下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

愛来(アメフラっシ)が難役を好演。舞台『さよならの幕明け』@中野テアトルBONBON

舞台『さよならの幕明け』@中野テアトルBONBON


昨年9月にオンライン朗読劇として一度だけ、上演され配信された作品を改作して舞台劇として上演。表題も「さよならの幕開け」から「さよならの幕明け」に変更された。
アメフラっシの愛来が出演したのが、観劇のきっかけにはなったが、贔屓のアイドルないし女優が出るものならなんでもいいということにはならなくて、特にアイドルについては経験が積みたい初舞台はともかく、演出家、脚本や座組などを考慮して出演すべきだと考えている。それでファンには嫌われるが厳し目の感想を書いてしまうことが多い。
その意味では「さよならの幕明け」はとてもいい舞台だし、愛来の演技もとてもよかったと思う。若い女性キャストを集めた芝居で、高校の演劇部が舞台というとももクロファンならば舞台「幕が上がる」を思い出すかもしれないが、いきなり部の中心的存在で上演する予定であった「ロミオとジュリエット」のジュリエットを演じるはずだった「藤」が自殺してしまいコンクールも辞退せざるえなくなったという重い始まり方をするから、演劇としての方向性はかなり違う。
 とはいえ、舞台自体は重苦しいだけのものではなくて、その「藤」は幽霊として狂言回し的に舞台に出ずっぱりだし、演劇部として最後の舞台「ロミオとジュリエット」をなんとか上演しようと頑張る部長「清水」ら演劇部メンバーの前に正体不明のタピオカの幽霊なる怪現象も起こり、皆が振り回されるなどコミカルに描かれた笑える部分も多く、モチーフの重さの割には娯楽性も高いものに仕上がっている。
「さよならの幕明け」のもうひとつの面白さは後半部分がループ構造になっていて、どういう経路をとっても「ロミジュリ」の幕が開くことなく、「清水」が死んでしまうというバッドエンドが繰り返されることだ。
この手のループ構造はポストゼロ年代の作家によってよく用いられたものでアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイトや「魔法少女まどか☆マギカ」などが有名だが、この「さよならの幕明け」もそうした先行例と類似の構造になっているのだ。
そして、なぜそんなループ現象が起こるのかという謎が、芝居の冒頭からの主筋である「藤」はどうして死んだのかという謎に直結していくことになる。
ネタバレ















この舞台では「ロミオとジュリエット」で主役を演じるはずだった二人が藤と清水で、物語自体は「ロミジュリ」を下敷きにしているわけだけれど、「ロミジュリ」の物語の最後では若き恋人たちは運命のすれ違いで二人とも非業の死を迎えることになる。
そうだとするとロミオとジュリエットに準えられていた二人のうち一人が亡くなっているわけだからと思うと案の定もうひとりの清水もすでに亡くなっていたのだということが分かってくるというのが物語の仕掛けられたトリックなのである。 
愛来の演技はよかった。この座組みの中で顧問の教師と関係を持ち、部費を盗むまでに追い込まれる難役を任されるというのは抜擢ではないか。劇中劇の「ロミオとジュリエット」でジュリエットを演じてみせているのだが、これもよくて、いつか「ロミジュリ」全編を愛来の主演で見てみたいと思わせるだけのものがあった。

出演者
トミタ栞
辻千恵
飯塚理恵
星波
秋田知里
春咲暖
愛来
本田宇蘭
富田保乃歌
天音利梛
伊藤雨音

関連リンク https://sma-stage.com/sayonaranomakuake/
さよならの幕明けがついに舞台上演される

昨年、朗読劇として配信公演を実施し、好評を博しながら終え
舞台化を熱望する声を頂いていた「さよならの幕開け」

今回はタイトルも「さよならの幕明け」へ。

舞台化に向けて新たに脚本を書き下ろし、松森モヘーの
独創的世界観の魅力が倍増された作品に仕上がった。

みなさま、乞うご期待。

あらすじ
11人の部員が集まる、とある女子高の演劇部。その最後の地区大会が中止になった春、
校庭の桜の木の下で部のヒロイン「藤」が死んだ。親友の「清水」はショックに打ちのめされながらも、
部長として「私たちだけの最後の物語」を上演しようと立ち上がる。
次々におこるトラブル!裏切りと友情!おかしな都市伝説にループする稽古!?
ウソとホントが舞台の上で出会うとき、咲かない桜が花をつける…。これは「さよなら」が始まる物語。

simokitazawa.hatenablog.com

考えさせられたヘレナとハーミアの美醜巡る解釈。演劇集団 円『夏の夜の夢』@吉祥寺シアター

演劇集団 円『夏の夜の夢』@吉祥寺シアター

「夏の夜の夢」はシェイクスピアのコメディーではあるのだが、結婚祝いの祝祭劇という側面も強く、笑いの密度という意味ではいまひとつという面はあるかもしれない。
パックの魔法の花によって、4人の恋人たちがアーデンの森を右往左往させられる場面は笑いどころのひとつで特にヘレナには見せ場が多い。過去に見た公演では片桐はいりが演じたヘレナには劇場の椅子から転げ落ちそうになるほど、大笑いさせられた。あるいはロバのボトムと魔法でそれに惚れ込んでしまう女王タイテーニアの場面も演出しだいでは大いに笑えるところだが、ここも今回はオトナシめの演出だった。ここでの笑いは控え目に抑えられ、笑いはベテランで芸達者な役者が集められた職人たちの場面に集約させられていたように思われた。
 「なぜこういう感じなのか」を考えてみた。いささかうがち過ぎの見方かもしれないが、先に挙げたふたつの笑いがともすると容姿のよくない人を揶揄するようなルッキズムにかかわる笑いであって、シェイクスピアの作品ではよくあることだが、現代の世相では「そういうのはあまりよくない」と演出の鈴木勝秀が考えたのかもしれない。
 なぜそう思ったのかというと今回の配役を見るとヘレナとハーミアにどちらもヒロイン役が演じられるような容姿に恵まれた女優を配役していることだ。台詞では「アテネ市民の評判では決してハーミアには劣らない美貌の持ち主だと言われてきた自分だけれど、愛する人の寵愛をハーミアに奪われた後は自分には価値がないと思ってしまい、世間の評判などなんの意味もないという」ような内容をヘレナがモノローグで語る。
 実はこれまで見てきた「夏の夜の夢」の上演ではハーミア=美人、ヘレナ=美人度は落ちるが笑いを起こせる女優というキャスティングになっていることがけっこう多かったため、そういう印象を受けていたが、戯曲を虚心坦懐に読めば実はそうでなくて、この二人は男性のライサンダーとディミトリアスがよく取り違えてしまうようなどちらもどっちという存在と描かれているのに対し、やはりどっちもどっちとして描かれている。ヘレナとハーミアの容姿において優劣をつけるような演出がけっこう多いのはそちらの方が笑いを取れるからではないかと思う。
 事実これまで見た「夏の夜の夢」のヘレナの中でもっとも笑わせてもらったのは先述した片桐はいりのヘレナで、つきまとっては足蹴にされる体当たりの演技がいまでも強く記憶に残っている。
 ただ、先にも述べたようにそういう笑いが現代において望ましい話題なのかについては一考の余地はある。さらに言えばヘレナの容姿について揶揄するような笑いを取るとすべての魔法が解かれた後もディミートリアスだけはヘレナのことを好きになるという魔法が解けないままになっていて、それでめでたしめでたしと言われても釈然としないところがあった。だが、ヘレナとハーミアを交換可能な存在とする演出ではそこのところの不自然さは若干緩和されているかもしれない。

[作]W.シェイクスピア
[翻訳]松岡和子
[上演台本・演出]鈴木勝秀

[出演]
金田明夫 山崎健二 世古陽丸 佐々木睦 上杉陽一

石井英明 大窪晶 吉澤宙彦 玉置祐也 原田大輔 近松孝丞

平野潤也 和田慶史朗 上野直美 吉田久美 野上絵理

平田舞 木原ゆい 清水透湖 庄司悠希 清水一雅子 藤好捺子


*フルート役で出演予定の石原由宇は体調不良の為、降板となりました。代わって原田大輔が出演いたします。

[美術]乘峯雅寛[照明]倉本泰史[音響]井上正弘[衣裳]西原梨恵[音楽]大嶋吾郎
[舞台監督]清水義幸[演出助手]後藤彩乃[ドラマトゥルク]金田明夫
[宣伝デザイン]永瀬祐一[制作]桐戸英二 松田みず穂

主催:演劇集団 円
提携:公益財団法人 武蔵野文化事業団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会

しおこうじとダウンタウンしおこうじバンド 武道館への道。『しおこうじお台場フォーク村』第125夜「節約フォーク村」@フジテレビNEXT

『しおこうじお台場フォーク村』第125夜「節約フォーク村」@フジテレビNEXT

第1部「坂崎幸之助のお台場フォーク村」
第2部「しおこうじとダウンタウンしおこうじバンド 武道館への道」

この日はいつもとは異なり、坂崎幸之助のフォーク黎明(れいめい)期についてと、ギターについてのレクチャーを出演者皆で聴くというフォーク村講座と「しおこうじライブ」の2部構成である。
今回は11月の小泉今日子南野陽子のゲスト回にももクロも招き、「3大アイドル大集合」的なものとして豪華にやり、ももクロがもともと来る予定の12月も例年通り松本隆特集として大々的に展開したいためにできるだけお金を使いたくないという事情があり「節約フォーク村」と命名して、レギュラー陣ののみでの展開となったのだが、音楽番組としては非常に貴重な講義の場となり、若い視聴者などは「金返せ」などと言い出す人が出てくるこもしれないが、こんなことがテレビでできちゃうのもこの番組の魅力。4回に一度ぐらいはこういうのもありかもしれないと思った。  
 台本にあったからだと本人は言うだろうが、この日の最大のハイライトはしおこうじライブの第2部の最後に玉井詩織自身の口で「武道館でまた会いましょう」と言わせたことだ。夏菜子が口にした「新国立競技場」ではないが、言魂(ことだま)というものはあるものだ。口に出したことで実現の可能性は一気に高まったと思える。今年、AYAKARNIVAL、もリフドリフターズとの合同ライブ)、ももいろ歌合戦と3つの企画公演を武道館で開催するように武道館でやること自体のハードルはそんなに高くないかもしれないが、むしろ面倒なのはALFEEが所属するソニーももクロが所属するキングレコードとの調整がうまく行くかどうかかもしれない。そういえばはっぴいえんどが所属レコード会社以外(しかもキングレコード)でソロプロジェクトをスタートさせたという話題を一部で坂崎幸之助が話し始めたのはまさかこの問題への深慮遠謀ではというのはうがった見方すぎるだろうか。
 しおこうじライブでは「Top of the World 」(Carpenters)、「タイム・アフター・タイム 」(シンディ・ローパー)、「名前のない馬」(アメリカ) と3曲連続で披露した英語曲がよかった。負担軽減の狙いもあり、いずれも過去にやった作品の再演ではあるが、一度やったものなら抜群の安定感でパフォーマンスができるんだというのを見事に示して見せた。
 個人的にはセットリストにビートルズ曲も欲しいところだが、武道館でやるならきっと入ってくるとは思う。もっとも、その前にももクロ+ドリフで「のっぽのサリー」を武道館でやるかもしれないが。

M01:山谷ブルース (村長/岡林信康)
M02:BITTERSWEET SAMBA (ダウンタウンしおこうじバンド/Sol Lake)
M03:きみゆき (村長/ももクロ)
M04:霧のソフィア (しおりん/THE ALFEE)
M05:優しい風 (しおこうじ/しおこうじオリジナル)
M06:春の風が吹いていたら (しおこうじ/よしだたくろう南沙織)
M07:Top of the World (しおりん/Carpenters)
M08:タイム・アフター・タイム (しおりん/シンディ・ローパー)
M09:名前のない馬 (しおりん/アメリカ)
M10:メリーアン (しおこうじバンドアカペラ/THE ALFEE)
M11:白い色は恋人の色 (しおこうじ/ベッツィー & クリス)
M12:歌はどこへ行ったの (しおこうじ/しおこうじオリジナル)

ブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』@日本青年館(2回目)

ブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』@日本青年館(2回目)

f:id:simokitazawa:20211007153441j:plain
f:id:simokitazawa:20211007133710j:plain
横山由依の演技について「他の登場人物に比べると一見キャラが地味に見える横山だが、そう見えること自体が物語の仕掛けの一部ゆえにここで横山は誰にもまして困難な役割を振り当てられていることが最後まで見ると初めて分かってくる」などと奥歯にものが挟まったような言い方しかできなかったのだが、公演が終了したのでオープンにしたい。
 すなわち、このブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』という舞台は舞台全体が登場人物の「横山由依」の妄想にすぎない。すべて、他の登場人物も中止になった舞台も現実ではなく、彼女の脳内にしかない妄想だということが最後まで見ていると分かってくるのだ。
横山の役が難役だと書いたのはこの世界が横山の妄想の中の世界だということはこの人物はゲーム的リアリズム論における視点人物であり、ここではそういう展開にならないが、例えこの舞台で描かれた世界がすべて崩壊したとしてもここだけは残るという意味で特権的な位置にあり、それゆえここだけはデフォルメされたゲーム内(妄想内)の人物とは異なり、現実世界とつながりを持つリアリティーを要求されるからだ。
 一方、他の登場人物は作品設定上は視点人物の横山がこういう人と思いこんでいる人物像であり、そこには実際のその人(劇中のその役であり幾分かはそれを演じる本人)とも異なる人物としてデフォルメされて描かれ、それゆえにリアル人物像というよりは漫画やアニメの登場人物のようにキャラ的に演じることが可能な役柄となっている。
 こちらは思い切って演じている本人とは大きな違いがあるため、演じる側としても演じがいがあり、前述したように私立恵比寿中学中山莉子のようにアイドルを演じるのに自分とはまったく違うタイプのアイドル像を演じることができるようになっているのだ。
 根本宗子に私が個人的に注目しているのは彼女のクリエーターとしての才能を高く評価しているということもあるけれど、彼女がももクロを好きで、以前からももクロの舞台をやりたいと公言しているということがある。実は佐々木彩夏を起用したドラマを以前にやったのは見たことがあるのだが、それが非常に面白かったから、ももクロのメンバーをどのように料理するのかが楽しみで見てみたいと思っているのだ。ももクロを相手にするとすれば規模はかなり大きなものにならざるえないので、時期尚早と考えていた時期もあったが、この舞台を見て「時は来た」と思った。

【公演日程】
2021年10月6日(水)〜10月7日(木)(全3公演)
10月6日(水)18:30開演
10月7日(木)14:00開演/18:30開演
【会場】
日本青年館ホール
【キャスト】
横山由依AKB48
中山莉子私立恵比寿中学
江上敬子(ニッチェ)
あっこゴリラ
もも(チャラン・ポ・ランタン
根本宗子

中山莉子(私立恵比寿中学)がわがままアイドル役好演、横山由依も難役に挑戦。ブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』@日本青年館(1回目)

ブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』@日本青年館(1回目)

f:id:simokitazawa:20211007133810j:plain

ブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』は活動を休止していた劇作家・演出家の根本宗子の復帰第1作である。作演出は根本が担当。音楽を小春(チャラン・ポ・ランタン)、演奏をカンカンバルカン楽団、踊りをrikoが担当した。表題はこの舞台の表題であるとともに劇中で演出家が上演を前に失踪、上演中止になったミュージカルの表題でもあるという凝った作りとなっている。
上演中止になったはずのミュージカルの記者発表をなぜかキャスト全員が集められてするという、その記者発表がそのまま舞台として進行していく。舞台上には合計7つの机と椅子が並べられてそのうち6つにはそれぞれキャスト6人の名前が張られている。センターの机には名前はなく白い紙だけが貼られている。いかにもこれからミュージカルの記者会見が開かれますよというような様子。右から3つ目の机には横山由依の名前が張られ、そこに入ってきた横山が座るところから物語がはじまる。横山にはいつかスポットライトが当たり、そこで横山が過去の自分の回想を語り始める。演劇に時折ある独白場面だが、時折挟み込まれるこのシーンが後に意味を持つことが分かってくる。他の登場人物に比べると一見キャラが地味に見える横山だが、そう見えること自体が物語の仕掛けの一部ゆえにここで横山は誰にもまして困難な役割を振り当てられていることが最後まで見ると初めて分かってくる。
この舞台では6人のキャストは自分と同じ名前の人物を演じる。もちろん、演じられるのは作品中の人物でその属性はそれを演じる本人とは異なる(作品中の横山由依はこの作品で舞台デビューするはずだった新進女優の横山由依であるAKB48のアイドル、横山由依ではない)が、作品はキャストに当て書きされているためにそれを演じる本人の属性もいくらかは含んでおり、そのズレと二重性を楽しむことになるという趣向となっている。
感心させられたのは役柄設定やこの舞台のために用意された楽曲がキャストそれぞれの魅力をうまく引き出していることだ。今回のキャストはアイドルの横山由依AKB48)、中山莉子私立恵比寿中学)、お笑いタレントの江上敬子(ニッチェ)、ラッパーのあっこゴリラ、ミュージシャンのもも(チャラン・ポ・ランタン)と全員が演技を専門とする俳優ではないが、普段から自分として観客の前に立つ経験は豊富にある人たちで、それはコロナ禍で稽古期間も限られてしまうなかで、この舞台を成り立たせるための仕掛けであるとともに結果としてここでそれぞれが演じている役柄がどこまでは演技によって構築されているものか、それとも素のその人に近いかをあいまいにすることで、それぞれの個性を生かしていく狙いがあるのではないか。
おそらく、それぞれ役へのアプローチはひとりひとり異なる。役と本人の距離感も異なるが、そういう中でわがままアイドルの役を魅力的に演じて、コミックリリーフ的役割をうまく演じていた中山莉子の演技力が光った。私は私立恵比寿中学エビ中)のファンというほどではないが、それでも映像やライブで中山莉子を何度も見ているが、横山由依などほかのキャストのファンで中山莉子のことをこういうキャラだと勘違いしてしまう人もいるかもしれないが、もちろん、ここでの中山莉子は自分とはかなり違う「わがままアイドル中山莉子」をかなりデフォルメして戯画的に演じており、結果的に出てきたキャラが本人とは違うが魅力的なキャラクターであるところに演技の才能を感じた。ミュージカルで歌うはずだったというソロ曲も歌うが、それもエビ中中山莉子が歌いそうにないイメージの楽曲で、そういうところもこの舞台が面白いところだ。
驚かされたのはニッチェ、江上敬子の歌唱力である。本職のミュージカル俳優にもひけをとらないようなパワフルな歌唱を披露、このレベルなら例えば「レ・ミゼラブル」のテナルディエ夫人なども適役に思え、今後ミュージカル女優としても活躍が期待できるのではないか。
あっこゴリラ、もも(チャラン・ポ・ランタン)、根本宗子の3人も歌うまいのは以前から知っていたが、歌においてもあっこゴリラにはもちろんラップを歌わせるなどそれぞれの魅力がうまく伝わるような構成となっていた。
実はこの作品にはちょっとした構造上の仕掛けがあり、横山由依はそのためにかなり難しい役割を担わされている。もともと、相当以上に歌える人だということは知ってはいたが、役柄上横山だけは自分とはかなり違う人物像を演じ、それでいてそれを自然に演じる必要があるのだけれど、その難しいタスクを非常にうまくこなしていたのではないだろうか。AKB48からの卒業を発表、その後どんな仕事を主軸にしていくつもりなのかは分からないが、もしその中に女優が入るのだとしたらいいスタートを切ったといえるかもしれない。

【公演日程】
2021年10月6日(水)〜10月7日(木)(全3公演)
10月6日(水)18:30開演
10月7日(木)14:00開演/18:30開演
【会場】
日本青年館ホール
【キャスト】
横山由依AKB48
中山莉子私立恵比寿中学
江上敬子(ニッチェ)
あっこゴリラ
もも(チャラン・ポ・ランタン
根本宗子

堀くるみ(exたこ虹)が初舞台。歌も披露する破格のデビュー。『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~ 』@Streaming+(配信)

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~ 』@Streaming+(配信)

 関西らしい喜劇で良く出来ていたと思う。配信チケットを購入してまで見たのは堀くるみ(exたこやきレインボー)の初舞台というのがあったからだが、生で見るのに比べると集中するのは難しい配信でも最後まで理屈抜きに楽しむことができた。
 演劇評論家としてどうこういうべき種類の演劇ではないけれど、初舞台の堀くるみは単なる舞台経験という以上のいいスタートを切ることが出来た。劇中のリアクションなどで随所に勘のいいところを見せて、座長格の兵動大樹桂吉弥 をはじめ、先輩の俳優らにも好感を持たれて可愛がられているのが、配信の映像からさえ伝わってきたし、すべての回で行われていたかどうかは不明だが、千秋楽ではスペシャルショーとして施鐘泰JONTE)と劇中のカラオケ場面でも歌われたアン・ルイス「六本木心中」をフルコーラスで披露。舞台の主題歌のような楽曲である「未来図の僕」をデュエットで歌い、歌がうまいところを見せることもできた。

www.youtube.com
出演はオーディションによると聞いているのだが、アイドルとしての実績があるにせよ、これはかなり破格の扱いではないかと思う。演出の木村淳が関西テレビのドラマに関わっている人だというのもおそらく今後にとってはかなり大きな意味を持ってきそう。堀くるみは実はテレビバラエティーではABCテレビおはよう朝日土曜日です」で「なないろリサーチ!それどーなん?」という担当コーナーを持ち、テレビ大阪とも長年続いたたこ虹の冠番組を通じての縁があるけれど、堀くるみ・彩木咲良の二人が出演する松竹座「大阪環状線 大正駅」の演出もやはり関西テレビ系の人だということを考えればこれは明らかにマネージャーの番長(東野さん)が関テレのドラマでの役獲得を狙いに行っているという風に思えてくるが、そう思うのは考えすぎだろうか。

2021年10月3日(日)
兵庫県 アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター) 中ホール

原案:「本日、家を買います。」
作:古家和尚
原案・演出・プロデュース:木村淳
出演:兵動大樹桂吉弥 / 佐藤太一郎、施鐘泰JONTE)、近藤頌利、堀くるみ、安藤夢叶 / 未知やすえ

ある意味「決定版」。 最新形と初期曲組み合わせたセットリスト。週末ヒロインももいろクローバーZ LIVE「origin」@明治座(東京都民限定ライブ)

週末ヒロインももいろクローバーZ LIVE「origin」@明治座(東京都民限定ライブ)

f:id:simokitazawa:20211004171607j:plain

セットリスト(曲順)は前日見たニコニコ生放送の配信回と同じ。今回は5回の公演ですべて同じ内容だったようだが、そのせいもあって、最終日の4日はダンスも歌も非常に完成度の高いライブであった。これはももクロ自身のパフォーマンスもそうなのだが、スタッフワークとの息もぴったり合っていた感覚もあり、今回は演劇公演が中止に追い込まれたことでの急きょの対応ではあったが、コロナ禍の終息した後も年に1回ぐらいはやってほしいと思った。特に今回は直前の配信ライブを佐々木敦規、百田夏菜子のソロコンを本広克行が手掛けているため、演出を誰が手掛けたのかは分からないのだが、劇場なら照明効果や映像なども存分に使えるので、「5TH DIMENSION」ツアーや「東京キネマ倶楽部」のライブのような凝った演出も可能なわけで、おとなになったももクロの良さを前面に出していくには劇場公演というのはよい選択肢ではないかと思ったのである*1
 明治座でのライブの感想はどうかというとまず何と言ってもスタジアムライブやアリーナでのライブではありえないぐらい客席からの距離が近い。演劇公演的なものやそれに付随したライブではこれまでもあったが、私が座っていた12列目でも肉眼でメンバーの表情がはっきりと見え、同時にダンスのフォーメーションや踊りの時のディティールもはっきり見えたのが素晴らしかった。
 楽曲的にいうと今回のライブの目玉は「Survival of the Fittest -interlude-」からの「BLAST!」だったと思う。「Survival of the Fittest -interlude-」ではセリフを読み上げるのだが、はっきりとセリフのニュアンスまで聴き取ることができるのは劇場だからこそであろう。「Survival of the Fittest -interlude-」の部分は日替わりでそこからすぐ続く「BLAST!」の冒頭部分を担当する百田夏菜子が入ってないものの、残りの3人が日替わりで務めたようだが、この日の担当は高城れに。私の耳にはうまくいったように聴こえたが、本人は満足できる出来ばえではなかったようで、アンコール後のMCコーナーで再び挑戦するというくだりがあり、何とかうまくいった後、舞台上で大号泣するというハプニングシーンもあった。
「Survival of the Fittest -interlude-」は通常録音で挿入されるので、生でこれをやったのはおそらく初めて。「BLAST!」のパフォーマンス自体もいつ以来かすぐ思い出せないぐらい最近はやっていないと思う。ただ、五輪を連想させる部分が多いため、メットライフドームの夏ライブが当初の予定通り五輪開催と重なる日程で行われればやる予定で準備はしていたのかもしれない。
 冒頭で披露された「Moon Revenge」はセーラームーン曲のカバーだが、ももクロ版として収録はしているものの、ライブで披露されるのはあーりんがソロコンでひとりで歌ってはいるものの大阪城ホールの「女祭り」以来かもしれない。ということになるともちろんももクロの生パフォーマンスを見たのは初めてということになる。「いつか君が」も随分ひさびさなのではないか。あーりんのアイデアだったらしいが、元々コールが重要な曲構成にmiwaが作っていた曲なため、メンバーがセルフコールを入れていたのが可愛かった。
最近は新しいアルバムを出すたびに楽曲が増えてきたこともあり、なかなかやられるチャンスがない隠れた名曲が増えてきてしまっているという事情もあり、配信ライブで披露した「Neo Stargate」や「Blast!」などは来年初めに新アルバムが発売される前に一度やっておきたいというのがあったかもしれない。
下に先月行われた配信ライブ「The LIVE ~諦めない夏~in ABEMA」のセットリストを掲載したのだが、興味深いのはほとんど重なりがないセトリの中で「月色Chainon」「Re:Story」の2曲だけがどちらにも入っていること。もうひとつは従来ならももクロの代名詞的存在で頻繁にやられていた「行くぜっ!怪盗少女」がどちらにも入っていないことだ。今回の客層がほぼファンクラブ会員に限られており、おなじみの曲でわざわざアピールする必要がないこともあるが、今回のセットリストには「怪盗」や「走れ!」を入れなくても新旧曲をバランスよく組み合わせた不自然じゃないセットリストを組むことができることを示してみせたのに加え、初期曲を取り混ぜながらも「大人のももクロ」を感じさせるももクロの最新形を見せたいとの思いもあったのかもしれない。

ももクロorigin10月4日夜公演セトリ
Overture
Moon Revenge
Survival of the Fittest -interlude-
BLAST!
ツヨクツヨク
MC自己紹介
Rock The Boat
Re:Story
いつか君が
MC
stay gold
月色Chainon
天国のでたらめ
EN
Z伝説
オレンジノート
MC質問告知コーナー
スターダストセレナーデ

公演日:
10/2(土)
1部:13:00 / 14:00(15:30終演予定)
2部:17:30 / 18:30(20:00終演予定)
10/3(日)
1部:13:00 / 14:00(15:30終演予定)
2部:17:30 / 18:30(20:00終演予定)
10/4(月)
17:00 / 18:00(19:30終演予定)

The LIVE ~諦めない夏~in ABEMA
M1. レディ・メイ
M2. 愛を継ぐもの
M3. ロードショー
MC
M4. On Your Mark
M5. 走れ!
M6. 月色Chainon
M7. Neo STARGATE
MC
M8. ニッポン笑顔百景
M9. ザ・ゴールデン・ヒストリー
M10. Re:Story
ANC1. 吼えろ
ANC2. PLAY!
ANC3. モノクロデッサン
END

live.nicovideo.jp

*1:ただ、明治座は演劇公演はともかく、ライブ会場としてはキャパが小さすぎるから、もう少し大きな劇場でないと難しいかもしれない。ただ、正常時のフルキャパならば1368人なので、29ステージなら4万人の動員が可能になる。

『TOKYO IDOL FESTIVAL 2021』@お台場・青海周辺エリア(3日目)

TOKYO IDOL FESTIVAL 2021』@お台場・青海周辺エリア(3日目)

超ときめき宣伝部(断念)
ukka ◎
CROWN POP SKYSTAGE◎
CROWN POP
日向坂46
=LOVE
フィロソフィーのダンス
大阪☆春夏秋冬

日程:2021年10月1日(金)、2日(土)、3日(日)
会場:お台場・青海周辺エリア
主催:TOKYO IDOL PROJECT
公式サイト:https://official.idolfes.com/

週末ヒロインももいろクローバーZ LIVE「origin」@明治座(配信)

週末ヒロインももいろクローバーZ LIVE「origin」@明治座(配信)

live.nicovideo.jp

公演日:
10/2(土)
1部:13:00 / 14:00(15:30終演予定)
2部:17:30 / 18:30(20:00終演予定)
10/3(日)
1部:13:00 / 14:00(15:30終演予定)
2部:17:30 / 18:30(20:00終演予定)
10/4(月)
17:00 / 18:00(19:30終演予定)

スタイリッシュな演出魅力的だが、今回は筋立てにやや疑問も 幻灯劇場「盲年」@こまばアゴラ劇場

幻灯劇場「盲年」@こまばアゴラ劇場

f:id:simokitazawa:20211001213836j:plain
幻灯劇場は以前から気にはなっていたが、観劇したのは初めてである。初観劇の印象はこういう感じなのかであった。映像の使い方やダンスの入れ方、空間づかいなどはスタイリッシュで面白いのだが、「盲年」という作品は物語の筋立てがどうも不自然。「なぜこんな風なのか」と不思議に思い、思案してしまったが、俊徳丸を下敷きにしているということのようだ。符には落ちたが、なぜ俊徳丸なのかがどうもピンとはこない。三島由紀夫の「近代能楽集」なのか、あるいは蜷川幸雄演出の「俊徳丸」なのか。どうも分からないが、その辺りがこの古典に挑戦したきっかけなのかもしれない。 
 他にも女刑事と容疑者のやりとりがいかにもつかこうへいの「熱海殺人事件」を連想させたり、この劇作家・演出家は演劇が好きなんだなと思わせるところがあり、彼と同世代の東京の若手作家に既存の演劇に懐疑的な作風の作家が多いのと比較すると明らかに違いがあるのが興味深い。
 ただ、今回見た作品「盲年」は古典の下敷きがあるということを差し引いても正直言って現代劇としてはリアリティーに欠いた筋立てだったということは否定できない。妻の不倫に対する代償だとしても自分の息子の眼を抉って盲目にしてしまうという筋立ては歌舞伎やギリシア悲劇ならともかく、実際にあった出来事とは思いにくいし、観客としても実感を持ってのリアルな受容は困難なのではないかとどうしても思ってしまう。ミステリのトリックとしてならともかく震災のどさくさに紛れて人を殺したと言い張る殺人容疑者というのも現代劇としては違和感を感じるし、こうした「普通」を超えた悲劇的な出来事を力技で観客に納得させるためにはギリシア悲劇シェイクスピア劇のような強固な様式性が必要なのではないか。
 ダンスや映像の使い方など個別演出的要素には斬新さがあると思うので、それが表現される演劇の内容と嚙み合った時には相当以上の傑作が生まれるかもしれないという可能性は十分に感じるため別の作品も見てみたいと感じた。

作・演出:藤井颯太郎 振付:本城祐哉・村上亮太朗

【あらすじ】
地下鉄のホームで電車を待っていた裁判官・徳丸透(トクマル トオル)は、15年前に捨てた息子・春(シュン)が向かいのホームに立っているのをみつける。春の眼が見えないことに気が付いた透は、赤の他人を装い近づき、「一緒に住まないか」と誘う。一度破綻した親子の、二人暮らしが再びはじまる――。


【作家のコメント】
この物語を書いているとき、少し自分が怖くなった。紛れもなく自分から出てきたはずの登場人物や言葉が、自分の中の倫理観を力強く壊していくのを感じた。それでも、この物語に登場する全員が、いとおしく、身近に感じられたので、怖がりながら最後まで書き続けた。ホラーではありません。あなたの身近な人のお話です。
藤井颯太郎

幻灯劇場
映像作家や俳優、ダンサー、写真家などジャンルを超えた作家が集まり、「祈り」と「遊び」をテーマに創作をする演劇集団。2017年文化庁文化交流事業として大韓民国演劇祭へ招致され『56db』を製作、上演。韓国紙にて「息が止まる、沈黙のサーカス」と評され高い評価を得るなど、国内外で挑戦的な作品を発表し続けている。
日本の演劇シーンで活躍する人材を育てることを目的に京都に新設された『U30支援プログラム』に採択され、2018年ー2022年まで京都府立文化芸術会館などと協働しながら作品を発表していく。




出演
村上亮太朗、橘カレン、松本真依、鳩川七海、本城祐哉、谷風作、藤井颯太郎

スタッフ
衣裳 杉山沙織
音響 三橋琢
映像 月原康智(ジョッガ)
美術 野村善文
照明 渡辺佳奈
舞台監督 浜村修司
宣伝美術 三牧広宜・橘カレン
宣材撮影 松本真依
制作統括 谷風作
制作協力 黒澤たける・谷口祐
機材協力 Kyoto.lighting
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力:蜂巣もも(アゴラ企画)