-COLORED POP第20回本公演「福島3部作・一挙上演」@東京芸術劇場

DULL-COLORED POP第20回本公演「福島3部作・一挙上演」@東京芸術劇場

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 東日本大震災ならびに福島第一原発の事故を巡る問題は単純に原子力発電所を「絶対悪」として描いて糾弾する内容のものが多く、住民の多くが反対しているのに政治の力で原発政策が強行されたからこんなことになったというようなステレオタイプな「反原発劇」が多かった。今回の三部作がそうならなかったのは、 谷賢一は福島県の出身であり、当事者といえなくもないからというだけでなく、やはり平田オリザの薫陶が大きいのではないかと思う。
 DULL-COLORED POP の「1961年:夜に昇る太陽」は全体を3部構成とし、福島と原発の誘致決定から3・11での原発事故発生までの50年の歴史を振り返ることで福島第一原子力発電所の事故がなぜ起こったのかに切り込んでいく。
 実はこの日に三部作のすべてを一挙に観劇する予定だったが、所用が長引き、第1部を観劇することはかなわず、第2部、第3部だけを見ることができた。ただ、第1部は初演時*1に観劇してはおり、ここでは三部作全体について語ることにしたい。第1部は原発双葉町が誘致することになる経緯が原発用地の土地を東京電力に売却することになる家の兄弟たちの目によって語られる。
 第2部で語られるのは福島第一原発が建設・稼働し、15年が経過した1985年の双葉町である。公金の不正支出がきっかけとなり、20年以上務めてきた田中町長が辞任。かつて原発反対派のリーダーとして活動していた穂積忠は町長選挙への出馬を依頼される。しかし、それには条件があってそれはそれまで掲げていた「原発反対」の旗印を捨てて、原発推進派として立候補するということだった。忠は悩んだ末にそれを引き受けるが、町長就任後わずか数カ月にしてそしてチェルノブイリの事故が起こる。
 福島原発の地元自治体である双葉町長がもともと原発反対の市民運動家だったのがなぜ逆に「原発は安全だ」というスローガンをチェルノブイリ後も主張する強固な原発推進派になったのか。これは転向などと表現されることも多いが、谷はこの間の町長側のロジックを原発関係によくあるある立場からの価値判断によらずにできるだけ事実に寄り添う形で提示してみせる。
穂積町長のロジックはそれなりに説得力はあった。それは原発の利権にずぶずぶの候補よりももともと原発反対派であり、原発の危険性についてよく知る穂積が町長になり、立地自治体の長として東京電力原発の安全性を高めることについての意見を具申し続けることが、結果的に原発のリスクをより低減することにつながるという論理で、自民党議員秘書のこの提言を受けて、町長への立候補を決めるのだ。
 ところがチェルノブイリの事故を受けて、今度は原発の即時停止について提言しようとした際にもし原発に危険性が少しでもあるのなら、なぜそのことを知りながら原発を容認し続けていたのかとの問いを受け、結局自らの見解に反して「原発は安全だ」と連呼することしかできなくなってしまうという顛末が描かれている。実は第三部にも東日本大震災の病院に入院している老人として再登場するが、彼は原発のことについてはついに何も語らぬままに死んでいく。それゆえ、これが事実の通りとすればチェルノブイリや福島第一の事故のそれぞれの局面で町長が本当はどんな風に考えていたのかは本当は本人にしか分からないはず。第二部で紹介されたロジックは様々な取材を基に再構成されたものだ。世間によくある見解では原発事故の責任は一義的には事故を起こした東京電力にあるが反対派から原発推進派に転向した双葉町長にも大きな責任があり、それは糾弾すべきことだという「双葉町長悪人説」に組しがちだが、例え町長自身が善意の人であったとしてもそういう個人の資質とは無関係にそういうことになったのではないかとの仮説を劇中で提示。観客それぞれがそれをどのように考えるかというのを問いかけている。

DULL-COLORED POPでは2019年夏、谷賢一が3年間かけて取材・構想・執筆を行う「福島3部作」の一挙上演を行います。

 私の母は福島の生まれで、父は原発で働いた技術者だった。私自身も幼少期を福島で過ごし、あの豊かな自然とのどかな町並みが原風景となっている。
 原発事故はなぜ起きてしまったのか? 政治・経済・地域の問題が複雑に絡まり合い、簡単に答えが出せない問題だ。しかし、だからこそ演劇でなら語れるのではないかと思った。異なる意見を持つ者たちが出会い、言葉を戦わせ合うのが演劇だ。答えを示すことよりも、問いを強く投げかけるのが演劇だ。演劇でなら語れる、「なぜあの事故は起きてしまったのか?」
 2年半に渡る取材成果を三部作・三世代の家族の話として紡ぎ直し、人間のドラマとして福島と原発の歴史を問い直したい。

第一部『1961年:夜に昇る太陽』

 1961年。東京の大学に通う青年・<穂積 孝>は故郷である福島県双葉町へ帰ろうとしていた。「もう町へは帰らない」と告げるために。北へ向かう汽車の中で孝は謎の「先生」と出会う。「日本はこれからどんどん良くなる」、そう語る先生の言葉に孝は共感するが、家族は誰も孝の考えを理解してくれない。そんな中、彼ら一家の知らぬ背景で、町には大きなうねりが押し寄せていた……。
 福島県双葉町の住民たちが原発誘致を決定するまでの数日間を、史実に基づき圧倒的なディテールで描き出したシリーズ第一弾。

出演: 東谷英人、井上裕朗、内田倭史(劇団スポーツ)、大内彩加、大原研二、塚越健一、 宮地洸成(マチルダアパルトマン)、百花亜希(以上DULL-COLORED POP)、阿岐之将一、倉橋愛実

* * *
第二部『1986年:メビウスの輪

 福島第一原発が建設・稼働し、15年が経過した1985年の双葉町。公金の不正支出が問題となり、20年以上に渡って町長を務めてきた田中が電撃辞任した。かつて原発反対派のリーダーとして活動したために議席を失った<穂積 忠>(孝の弟)は、政界から引退しひっそりと暮らしていたが、ある晩、彼の下に2人の男が現れ、説得を始める。「町長選挙に出馬してくれないか、ただし『原発賛成派』として……」。そして1986年、チェルノブイリでは人類未曾有の原発事故が起きようとしていた。
 実在した町長・岩本忠夫氏の人生に取材し、原発立地自治体の抱える苦悩と歪んだ欲望を克明に描き出すシリーズ第二弾。

出演:宮地洸成(マチルダアパルトマン)、百花亜希(以上DULL-COLORED POP)、 岸田研二、木下祐子、椎名一浩、藤川修二(青☆組)、古河耕史

* * *
第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

 2011年3月11日、東北全体を襲った震災は巨大津波を引き起こし、福島原発メルトダウンに追い込んだ。その年末、<孝>と<忠>の弟にあたる<穂積 真>は、地元テレビ局の報道局長として特番製作を指揮していたが、各市町村ごとに全く異なる震災の悲鳴が舞い込み続け、現場には混乱が生じていた。真実を伝えることがマスコミの使命か? ならば今、伝えるべき真実とは一体何か? 被災者の数だけ存在する「真実」を前に、特番スタッフの間で意見が衝突する。そして真は、ある重大な決断を下す……。
 2年半に渡る取材の中で聞き取った数多の「語られたがる言葉たち」を紡ぎ合わせ、震災の真実を問うシリーズ最終章。

出演:東谷英人、井上裕朗、大原研二、佐藤千夏、ホリユウキ(以上 DULL-COLORED POP)、 有田あん(劇団鹿殺し)、柴田美波(文学座)、都築香弥子、春名風花、平吹敦史、森 準人、山本 亘、渡邊りょう

* * *
スタッフ

作・演出:谷賢一 美術:土岐研一 照明:松本大介 音響:佐藤こうじ 衣裳:友好まり子 舞台監督:竹井祐樹 演出助手:美波利奈 宣伝美術:ウザワリカ 制作助手:柿木初美・德永のぞみ・竹内桃子(大阪公演) 制作:小野塚央

【助成】セゾン文化財団 【東京公演】助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、芸術文化振興基金 【大阪公演】芸術文化振興基金 【福島公演】主催:いわき芸術文化交流館アリオス  【東京・大阪公演】主催:合同会社 DULL-COLORED POP
東京公演
日程

8/08(木)~11(日) 第2部上演
8/14(水)~18(日) 第3部上演
8/23(金)~28(水) 第1部~第3部連続上演!

受付は開演の45分前、開場は開演30分前。
8月 8(木) 9(金) 10(土) 11(日)
19時 第2部 19時 第2部 13時 第2部
18時 第2部 13時 第2部
18時 第2部
12(月) 13(火) 14(水) 15(木) 16(金) 17(土) 18(日)
休演日 休演日 19時 第3部 14時 第3部
19時 第3部 19時 第3部 13時 第3部
18時 第3部 13時 第3部
18時 第3部
19(月) 20(火) 21(水) 22(木) 23(金) 24(土) 25(日)
休演日 休演日 休演日 休演日 13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部  13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部 13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部
26(月) 27(火) 28(水)
13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部 13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部 11時 第1部
13時半 第2部
16時 第3部 
終演後イベント

トークディスカッション】
8/9(金)、8/16(金)、8/23(金)19時の回 終了後
公演終了後、作・演出の谷賢一と作品内容について語り合うトークディスカッションを開催します(参加自由)。この作品が皆様にどう響いたか、お聞かせ下さい。

【アフタートーク
8/08(木)19時 永井愛(劇作家・演出家・二兎社主宰)
8/10(土)18時 白井晃(演出家・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)
8/17(土)18時 大森真( 元テレビユー福島報道局長/現飯舘村職員 )
8/25(日)19時 長塚圭史(劇作家・演出家・俳優/阿佐ヶ谷スパイダース
会場:東京芸術劇場シアターイース

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39% ももクロ一座特別公演@明治座(ネタバレレビュー)
19% 少女都市「光の祭典」@こまばアゴラ劇場
6% ももクロ一座特別公演明治座ライブビューイング@イオンシネマ板橋
4% 第2部 演劇とももいろクローバーZ(「アイドル感染拡大」から)
4% 流山児★事務所 創立35周年記念公演第2弾「赤玉★GANGAN~芥川なんぞ、怖くない~」@下北沢ザ・スズナリ
4% 岸田國士戯曲賞受賞作品受賞後初の上演 神里雄大/岡崎藝術座「バルパライソの長い坂をくだる話」@ゲーテ・インスティトゥート東京 東京ドイツ文化センター
3% 「ポストゼロ年代演劇の新潮流  ゲスト山崎彬(悪い芝居)@三鷹SCOOL セミネールin東京
3% DULL-COLORED POP 福島3部作・第1部先行上演『1961年:夜に昇る太陽』@こまばアゴラ劇場
2% DULL-COLORED POP第20回本公演「福島3部作・一挙上演」@東京芸術劇場
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1% HANA’S MELANCHOLY「深奥と夢鬱 The Well」@アトリエ第Q藝術
1% PARCOプロデュース2019『転校生』(女子校版)@紀伊国屋ホール
1% PARCOプロデュース2019『転校生』(男子校版)@紀伊国屋ホール
0% 有安杏果写真展「a song of Hope 〜ヒカリの声〜」@ソニーイメージングギャラリー 銀座
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0% 青年団若手自主企画vol.76 穐山企画「氷の中のミント」@アトリエ春風舎
0% ももクロ夏ライブ観戦レポート 「MomocloMania2019 –ROAD TO 2020- 史上最大のプレ開会式」2日目@埼玉県・メットライフドーム
0% 渡辺源四郎商店第31回公演「背中から四十分」@下北沢ザ・スズナリ

流山児★事務所 創立35周年記念公演第2弾「赤玉★GANGAN~芥川なんぞ、怖くない~」@下北沢ザ・スズナリ

流山児★事務所 創立35周年記念公演第2弾「赤玉★GANGAN~芥川なんぞ、怖くない~」@下北沢ザ・スズナリ

 関東大震災後の若い文学者たちの青春劇。「芥川」の名前が副題に出てくるから、もう少し評伝劇のようなものを予想して見たが、実在の文学者はほとんど登場人物の会話の中の噂話として登場する程度であった。
 戯曲のテキストは会話劇的な色彩が強いが、登場人物の1人を普段は吃音でしかしゃべれないが、歌を歌う時だけは普通にコミュニケーションができるという人物に設定し、彼を中心にした一座が活動する場面や彼が歌で心情を伝えようという設定を頻繁に挟み込むことで舞台がブレヒト的な音楽劇のような様相をまとうようにした工夫があり、それゆえかこの舞台全体からもブレヒトの影響を強く受けた日本のアングラ劇団(例えば黒テント)の香りを感じさせるようなものになっていた。

作:秋之桜子(西瓜糖)
演出:高橋正徳(文学座
芸術監督:流山児祥

2019年
8月21日(水)~27日(火)

明治天皇が亡くなり乃木大将が殉死し「力」の時代が終わりを告げた大正時代、関東大震災があなたや私に傷跡を残していったあと、若い作家たちは次に書くものは何かを探していた。

芥川龍之介菊池寛、人気の島田清次郎…偉大な先輩作家の影に抗いながら、自分の中の嫉妬心に恐怖しながら、家族も友人も恋人も巻き込みながら頭の中のネジをギシギシと巻き上げる。

「真実って何だ?書きたいものって何だ?生きるってなんだ?」

◆出演◆

上田和弘
平野直美
坂井香奈美
武田智弘
山下直哉
山丸莉菜

井村タカオ

今村洋一
中島歩
永澤洋(花組芝居
奥田一平(文学座
玉木惣一郎
山像かおり

◆スタッフ◆
音楽:坂本弘道
振付:北村真実 
美術:乘峯雅寛
照明:沖野隆一
音響:原島正治
衣裳:小林巨和
舞台監督:小林岳郎
演出助手:谷こころ
稽古場スタッフ:春はるか、赤根萌香
制作:米山恭子
宣伝美術:オザワミカ
舞台写真:横田敦史

◆協力◆
フクダ&Co.
文学座
mami dance space
RYU CONNECTION
パシフィックボイス
TEN CARAT
花組芝居
スーパーエキセントリックシアター
(順不同)

◆主催◆
一般社団法人流山児カンパニー

ももクロ一座特別公演明治座ライブビューイング@イオンシネマ板橋

ももクロ一座特別公演明治座ライブビューイング@イオンシネマ板橋

佐々木彩夏 初座長決定!
笑いあり、涙ありの大江戸娯楽活劇と、ヒット曲満載で贈る歌謡ショーの豪華2 本立て!
作:鈴木聡
演出:本広克行
主演:佐々木彩夏
出演:ももいろクローバーZ(百田夏菜子 玉井詩織 高城れに
オラキオ 国広富之 松崎しげる ほか
第一部 座長・佐々木彩夏
大江戸娯楽活劇 『姫はくノ一』
第二部 『ももいろクローバーZ 大いに歌う』(仮)

 明治座で実際に観劇して感じた時の印象を確かめたいとの思いもあってライブビューイングにも出かけることにした。最初の抽選では新宿TOHOシネマズで応募したが落選だったこともあり、その後、なんとかチケットの残っていたイオンシネマ板橋で見ることができたが、東京周辺の会場は当日までにはチケットはすべて完売となっていたようで、イオンシネマ板橋の客席も満席状態だった。
 ライブビューイングで印象が強かったのは座長である佐々木彩夏の殺陣の見事さであった。観劇時の感想では「あーりんはともかく、夏菜子と詩織は身体の切れも鋭く相当なものだと思った」と書いたのだが、この日ライブビューイングで再度確認してみるとあーりんの殺陣もその感触に違いはあるものの、他のメンバーと比べて決して劣るものではなく、特にひとりで戦う場面は主役であるだけ彼女には多いので、「やる」という印象は一層強く残った。
 今回の明治座の舞台でモノノフの間で評価をもっとも上げたのはオラキオではないか。元体操選手の運動神経を生かしたアクションは見事なもので予想以上にかっこよかったし、役柄としても忍者の頭目松崎しげる)の片腕でももクロら新米忍者の指導役という、大抜擢ともいえる役柄をよくこなして、舞台俳優としても時代劇などではかなりいけるのではと思わせるほどのものがあった。
 オラキオの場合はももクロCHANなどに以前から出ているものの、当意即妙の反応などのアドリブが苦手なこともあり、お笑い芸人としてはどうなんだろうという印象が強かったが今回の演技はよかったと思う*1
 明治座の舞台という枠組みではよくできた舞台と思っているし、今回できたせっかくの縁は今回で終わらせずに継続していくべきだと思っている*2 。
 ただ、観劇時の感想にも書いたように明治座公演は本来の意味での演劇ではないと思うし、これが成功したという成果を基にももクロには演劇での次の段階の挑戦を続けてもらいたいと思う。
 ただ、実はこのライブビューイングより前に参加している感想戦で耳にして驚いてしまったことがある。私は今後はさらに劇団☆新感線や宝塚OGなどももクロ同様に集客力のある人たちと一緒にやることで、観客席がモノノフだけで埋まらないような興行をやっていくべきだと思っているのだが、モノノフ以外が客席にいるようになるとその分だけモノノフのチケットが取りにくくなるから、他界する人が増える。だから、よくないと主張する人が少なからずいるというのである。そして、そういう人は演劇なんかはやらずライブをやっていてほしいというのだ。
 私はもともと広い意味では演劇の関係者でもあり、そういうことにも挑戦する集団であるからこそももクロというグループにこれほど興味を惹かれることにもなったので考え方は一般のファンとは違うかもしれない。
 しかし、長く続けていくというももクロの目標を実現するためには今回の明治座の公演のような活動は非常に重要だと考えているのだが、違うのだろうか……*3

*1:もっとも、最後の挨拶の場面の一環として、ももクリの日程、会場について書かれた書状を持って出てくるという場面では書状を受け取って姫に届けることになっていたという設定の殿が先に急遽ももクロメンバーに呼び出されて、舞台に登場していたためつじつまが合わなくなり、アドリブがきかずあたふたとしてしまっていた

*2:この日の次の千秋楽公演で再来年の明治座公演が発表となったようだ。劇場側からもそのよさが評価されての継続であり、これは嬉しいことだと思う。

*3:ミュージカルに挑戦すると、発声法を学ぶことでももクロの歌い方が変わってしまうかもしれないからよくないのではないかとの主張も聞き、それにも唖然とした。

PARCOプロデュース2019『転校生』(男子校版)@紀伊国屋ホール

PARCOプロデュース2019『転校生』(男子校版)@紀伊国屋ホール

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若手俳優発掘プロジェクト・舞台『転校生』!
高校演劇のバイブル、平田オリザの戯曲「転校生」に21世紀に羽ばたく男女42名の俳優たちが集結!!あなたがその最初の目撃者になる。

あらすじ


ある高校の教室。普段と変わりない1日の始まり。他愛のない日常の会話。そこへ、「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」と言う、転校生がやってくる。身近で起きている出来事をとおして、人間の存在の不確かさが浮かび上がる21名の群像劇。

キャスト・スタッフ


脚本:平田オリザ
演出:本広克行

出演

<男子校版>
足立 英、荒澤 守、荒田 至法、飯阪 翔、伊藤 凜、岩井 克之、宇野 拓、梅田 優作、遠藤 龍希、狩野 健斗、河合 拳士朗、河口 勇太朗、佐瀬 清隆、佐藤 雄大、田中 俊介(BOYS AND MEN)、中嶋 海央、長畑 勝己、那須一南、広田 亮平、松本翔太郎、松谷 優輝

 平田オリザ×本広克行による「転校生」の4年ぶりの再演だが、今回はこれまでのような全員女性キャストの「女子校版」に加えて全員男性キャストによる「男子校版」が上演されることになった。実は最初はこちらは見る予定はなかったのだが、「女子校版」を観劇した後、こちらは今回のために平田が新たに脚本の一部を書き換えたもので事実上の新作との情報も得て、急遽当日引換券を予約し見ることにした。
 「転校生」はもともとカフカの「変身」を下敷きにしていて、「突然虫になっていた」という「変身」に対して「ある日、目を覚ますと突然転校生になっていた」という生徒を登場させるのだが、この男子校版ではこれと対比するように「山月記」のある日突然虎になったというエピソードを出して、これを「変身」の虫と対比させた。
 つまり、「変身」の主人公は本人が望んでいないのに突然虫になった、これを不条理というのだが、逆に「山月記」の主人公は虎になることを望んで虎になる。そこには大きな違いがあるようだが、「虫になること」も「虎になること」もどちらも何故なるのかということには理由がない。つまり、不条理であるという話を前提として、私たちが学生であることも、入学してくることも、転校してくることも、転校していくことも、卒業していくことも、生きていることもすべてが不条理であるという構造をある日の教室の様子を描くことで提示していくのだ。
 これはあくまで印象論であって論理的に説明するのは難しいのだが、平田オリザが今回書き換えた(書き加えた)テクストの部分を除いて考えても、世界の不条理性とこの舞台との関係性は男子校版の方がクリアーに感じられた。
 その大きな理由は女子校版の方がそれぞれの登場人物のありよう、あるいは考えていることが複雑に見え、その分全体の構造は複雑に見えるが、男子は転校の悩みについても、そのほかの事柄についてもそれぞれが考えていることがそれほど深みのあることを考えているようには見えないのだが、そうであることで逆に平田が提示したかった世界の縮図のようなことがよりクリアに伝わってくる気がしたのだ。
 

少女都市「光の祭典」@こまばアゴラ劇場

少女都市「光の祭典」@こまばアゴラ劇場

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作・演出:葭本未織

喪失と、復活。‬
‪『光の祭典』は、この夏はじめて東京でお披露目をする葭本未織の代表作です。 ‪私は2才の誕生日に阪神・淡路大震災を被災しました。神戸にはルミナリエという慰霊のお祭りがあり、その終点の東遊園地には「希望の灯り」というけして消えない灯火が揺らめき続けています。 ‪その光がわたしに演劇を創らせ続けています。‬
‪生きてゆくことは喪失と復活の繰り返しです。傷付いた人が再び歩き出せるよう、この演劇を創ります。‬

少女都市(しょうじょとし)
劇作家・葭本未織の主宰する兵庫と東京の2都市で活動する劇団
2016年旗揚げ
2018年アイホール「次世代応援企画 break a leg」 選出
2019年杉並演劇祭優秀賞受賞

出演

青海アキ(8/22(木)19:30の回と8/24(土)18:00の回には出演しません)
加藤広祐
清瀬やえこ
桑野晃輔
齋藤朱海
谷風作
玉垣光彦
中野亜美
宮川まき
葭本未織(8/22(木)19:30の回と8/24(土)18:00の回のみ出演します)

スタッフ

舞台監督:村雲龍一(俳優座
照明プラン:國吉博文
照明オペレーション:磯崎みずほ
音響:秋田雄治
音響オペレーター:佐藤優
舞台美術:乘峯雅寛
劇団制作:谷風作
制作:市村彩子
制作協力:ゴーチ・ブラザーズ
宣伝美術:デザイン太陽と雲
協力:劇団東京ヴォードヴィルショー劇団ひまわり、劇団藤一色、CRG、砂岡事務所、レティクル東京座 (50音順)

 若いが力のある作家だと思う。ただ、正直言って私にとっては苦手なタイプの作品と感じた。芸術(この場合は映画だが)の才能を巡る嫉妬や羨望などの泥々した感情とその渦中での恋愛感情が重なりあって全体としてアマルガムのようになっている。若さの熱量は感じられるが、そのストレートさも苦手感につながったかもしれない。
 大学の映画サークルを描いた作品としてはケラリーノ・サンドロヴィッチの連作「ライフ・アフター・パンクロック」「カメラ≠万年筆」があったがあそこで交わされた映画論や実際に撮られていた映画はある程度、説得力があったが、この作品に出てくる映画は具体性に欠く印象が強い。どういう映画を撮ろうとしているのかの具象的なイメージが今一つ焦点を結ばないのだ。劇中でロベール・ブレッソンの著作である「シネマトグラフ覚書」の名前が何度も登場するが、権威付けに登場するだけでこの著書はどのようなことを論じている著作で彼らの撮影していた映画とどのようにかかわるのかがはっきりしないし、普通だったら映画部の理屈っぽいメンバーが生意気に映画論を戦わせたりもするものだが、彼らの会話にそういうものもない。もちろん、私らが学生時代だった時代と異なり、最近の学生たちは対立を避けることを重視して議論などはしないのかもしれないのだが、他の行動から判断する限りはそういう人たちではなさそう。
 俳優それぞれには主役の清瀬やえこをはじめ熱演で力量も感じた。ただ、こういうラインで物語を展開するならばやはり設定のディテールをもう少し詰めていかないとリアリティーがないし、ラストの説得力もいまひとつと感じてしまう。
 さらにこの作品の根本的な疑問は神戸の震災と復興のシンボルとしてのルミナリエ*1のエピソードと映画をめぐる物語の連関性が弱いことにある。ルミナリエが話全体の主題と重なりあってこないように感じられるのだ。若い作家の作劇によくあることだが、神戸のルミナリエに対する個人の思いが強すぎるのではないか。神戸から離れた東京の観客にはこの上演だけではほとんどルミナリエが実際にどういうものなのかのイメージは伝わらないのではないかと思わざるをえない。

シネマトグラフ覚書―映画監督のノート

シネマトグラフ覚書―映画監督のノート

*1:妻が結婚前に神戸に住んでいたため、何度も行ったことはある。