下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

 「踊る神様 〜降臨〜」(一心寺シアター倶楽)を観劇。

第1幕 森美香代 「FALL DANCE」
第2幕 森山開次 「無題」 構成・振付森山開次
第3幕 伊藤卓家 1.「親友をわかりにくく言うとこんな感じかなぁ」
         2.「刹那 戦慄と切ナ 旋律」
 休憩
第4幕 ヤザキタケシ 「きみの名で…2004 秋 大阪」
第5幕 「oct est fobla 〜終演〜」

「踊る神様 〜降臨〜」は4人のダンサー・振付家(森美香代、森山開次伊藤卓家、ヤザキタケシ)によるダンスショーケース的プログラム。この公演はヤザキタケシ、森美香代*1といういずれも関西を代表するコンテンポラリーダンサーと東京で若手の有望ダンサー・振付家として評判になっている森山開次が一同に会するというもので注目していた。ただ、チラシを見ただけで企画した人があまりコンテンポラリーダンスの世界に習熟していない人だと丸分かりであったし、どういう企画なのかが分かりにくかったので、半分期待、半分危ぐして出掛けたのだが……。内容的には期待と危ぐがそれぞれ的中したものだった。
 森美香代のソロはダンサーとしての成熟を感じさせた。若いダンサーにはちょっとだせない魅力でそれでいて、しなやかさ、強靭さのような彼女のダンスが持っていた魅力が少しも枯れてなくて、時にみずみずしくさえ感じられるのが素晴らしい。
 10年ほど前に最初にこの人のダンスを見た時に伸びやかな身体や存在感の強さなどにダンサーとしてのきわめて優れた資質を感じた*2のだが、それが健在のまま女性としてのこれまでの経験をへてきた重みを感じさせる表現になっていて
他のダンサーにはちょっと見られない深みさえ感じた。もともとテクニックはある人なのだが、この日のダンスではダンス的な表現以外の例えば舞台上手から下手に一見ただ歩いて横切ったりするように見えるような部分に込められた繊細なニュアンスはこの人ならのものであって、ささいなようだがだれもが一朝一夕に表現できるようなものではない。
 作品としては典型的なダンサーの作るダンスの枠組みで構成されたダンスで、作品における対象の切り取り方とか、ダンスのムーブメントそのものにそれほど面白いところがあるわけじゃないので、おそらくこの舞台は同じ振付で彼女以外のダンサーが踊っていたら、おそろしく凡庸なものにしかならなかった可能性を孕んでいるのだが、そうであるのに見ているうちに次第に引き付けられれて目が離せなくなっていく。真に優れたダンサーだけがなしうる業かもしれない。
 一方、森山開次にもダンサーとしての魅力を感じたが、それは森美香代とは対照的に今この若さだからこそ見せられる旬の魅力であった。プロデュース公演でインパル・ピントの振付けた作品で踊るのを見たことはあるのだが、自ら降り付けたソロ作品を見たのは初めて。暗闇のなかで下半身黒タイツ、上半身裸体の森山の身体が浮かび上がると神々しく美しい瞬間があって、作品自体はちょっとナルシストぎみのところもあって、「ちょっと待てよ」と思っちゃう部分もないではないが、それがちゃんとみられちゃうというのは日本人のダンサーとしては特異な個性の持ち主で、今後スターダンサーとしての地位を獲得していくだろうというオーラを感じた。ただ、今のところ今日見た作品からだけ判断する限りではの条件付きだが、ダンサーとしてはすごく魅力的でも振付という観点で評価するとまだただ踊っているだけという印象がいなめず物足りないところはあり、そのあたりがどうなのかを見極めるためにももう少し他の作品を見てみたい。
 さて、問題はヤザキタケシである。ヤザキならではのショーマンシップ、サービス精神には溢れた舞台で面白く見られたし、十分に楽しみもしたのではあるが、大阪で踊ったのは本当にひさびさだということもあり、個人的にはもう少し本気のヤザキを見たかった。スケジュール上、準備期間も十分に取れなかったこともあるようだが、いくらなんでも手抜きだろう(笑い)。それでもコネタを中心に客の反応を的確に引き出し、ちゃんと楽しませちゃうところが才能ともいえるが、森、森山と充実感のある舞台を見せられて、期待が膨らんでいただけに「うまくいなされてしまった」の感がぬぐい切れない。それでもしょーもないとさえ思える笑いどころに思わず笑わされてしまったのが妙に悔しい(笑い)。これも森美香代とはまったく違った意味での年輪といえなくもないのだが……。
 できれば触れずにすませて置こうとも思ったのだが、伊藤卓家について一言だけ。ストリート系ダンスからジャズダンスに入った経歴の人らしいのだが、ジャンルの違いを別にしてもこのプログラムのなかでは他の3人がよかっただけにちょっとレベルの差がありすぎた。本人がソロで踊った「刹那 戦慄と切ナ 旋律」はまだしも「級友をわかりにくく言うとこんな感じかなぁ」はコンドルズをダサくして、下手に真似したようで正直言ってつらかった。ソロだけでよかったんじゃないか。ただ、東京コンペの時にも書いたけれど、レベルの問題は置いておくとしても違うジャンルのもを混ぜて1つのプログラムで上演する場合の難しさも感じた。もちろん、こちらはガラ公演で向こうはコンペだから根本的な違いはあるのだけれど。
 
 

*1:ヤザキタケシ、森美香代は振付家スーザン・バージュが京都に長期滞在して作品製作、その後フランスを中心にツアーをした日仏共同プロジェクト「MATOMA」の看板ダンサーだった。同プロジェクトにはダンサーとしてモノクロームサーカスの森裕子、ダンスボックス創生時の共同プロデューサーをつとめた冬樹、スタッフとしてモノクロームサーカスの坂本公成、アートコンプレックス1928プロデューサーの小原啓渡も参加。現在の関西コンテンポラリーダンスの礎ともいえる人材を輩出している

*2:現在でも日本のコンテンポラリーの女性ダンサーを3人挙げろといわれればレニ・バッソ北村明子H・アール・カオスの白河直子と並んで彼女を選ぶ