下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

5月のお薦め芝居(2005年)



5月のお薦め芝居


5月のお薦め芝居

by中西理



 




 引越し先(最寄りの駅は地下鉄の谷町九丁目)の生活にもどうにか慣れ、風邪の後、咳が止まらず困っていましたがこれもようやく治りました。先月は風邪のせいもあってついに原稿落としてしまいましたが、もう大丈夫(なはず)。大阪日記では個々の舞台のレビュー以外にも新連載「ダンスについて考えてみる」を開始しました。今後もこうしたひとつの舞台にとどまらず、舞台やそれ以外について日ごろ考えていることを書いていきたいと思っているので、興味のある人はぜひ覗いてみてください。読者の人のコメントも楽しみにしてお待ちしています。




えんげきのページでもおなじみのウニタモミイチ氏が「ART iT」という雑誌に私のいま注目する演劇人というような趣旨の文章を書いていて、いかにも彼らしい人選で10人の演劇人を選んでいるのだけれど、それに触発されて私も10人を選んでみた。


 ウニタ氏がなにを選んだかはぜひ雑誌を参照していただきたいが、私が選んでみた旬の10人は以下の通りである。


 岡田利規チェルフィッチュ)/三浦大輔ポツドール)/前田司郎(五反田団)/明神慈(ポかリン記憶舎)/土屋亮一(シベリア少女鉄道)/山中正哉(トリのマーク)/青木秀樹クロムモリブデン)/江本純子毛皮族)/田辺茂範(ロリータ男爵)/畑澤聖悟(弘前劇場


 ちなみに類似の企画が数年前*1に「広告批評」で行われたことがあり、その時には私が執筆したのだけれど、その時に選んだのが次の10人。


 後藤ひろひと(遊気舎)/土田英生(MONO)/長谷基弘(桃唄309)/北村明子レニ・バッソ)/はせひろいち(ジャブジャブサーキット)/井手茂太イデビアン・クルー)/大島早紀子(H・アール・カオス)/林巻子(ロマンチカ)/ブルースカイ(猫ニャー)/西田シャトナー惑星ピスタチオ


 こちらの方は上と違ってダンスも含めて舞台芸術全般からという選ぶ範囲には差があるのだけれど、こうして見ると時の流れを感じる。カッコ内は当時の所属劇団(カンパニー)なのだが、ピスタチオや猫ニャーのように解散してしまったところもあれば、ロマンチカのように活動を休止したままのところもある。ただ、嬉しいのは当時と形が変わっても大部分の人がいまも刺激的な舞台を作り続けていてくれることだ。今回選んでみた10人が数年後にどんな舞台を作っているのか。想像がしにくい人もいるが、楽しみである。




 そういうわけで今月のお薦め芝居では上記の新旧「旬の10人」の舞台が激突。まず、注目したいのはイデビアン・クルー井手茂太の初のソロ公演井手茂太「イデソロ」」★★★★である。最近はイデビアン・クルーでの公演で振付・演出に専念することも多くて、あまり自分自身の踊るところを見せてくれない井手だが、イデビアン特有のあの奇妙な動きが面白いのは井手本人がああ見えても、非常に卓越したユニークなダンサーであるというところにある。以前、即興のダンスをソロで踊ったのを見たことがあり、それもものすごく面白いものではあったが、今回はその才能を堪能することができるはず。あのずんぐりむっくりの体型からは想像もつかないほど踊りまくるはずなので、これは見逃がせない。
 





 明神慈のひさびさの新作が見られるポかリン記憶舎「短い声で」★★★★東京デザインセンターガレリアホール・高知県立美術館)も見逃すわけにはいけないだろう。
 それは浮かんでいるようにも見えた。真空の闇に侵されて少しずつ 色を失いながら。
陽の落ちた美術館。大展示室では新進若手作家の個展準備が進められていた。
開催日全夜、オブジェの搬入もほぼ終わりスタッフたちは未だ現れない作家を待っていた。
待つことしかできない彼らがもてあましてしまうのは時間だけではなかった。その場に居合わせたすべての人が何を選択すべきかを突きつけられる、最新型の悲劇。
 このところ、着物を着たパフォーマーが浮遊するパフォーマンス「和服美女空間」や独自の方法論による「リーディング」公演など実験を重ねてきた成果がこの新作にどのように生かされるのか。おそらく、青年団とはちょっと違う姿を見せてくれるだろう山内健司にも注目してみたい。






 トリのマークの山中正哉が初の外部作・演出をするつよしとひでき「タータン」★★★★もどんな舞台になるかちょっと予想がつかないのが面白そう。つよしとひできは青年団の先輩後輩だった役者、大塚秀記(おおつかひでき)と大間剛志(だいまつよし)による演劇企画ユニット。おそらく、トリのマークとはちょっとテイストの異なる舞台となるので山中の思わぬ側面が見られそうでそれも楽しみだ。




 ダンスパントマイムに新たな地平を開いた水と油「不時着」★★★★は東京グローヴ座の公演だけでなく、滋賀、大阪での関西公演もあり、東京の人はもちろんのこと関西の演劇・ダンスファンにもぜひ一度その不思議な世界を味わってもらいたい。水と油の世界を説明するときにまるでエッシャーの絵が動いているようなとついつい言いたくなるがこの作品はなかでもそんな雰囲気が色濃く出ている舞台。パントマイムというとあの白塗りで赤い鼻をつけたと勝手に勘違いして敬遠する人も多いようだが、水と油の舞台はスピード感に溢れて、スタイリッシュ。「百聞は一見にしかず」である。





 関西での注目はアートシアターdBプロデュース「GUYS〓」★★★★。関西の男性コンテンポラリーダンサー20人以上が参加して華麗に繰り広げる男の世界。関西においてコンテンポラリーダンスの存在を認知させた伝説の公演がアイホールで上演された「GUYS」。上海太郎も参加して異種格闘技の様相を見せた「GUYS3」。いずれもいまや伝説となった舞台が今回は装いも新たに帰ってきた。振付をヤザキタケシ、砂連尾理、竹ち代毬也らが担当。コンテンポラリーダンスって小難しいんじゃないのと思う演劇ファンはダンス入門編としても最適だと思うのでぜひ見てほしい。




 伝説の舞台の復活といえば伊藤キム白井剛「禁色」★★★★もまさに掟破りの舞台だ。三島由紀夫の小説をモチーフにした「禁色」は土方巽が振り付け、大野慶人と競演し、まさに暗黒舞踏をスタートさせた舞台だったからである。
いままでどの舞踏家も手を出しかねたこの禁断の世界を舞踏の伝統も引き継ぐコンテンポラリーダンサー、伊藤キムがどのようにつくりあげるのだろうか。




 「旬の10人」は今回は演劇だけから選んでみたが、ダンスも入れて選びなおすならば当然入ってくるのがニブロール矢内原美邦だ。その矢内原がオーストラリアのアーティストとコラボレーションで製作したOff Nibroll 〈exhibition and performance〉「public=un+public」★★★★もいろんな意味で刺激的な公演になりそうな予感。





 ダンスではピナ・バウシュ「ネフェス」★★★★にも注目したい。トルコ・イスタンブールに滞在して制作した作品。アジア、アフリカ、ヨーロッパにまたがる文明とイスラムキリスト教の異文化が重層する都市の光景を窺わせる。インド人ダンサー、シャンタラ・シヴァリンガッパの天空から舞い降りてきたかのような流麗なダンスなど、強烈な個性を持つ20人のダンサーのソロ。水(池と瀧)と鮮やかな影像がピナ・バウシュの深遠かつロマンテイックな世界を増幅させる。2004年6月のパリ公演は初の連続16回公演。全公演が完売した。このところやや低調な感のあるピナの来日公演ではあるが、それでもついつい期待してしまうのがダンス好きの性なのか。




 関西イチオシの若手劇団といい続けてきたTAKE IT EASY!「暗号解読者」★★★★も楽しみな舞台。骨太な構想でまるで立体少女漫画のような世界を展開するテクイジが今回挑戦するのは暗号解読ミステリ。
 アメリカヴァージニアリンチバーグのワシントンホテル支配人、ロバート・モリスは、トマス・J・ビールと名乗る男に、錠のかかった鉄製の箱を預けられた。「この箱を、これから10年間大切に保管して欲しい。
 中には、私と私の仲間の命と財産に関わる重要な書類が入っている。もし、10年経っても私が帰ってこなかったら…錠を壊して箱を開けてもらいたい。10年後の6月に、この書類を読み解く手がかりとなる手紙が、あなたに届けられるだろう。」そうしてビールは立ち去り、二度と戻ってくることはなかった…。
 それから10年後。モリスは、謎の箱を開けた。中に入っていたのは、ビールの字で書かれたメモと、3通の不思議な書類。メモによると、どうやらビールは、彼の仲間と大量の金を発見し、その金をどこかに埋めたらしい。3通の書類に、本当の埋蔵場所と受取人が書かれているという。しかし、それらの書類は、ビールの手によって暗号化されていた!
 莫大な金が隠されていると知ったモリスは、6月に届くという手紙を心待ちにするが、
結局その手紙は届かなかった。「ビール暗号」は、その後約1世紀に渡って様々な人の手を渡り歩いた。3通のうちの1通はなんとか解読することができたが、誰の知恵を借りても、どんな手を使っても、決して残り2つの暗号を解くことはできなかった。
 やがて、その伝説の暗号がふたりの日本人の手に渡る。努力と根気の秀才・北岡と、
直感と天性の才能の持ち主・河野。ふたりのライバルによる、「ビール暗号」を巡っての壮絶な暗号解読バトルが始まった!
 19世紀に実際にあった「ビール暗号」の史実をモチーフに虚実ないまぜ、中井由梨子の才気はそこからどんな新たな物語をつむぎ出すのか。




 
 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。特にチェルフィッチュについてはどこかにまとまった形で書いておきたいと思っているのだけれど、どこか書かせてくれるという媒体はないだろうか。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。







中西



*1:正確に思い出せないのだけれど、97年だったんじゃないかと思う