下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ニットキャップシアター「カレーと村民」@こまばアゴラ劇場

ニットキャップシアター「カレーと村民」@こまばアゴラ劇場

作・演出:ごまのはえ
時代は1905年夏。
場所は大阪近郊、吹田村にある庄屋屋敷「浜家」の玄関。
浜家の家族や奉公人を中心に、屋敷に出入りする村人や、各地を回る薬屋などの姿を活写する。
その背景には日露戦争を機に国民国家へ変貌する日本の姿があった――

2021年1月、5月とこまばアゴラ劇場にて上演予定だったが緊急事態宣言発出に伴い上演中止。
2022年、夏、満を持しての東京公演!!

ニットキャップシアター
芝居/語り/ダンス/民族楽器の生演奏/歌/仮面や布などのマジカルグッズ……様々な舞台表現と「言葉」とを組み合わせ、イマジネーションあふれる作品を生み出す京都の劇団。『ガラパゴスエンターテインメント』という言葉を大事に創作を続けている。劇団名はムーンライダーズの楽曲「ニットキャップマン」より


2021年3月 京都公演(撮影 脇田友)

出演
門脇俊輔
澤村喜一郎
仲谷萌
池川タカキヨ
西村貴治
日詰千栄(はひふのか)
福山俊朗(はひふのか、syubiro theater)
亀井妙子(兵庫県立ピッコロ劇団)
越賀はなこ
山下多恵子
山下あかり(MC企画)
益田萠
大路絢か

スタッフ
舞台監督|河村都(華裏)
舞台美術|西田聖
照明|葛西健一
照明オペレート|久津美太地(Baobab)
音響|三橋琢
衣裳|清川敦子(atm)、木村恵子
ヘアメイク|松村妙子、山田美香
小道具|仲谷萌
演出助手|池川タカキヨ
宣伝美術|山口良太(slowcamp)
絵|竹内まりの
スチール写真|脇田友
宣伝映像|飯阪宗麻(NOLCA SOLCA Film)
制作|門脇俊輔、高原綾子、澤村喜一郎、高田晴菜、山口ちはる

芸術総監督:平田オリザ
技術協力:黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力:蜂巣もも(アゴラ企画)

短編連続上演「〇六〇〇猶二人生存ス(2014年初演)」「その頬、熱線に焼かれ(2015年外部初演)」@東京芸術劇場

短編連続上演「〇六〇〇猶二人生存ス(2014年初演)」「その頬、熱線に焼かれ(2015年外部初演)」@東京芸術劇場

2014年に外部イベントで上演した人間魚雷に命を捧げた男達を描いた短編『〇六〇〇猶二人生存ス』と
2015年、on7に書き下ろしした実在する原爆乙女を題材に描いた『その頬、熱線に焼かれ』(今回は1時間にリライトしたもの)を連続上演。

【出演】長期ワークショップメンバー
『〇六〇〇猶二人生存ス』
い組 大知/二村仁弥/谷口継夏
ろ組 今井公平/宮崎柊太/谷口継夏
は組 松永治樹/田中周平/谷口継夏
『その頬、熱線に焼かれ』
い組・ろ組 椎木美月/蓑輪みき/本宮真緒/谷川清夏/中野亜美/中神真智子/柳原実和
は組 椎木美月/蓑輪みき/本宮真緒/谷川清夏/永田理那/宇田奈々絵/麗乃
8月 25(木) 26(金)
14:00 ろ組
18:30 い組 は組
※各作品約1時間ずつの2本連続上演
※長期ワークショップとは…劇団チョコレートケーキがコロナ禍において若い演劇人同士が出会い繋がれる場所を目指して18歳〜25歳を限定に募集し2022年1月より活動期限を設けず行なっているワークショップのこと。

劇団チョコレートケーキ「無畏」@東京芸術劇場(2020年初演)

劇団チョコレートケーキ「無畏」@東京芸術劇場(2020年初演)


誰よりも日中友好を願いながら戦犯として葬られた陸軍大将、松井石根(林竜三)の生涯を描くことで、なぜ南京事件(中国側からは南京大虐殺)が引き起こされたかの謎に迫った作品である。松井を中心にその周辺の人物に起こった南京事件の前後の出来事が回想によって描かれるが、それをつなぐ蝶番のような役目を果たしているのが、極東国際軍事裁判東京裁判)で松井の弁護人となった人物(西尾友樹)。この物語は単に過去を回想するような形式だけではなく、戦犯の被疑者となった松井に弁護人が当時の状況を聞きただす形で進行していく。
南京事件は虐殺事件ではあるが、それはアウシュビッツのような指導者による確信犯としての戦争犯罪ではなく、戦場での兵士たちの偶発的な暴走による犯罪であった。事件は最初にそのように説明されるが、弁護士はそれに対しさらにその先に突っ込んで問いただしていく。南京への進軍で兵士たちが中国人殺戮を行ったのは上官の命令はなかったが、上海占領後、当初の予定に反して日本本土への凱旋帰国もかなわずそのまま南京に転進させられたことによる兵士らの士気の低下、規律の低下を招き、それが残虐行為につながった。
 この間、指揮官としては綱紀粛正を再三にわたって命じたこともあり、当初は自分には直接の責任はないが、隊の最高責任者としては責任は免れないと認める松井を弁護人はさらなる詰問で追及していく。軍の規律が乱れたのは上海占領の後、物資の補給の目処がたつまで上海にとどまれとの大本営からの指示を無視して、食料等を現地調達することを前提として、補給路の確保を待たずに南京への進軍を進めたのは誰か。それは松井だった。そして、松井には当時上海占領の功績を鑑みて、功労のため現地最高司令官の任を解き、本土への帰任をうながす意見も中央では起こっていたことから、そういう思惑を鑑みて、一刻も早く南京の蔣介石を攻略するという強い動機があったのではないかと論じていく。

松井石根 孫文蒋介石と親交を結び誰よりも日中友好を願いながら戦犯として葬られた陸軍大将 その男の悔恨と最期の日々

【出演】
浅井伸治、岡本 篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)
今里 真(ファザーズコーポレーション)/近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)/原口健太郎(劇団桟敷童子)/林 竜三/渡邊りょう

『しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村』第135夜「武部聡志ときくちから」@フジテレビNEXT

『しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村』第135夜「武部聡志ときくちから」@フジテレビNEXT


THE ALFEEのバンドカバーで登場した「そこに鳴る」、スタプラからの2組(TEAM SHACHI・ばってん少女隊)、初代音楽監督武部聡志の降臨、ゲストシンガーに川崎鷹也と充実のラインナップだった。
とはいえ、やはり圧巻と言えたのはTEAM SHACHIによる「幻夜祭」のカバーであろう。TEAM SHACHIはスタプラファンの間でもその実力が軽く見られている感があると思っているのだが、最近実力派のアイドルとして一目置かれている感があるばってん少女隊と比べても歌の実力は抜けているのではないかというのを変拍子で複雑な3声のハーモニーを完全にこなしたパフォーマンスに驚かされた。伴奏も武部聡志によるピアノ演奏と坂崎幸之助によるアコースティックギターのみで、ほとんどプログレッシブロックのような曲想の原曲を宗本康兵がアコースティックアレンジしたのだが、この一連の流れが明らかに規格外のもので、CSの一番組で公開するものとしてはどうかしている(もちろんいい意味で)と思ったのだ。

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前回からTHE ALFEEをカバーしているバンドのコーナーができたのであるが、今回は大阪から3ピースバンドの「そこに鳴る」が登場、ソリッドかつパワフルな演奏で「メリーアン」を披露。オリジナル曲の「掌で踊る」と2曲を披露した。初めて見たバンドだが、高度なテクニックでパフォーマンスを展開、THE ALFEEファンをうならせる内容だったのではないか。
 TEAMSHACHIはカバー曲「幻夜祭」以外もよかった。最近の新曲では「rainbow」を歌った。虹のことはAMEFIRASSHIや解散したたこ虹も再三にわたって歌っており、スタダらしい楽曲といえると思う。

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セットリスト
M01:ジェネレーション・ダイナマイト (しおりん/THE ALFEE)
M02:メリーアン (そこに鳴るTHE ALFEE)
M03:掌で踊る (そこに鳴るそこに鳴る)
M04:無敵のビーナス (ばってん少女隊ばってん少女隊)
M05:Dancer in the night (ばってん少女隊ばってん少女隊)
M06:おっしょい! (ばってん少女隊&TEAM SHACHI/ばってん少女隊)
M07:抱きしめてアンセム (TEAM SHACHI&ばってん少女隊/TEAM SHACHI)
M08:Rainbow (TEAM SHACHI/TEAM SHACHI)
M09:シャンプーハット (TEAM SHACHI/TEAM SHACHI)
M10:幻夜祭 (TEAM SHACHI/THE ALFEE)
M11:魔法の絨毯 (川崎鷹也/川崎鷹也)
M12:元気を出して (川崎鷹也/川崎鷹也)
M13:イムジン河 (村長&川崎鷹也/ザ・フォーク・クルセダーズ)
M14:Castle of truth (武部聡志&へいへい)
M15:月虹 -ZZver.- (村長&しおりん/ももクロ)
M16:歌はどこへ行ったの (オールキャスト/オリジナルソング)

TEAM SHACHI
ばってん少女隊
そこに鳴る
川崎鷹也
10月以降スケジュール発表

トリコ・A「へそで、嗅ぐ」@こまばアゴラ劇場

トリコ・A「へそで、嗅ぐ」@こまばアゴラ劇場

上演台本・演出:山口茜
ドラマトゥルク:ウォルフィー佐野
【あらすじ】
古家隆子は、小さな町にある小さなお寺で、両親と共に暮らしている。彼女の定位置は大きな松の木のある庭に面した縁側。ある時は父の読むお経とともに、ある時は縫い物をする母とともに、彼女の毎日は過ぎていた。ある日、父が倒れ、お寺に妹一家が引っ越してくることとなった。看病で不在となった母の代わりに、隆子のもとにはヘルパーが派遣され、父の不在でにわかに権力を持った住み込みのバイトに友人の出入りを制限されてしまう。隆子の環境は本人のあずかり知らぬところでどんどんと変化していくが、隆子はただそれを、受け入れていた。ヘルパーが口を出すまでは・・・。


【演出コメント】
2018年に障がいを持つ方とワークショップをさせていただいた時、みなさんが、障がい者としてではなく、1人の俳優として創作に参加したいと思っておられることを知りました。そして私自身、俳優を目指していた頃に、自分のままで俳優として必要とされることは難しいと感じ、ダイエットをしたりと、本来の俳優としての訓練ではない努力をしていたことをふと思い出したのです。そして過去の私を救うためにも、障がいを持つ人が、世間の決めた「属性」で判断されることなく、俳優訓練に邁進できる場を設けたいと思ったのです。
2021年、関西での初演を終えて、環境から障がいを取り除くことの難しさや、自分の無知や狭量さを思い知りました。手を差し伸べるつもりで取り組んだ公演で、奇しくも私は私の無力さと向き合うこととなったのです。
今回の公演では、前回の稽古場や本番で私の中に起きた現象を、物語の中に取り入れたいと思います。へそで、嗅ぐとはどういうことなのか。今も答えの出ないこのタイトルの意味を、是非確かめにおいでください。

山口茜

トリコ・A
山口茜が手掛ける劇作および演出作品の上演を目的に、公演の都度、出演者・スタッフを集めて活動する。東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズ、精華小劇場オープニングイベント、大阪芸術創造館クラシックルネサンス、愛知県芸術劇場演劇祭、アトリエ劇研演劇祭、文化庁芸術祭などに参加。近年はアクセシビリティサービスとして、無料の託児サービス、聴覚障害の方のための字幕サービスなどを実施。今後、音声ガイド等取り扱うサービスを広げていきたいと考えている。




出演
豊島由香、福角幸子、高杉征司、芦谷康介、達矢、佐々木ヤス子、中筋和調、温井茜
★トリコ・A『へそで、嗅ぐ』出演者変更のお知らせ
出演を予定しておりました豊島由香は、体調不良に伴い、降板いたします。
豊島に代わり、上演台本・演出の山口茜が出演いたします。
スタッフ
舞台監督:下野優希
舞台美術:竹内良亮
音楽:茂木宏文
照明:池辺茜
音響:森永恭代
衣裳:清川敦子
宣伝デザイン:山口良太(slowcamp)
宣伝イラスト:渡部真由美
宣伝写真:松本成弘
演出助手:田中遙
制作:合同会社syuz’gen、合同会社stamp
撮影協力:京都市メディア支援センター

劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」@東京芸術劇場

劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」@東京芸術劇場


各省庁・陸海軍、民間の有望な若手が集まり、対米戦の帰趨のシミュレーションを行ったという総力戦研究所という名前の組織を聞いたことがあるだろうか。私は不明を恥じねばならないが、この作品を見るまではその存在を知らなかった。実はこの組織については猪瀬直樹が「昭和16年夏の敗戦」という著作で取り上げており、映画にもなっているからそれほど世間に知られていない事実というわけでもなかったようだが、「帰還不能点」はかつてのメンバーらが戦争が終わった後で亡くなった元同僚の妻のもとに集まり、なぜ皆が負けることが分かっていた戦争に突き進んでいったのかを再び考えてみたというアイデアを盛り込んでいる。

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演劇作品として面白いのは集まってきた総力戦研究所のメンバーは店の元同僚の妻のどんなことをしていたのかとの問いに応じて、かつて行った模擬内閣による机上演習の再現を行うが、日米戦争の展開を研究予測したその演習での結論は対米戦争を行えば日本は必ず敗北するというものだった。

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 「帰還不能点」の中で実際のシミュレーションの細かい内容が示されることはないのだが、上記の映像にある猪瀬直樹氏の講演によればポイントになったのは戦争遂行を可能とするエネルギーの確保の問題であったようだ。米国の石油禁輸措置により、日本は石油が産出される南部仏印進駐が不可欠だが、フィリピンに基地を持つ米国がそれを看過することは決してない。だから、そこを占領すればかならず全面的な対米戦争に至り、そうすれば日本が戦争継続可能な期間は長く見積もっても3年程度(現実の内閣側の議論ではそういう前提であった)。石油を国内に輸送する際に米国に石油運搬船を沈められる可能性を勘案するならば1年程度で石油の備蓄は不足をきたし、これが「必敗」の大きな根拠となっていた。
 現実には総力戦研究所の研究成果は東条秀樹により一蹴され、日の目を見ることはなかった。そのことをもって、軍部の強硬姿勢が戦争をしたくなかった他の内閣のメンバーの意向を押し切ったと責任を軍に帰する見方が強い中、元総力戦研究所のメンバーが自分たちで行ったのはシミュレーションの再現ではなく、今度は劇中劇の形で首相近衛文麿、外相松岡洋右らを演じることで、日本を勝ち目の薄い対米戦へと追い込んでいったのはアメリカの日本への警戒レベルを引き上げた三国同盟締結などの外交的な判断の失敗の連続などもあったのではないかとの仮説を論じていく。
 そして、その時その時で違う判断を行っていれば避けられたかもしれない状況を最終的な「帰還不能点」を超えてしまったのはなぜなのか。繰り返される様々なシミュレーションを通じて、いまの私たちにも考えさせることになるのである。

帰還不能点(2021年初演)
1950年代、敗戦前の若手エリート官僚が久しぶりに集い久闊を叙す。やがて酒が進むうちに話は二人の故人に収斂する。一人は首相近衛文麿。近衛を知る参加者が近衛を演じ、近衛の最大の失策、日中戦争長期化の経緯が語られる。
もう一人は外相松岡洋右。また別の一人が松岡を演じ、アメリカの警戒レベルを引き上げた三国同盟締結の経緯が語られる。

更に語られる「帰還不能点」南部仏印進駐。大日本帝国を破滅させた文官たちの物語。

【出演】
岡本 篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)
青木柳葉魚(タテヨコ企画)/東谷英人(DULL-COLORED POP)/粟野史浩(文学座)/今里 真(ファザーズコーポレーション)/緒方 晋(The Stone Age)/照井健仁/村上誠基/黒沢あすか

『ももいろクローバーZ 〜アイドルの向こう側〜〈特別上映版〉』

ももいろクローバーZ 〜アイドルの向こう側〜〈特別上映版〉』


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TBS取材陣によるももいろクローバーZのドキュメンタリー。ももクロのドキュメンタリーといえば本広克行監督らによって編集された「はじめてのももクロ(はじクロ)」*1があまりにも有名で、ファンの間でも入門書代わりのように使われてきたが、「はじクロ」は苦難のももクロ黎明期からその成功までを描いたいわば「歴史の書」。しかも最後が「幕が上がる」への挑戦で終わっているから、6人、5人時代を描いた歴史資料。卒業した有安杏果の映像なども頻出するため、運営が公式な形でこれを使用することはない。ももクロの「今と未来」を伝える新たなドキュメンタリーが望まれていたが、「ももいろクローバーZ 〜アイドルの向こう側〜」はそうしたニーズにこたえるものともなっている。
 アイドルのドキュメンタリーといえば前田敦子がライブ中に過呼吸で倒れる衝撃のシーンが映し出されたAKB48のものが有名。欅坂46のドキュメンタリー『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』も舞台裏の映像を中心にアイドル現場の過酷さを伝えるような内容だった。ももクロにおいても「はじめてのももクロ」はまさにそれに近いドキュメンタリーらしい映像もふんだんに使ったものであったが、今回のドキュメンタリーは実際のライブやライブの舞台裏としての稽古風景なども盛り込まれてはいるが、全体量のかなりの部分が一転してももクロ本人に対するインタビューで構成されているのが特徴。「ももクロChan」などの舞台裏密着取材などの影響で楽屋などの舞台裏の取材に慣れていて、
そこでは日常の姿は見られても、個々の本音の部分はあまり表面化してこないのを司会者を入れずももクロメンバーだけによる座談会的な収録とメンバーに対する個別インタビューでそれぞれの本音に立体的に迫っていこうと試みた。
 特にももクロの将来像など未来についての質問では女性アイドルにとっての永遠の課題といえる結婚を巡る質問なども登場する。実はももクロの場合はいろんな場で結婚してもメンバーに子供が産まれてもももクロを継続していきたいというような発言は再三にわたって、繰り返しはされていて、グループ的なタブーではないのだけれど、個別のインタビューなどを聞いているとメンバーごとに微妙に表現が違ったりするのが興味深い。
 「結婚してもアイドルを続けられますか?」の質問には、「アイドルではわからないが、「ももクロ」ならできる」と答える玉井詩織に対して、佐々木彩夏の答が「アイドルのやめるやめないは自分が決められることではない」と答えたのがとても印象的であーりんらしい含蓄の詰まった答えだなと感心させられた。

出演:百田夏菜子玉井詩織佐々木彩夏高城れに
監督:酒井祐輔
撮影:中島純 酒井祐輔
編集:伊藤圭汰
MA:飯塚大樹
サウンドデザイン:松下俊彦
企画:大久保竜
チーフプロデューサー:藤井和史
プロデューサー:松原由昌 津村有紀/樋江井彰敏
2022 年/DCP/ステレオ
製作:TBS テレビ
配給:SDP

©TBSテレビ

劇団チョコレートケーキ「追憶のアリラン」@東京芸術劇場

劇団チョコレートケーキ「追憶のアリラン」@東京芸術劇場


 劇団チョコレートケーキの戦争演劇6作品一挙上演の最初の作品として「追憶のアリラン(古川健作、日澤雄介演出)を見た。まだこれしか見てはいないが、戦争演劇とはいえ今回選ばれたのは太平洋戦争に直接かかわる作品群のみだ。劇チョコにはこれ以外にもナチスドイツやイスラエルに関わる作品や戦時中の細菌兵器開発にかかわる作品もあるから、歴史上の出来事を描いた作品が多い同劇団とはいえ、戦争を主題とした作品が多いことには改めて驚かされた。
 「追憶のアリラン」で描かれたのは戦争終盤の朝鮮半島である。その中でも後に北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)となる地域で公務に従事した検事らが描かれる。「日韓併合」という植民地支配のなかで現地の朝鮮人のことを下に見る意識が一般化している実情はかつて平田オリザが「ソウル市民」などでも描いた。
 そういう中でも軍部などの圧力に抗して、朝鮮人が不当な扱いを受けないように奔走した主人公を佐藤誓が好演した。彼らは大日本帝国の支配組織の一員であったという理由で朝鮮人から憎まれ、いわば「戦犯」として断罪されていく。その姿が「追憶のアリラン」では淡々と描かれていく。
 興味深いのは朝鮮半島北部が旧ソ連によって事実上占領されていく中で、日本人を裁く人民裁判朝鮮人たちも単なる戦争犯罪を裁くという建前の背後にスターリン政権の下で粛清を避けて、自らのサバイブをかける高度に政治的な判断が行われる様子も克明に描写されることだ。
 そして裁かれる日本人検事も裁く朝鮮人人民裁判担当者も権力におもねる官憲と言う意味で違いはないのではないかということも提示していく。
 戦争を描いた作品の場合、被害者としての悲惨を重視した作品(「火垂るの墓」など多数の傑作も含まれる)か戦争加害者に対する糾弾のような作品が多い。その中にも一方に偏らない立ち位置で出来事を語りたいという意思は「追憶のアリラン」からは感じられ、そこには好感が持てる。
 とはいえ、作品内でのそれぞれの人物の配置を見ると若干型にはまりすぎてステレオタイプなのではないかという印象もないではない。新劇など旧左翼系演劇からの流れによるものか、軍部=悪、一般市民=無辜の人々みたいな図式が演劇においてはまだ多い。ならばなぜそういう悲劇は往々にして再三起こるのかを描かないと単なる正義感の発露に終わってしまう。一定のカタルシスは得られたとしてもそれは自己満足であり、演劇として作品にする意義はあまりない。
 現代にいたる日本と韓国・北朝鮮にかかわる諸問題にもこうした出来事がつながっていることも描かれていることも評価したい。旧ソ連北朝鮮支配者に認定した金日成らの手によりこの後粛清されただろう人民裁判側の2人をはじめ、シベリア抑留の挙句おそらく日本には帰ることができずに亡くなっただろう日本人上級検事の2人、戦中、戦後を生き抜きながらもその正義感や人のよさから金日成体制のなかで到底生き延びられたとは思えない朝鮮人2人ら描かれていないこの後の運命にも想いを馳せることになる。朝鮮半島の問題を観客の個々が考えるきっかけになるのではないだろうか。
  

追憶のアリラン(2015年初演)
1945年8月、朝鮮半島は35年の長きにわたる日本の支配から解放された。
喜びに沸く半島で、在朝の日本人は大きな混乱に巻き込まれた。
拘束され、裁かれる大日本帝国の公人たち。罪状は[支配の罪]。

70年前、彼の地朝鮮半島で何が起こったのか?

一人の日本人官僚の目を通して語られる『命の記憶』の物語。

【出演】
浅井伸治(劇団チョコレートケーキ)
佐藤 誓/辻 親八(劇団トローチ)/大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)/原口健太郎(劇団桟敷童子)/佐瀬弘幸(SASENCOMMUN)/谷仲恵輔(JACROW)/菊池 豪(Peachboys)/渡邊りょう/林 明寛/小口ふみか/月影 瞳

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流山児★事務所 宮本研連続上演 第1弾「夢・桃中軒牛右衛門の」@下北沢小劇場B1=コロナ感染で中止

流山児★事務所 宮本研連続上演 第1弾「夢・桃中軒牛右衛門の」@下北沢小劇場B1

宮本研作品の連続上演だというので楽しみにしていたのだが、けさ劇団から上演中止のお知らせを電話でいただいた。コロナ流行第七波の影響で次々と舞台上演が中止になっているようだが、中止の多い大劇場の公演はお金がなくて見に行けてないこともあり、公演日程の一部が中止になった燐光群は観劇日程を変更してみることができたこともあり、上演中止で公演自体を見ることができなくなったのはこれが初めてだが、演劇界は再びコロナの直撃を受けているだけにコロナはただの風邪だからマスクなんかしなくていいというようなことを言っている人の発言を見つけると不愉快なことこのうえない。もちろん、演劇界周辺ではマスクをしない観客なんかはいないし、演者側も慎重に気を付けての結果がこの状態だから、そういう努力を無にするような無神経な「コロナはただの風邪」論者とは永遠に相いれないと思う。だから、勝手に主張するのはその人の勝手だがいくらその人たちが主張しても絶対に同意することはないし、その問題でその種の論者とはいっさい絡みたくないというのが本音だ。政府は明らかに無策を繰り返しているし、残念ながら8波、9波と続くだろうとの悲観的な見通ししか浮かんでこない。この状態がいつまで続くんだろうか。

2022年8月10日(水)~17日(水)
東京都 小劇場B1

作:宮本研
脚色:詩森ろば
演出:流山児祥
音楽:朝比奈尚行
出演:シライケイタ、山崎薫、伊藤弘子、さとうこうじ、眞藤ヒロシ、三上陽永、井村タカオ、石本径代、杉木隆幸、流山児祥 ほか

※山崎薫の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。

【連載4回目・完結】「ももクロを聴け!」の堀埜浩二さんにAMEFURASSHI「Drop」について聴く(4)

ももクロを聴け!」の堀埜浩二さんにAMEFURASSHI「Drop」について聴く(4)

ももクロを聴け!ver.3」を出版したばかりの堀埜浩二さんにAMEFURASSHIの音楽について聴くインタビュー企画の4回目。
(ZOOMにて収録)
中西 ももクロとAMEFURASSHIには共通している部分もあると思うんです。これはももクロだけでなくアイドル全般について言えることですが、特定の楽曲ごとに特定のテーマはあるとは思うんですが、それは何のことを歌っているかというと自分たちのことを歌っている。そういう二重性がアイドルの歌にはある。三重になっている場合もあるわけですが。僕がこのアルバムを聴いて思ったのは最近のアメフラのライブのレポートというか感想にも書いたのですが、「アメフラっシ」というグループの表すメタファー(隠喩)というか、「雨」というのがアルバム全体のテーマとしてあって、それが「雨上がり」というか「虹」というイメージに最後つながっていくのではないかということです。全体のイメージの流れとしてそういうのを感じた。
堀埜 たこ虹ちゃんの話とかを書いてましたよね。
中西 そうですね。音楽性は全然違うのだけれど、たこ虹を応援していて、それがなくなってしまったこともあるのだけれど、AMEFURASSHIの楽曲を聴いていて時折、たこ虹のことをフラッシュバックのように思い起こすことがあるのはテーマが似ているんです。要するにもともとはAMEFURASSHIとたこやきレインボーは「雨」と「虹」なんです。「雨上がりの虹」が空に出て、そこから天空にはまぶしい星が輝いているみたいなひとつながりのイメージがグループの楽曲のイメージになっていて、このモチーフは何度も繰り返される。「OVER THE RAINBOW」という同じ表題の楽曲をどちらも持っている*1。もちろん、どちらも海生生物というのはあるんだけど、それは楽曲にはあまり関係ないかも(笑い)。

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 このアルバムの曲ではないけれども「 Over the rainbow」はアメフラを象徴するような歌になっている(残念ながらライブでの最近の映像がない。こちらの映像は5人時代だが、現在は段違いにうまくなっている。その下の映像リンクが愛来が歌唱中に感極まって涙した伝説のライブ。今のアメフラはここから再スタートした)。

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 このアルバムの中でも最後に虹が見えてくる「UNDER THE RAIN」には雨が降って逆風にさらされてきて、苦難の時を過ごしていても私たちはかまわず突き進んでいくんだという決意が歌われていて、アルバムの締めとなっているんじゃないかと思います。

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堀埜 「UNDER THE RAIN」はこれこそ全体の中ではけっこう狙ってこういうバラードに仕立てているなというのが分りやすい曲ですね。ダイレクトにミュージカル「The Greatest Showman 」の「THIS IS ME」という曲がありますが、ほぼそれと同じような展開です。

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 それのAMEFURASSHIバージョンみたいなところがあって、あえて「UNDER THE RAIN」というのを持ってきているのは自分たちのAMEFURASSHIとしての原点であったり、その「雨」をここに持ってきているというのは意図的にそういう曲を書いてくれと言われて書いたんじゃないかなと思わせるところがある。そして、4人のボーカル力というのはここに来て物凄く炸裂していますから、なかなかこんなに歌い上げるというのは稀で他のアイドルではここまでのことは出来ないのではないかと思います。
堀埜 その前の「DISCOーTRAIN」がももクロにも楽曲提供をしているDirty Orange が書いているので、ももクロの「リバイバル」とか「HAND」とかを書いた作家なので、ももクロと比べるとするとこの「DISCOーTRAIN」を聴いて、先に挙げた楽曲でももクロ向けに書いている部分とこの子たち向けに書いている部分がどう違うのかというのがはっきり分かって面白いですね。
 作家としてはDirty Orange がすごく面白いのは三代目とかLDHへの作品をたくさん書いている作家なんですが、メロディーの感じと言うのにすごくオリエンタルなところがある。いわゆるペンタトニックを使ったり。それって韓国でもいけるし、日本でもいけるし、いわば坂本九の「スキヤキ」みたいのにも極めて近い。懐かしさとかがあるようなメロディーライン。Dirty Orangeだということがはっきり分かるような特徴があります*2

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 「DISCOーTRAIN」はDISCOという懐かしめのタイトルがついてますが、実際には完全にEDMの曲調です。
中西 ディスコサウンドではないんですね。
堀埜 完全にディスコというよりはいまの流れでいえばEDMの曲なんです。Dirty Orange はEDMを書くのにそれに絞り切ってやっているところがある。ももクロも「リバイバル」が典型的なEDM的な楽曲で「HAND」はもうちょっとグルーブ感を持たせていますが、鳴っているサウンドそのものはEDMの音作りというのをしっかりとしている。

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中西 それでも先ほど堀埜さんもおっしゃっていたようにももクロへの提供楽曲は大人の女性を思わせるもので、割とその年代の等身大として感じられるものですが……。
堀埜 ももクロの等身大に合わせて曲を書いています。
そういう意味ではAMEFURASSHIに対しての楽曲はAMEFURASSHI向けにというよりは自分たちのサウンドを前面に出したもので割と自由に書かせてもらっているんじゃないかと思います。それを彼女らがしっかりと歌い上げている感じというのはある。
中西 そして最後は問題作というか……「MOI」ですが(笑い)。

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堀埜 これはもうおまけですよね。曲も短いしエピローグで……。たぶんこれはアルバム全体の流れを見た時にバラードで終わるのももっともらし過ぎるので、軽めのエピローグみたいのが欲しいと最後に書いたような気がします。
中西 途中でクレジット的にはなくなったけども、当初は新曲4曲とサービストラックと言っていたような気がします。
堀埜 そういう意味ではサービストラックですね、これは。
中西 その後の展開を見てもそうですが、明らかにTikTok狙い撃ちみたいにも思われます。
堀埜 それにしても今時CD全部で37分というのは驚異的な短さで、下手をするとEPとアルバムの間ぐらい短さです。今の若者にはトラックタイムが長いから得という感覚は一切ないし、長ければ逆に飛ばされてしまう。そういう意味では配信、サブスクなど最新の音楽需要を明確に意識したアルバム制作であり、個々の楽曲の方向性よりはそうしたトータルコンセプトに佐藤守道さんの意図が色濃く反映されているかもしれません。
中西 佐藤さん本人の発言ではないと思いますが、3分半というのが今のワールドスタンダード。それより長いとサブスクや配信が回らないんだという話もありました。
堀埜 それはもうその通りです。逆に言えばいかにももクロが頭おかしいかというのもあるんですね(笑い)。ももクロはそれで自分たちなりの新しいやり方を作っているのでそこは標準に合わせていく必要はもうないと思いますけど。
(この後、メンバー個々の話などにも話題は広がっていきましたが、アルバム「Drop」についての話題はここまで。これ以外はもし希望があれば番外編など考えます 文責中西理)

【「Drop」収録曲】
■CD ※Type-A,B,C共通
1. ARTIFICIAL GIRL
Lyrics and Music : HIRO
2. DROP DROP
Lyrics : HIRO
Music : KORANG-E / CHANCE
Arranged By CHANCE / KORANG-E
3. BAD GIRL
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group
Music : KORANG-E
4. Lucky Number
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group
Music : KORANG-E / CHANCE / ODD-CAT
Arranged By KORANG-E / CHANCE / ODD-CAT
5. Blue
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group
Music : ODD-CAT / CHANCE / KORANG-E
Arranged by CHANCE / KORANG-E
6. Drama
Lyrics : SHOW
Music : KORANG-E
7. SENSITIVE
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group / ODD-CAT / KORANG-E
Music : KORANG-E / Damon Jo / ODD-CAT
Arranged By KORANG-E / Damon Jo / ODD-CAT
8. MICHI
Lyrics & Music : CHI-MEY
9. DISCO-TRAIN
Lyrics : SHOW
Music : Dirty Orange / Chica for Digz, Inc. Group
10. UNDER THE RAIN
Lyrics : HIRO
Music : Mitsu.J
11. MOI
Lyrics & Music : HIRO 

 

*1:正確に言えばたこ虹は「オーバー・ザ・たこやきレインボー」。

*2:この辺りは「ももクロを聴け!ver.3」500㌻の「リバイバル」の項に詳細に書かれているのでそちらを参照してほしい。