下北沢通信

中西理の下北沢通信

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踊りに行くぜin栗東

踊りに行くぜ!!in栗東栗東芸術文化会館さきら 小ホール)を観劇。

きたまり(京都)
■「箱庭」
■振付・出演:きたまり

太田ゆかり(東京)
■「Pulse」
■振付・出演:太田ゆかり

ほうほう堂(東京)
■「北北東に進む方法」
■振付・出演:新鋪美佳、福留麻里

「踊りに行くぜ!!」はJCDNによるコンテンポラリーダンスの全国巡回公演。この栗東での公演が私にとっては福岡*1に続いて2ヶ所目の観劇となる。
 今回の出演者はきたまり、太田ゆかり、ほうほう堂の3組。実はこの他に砂金範子(仙台)という人が踊ることになっていたのだが、本番前の故障で急遽、休演ということになり、残念。
 トップバッターはきたまり。千日前青空ダンス倶楽部のメンバーであり、京都造形芸術大学の学生でもある彼女は今私が密かに「関西ダンス界の秘密兵器」として期待しているダンサー・振付家である。

 京都造形芸術大学の学生をメンバーとして、振付家に徹したKIKIKIKIKIKIというカンパニーも率いていて、これが何回か見て、非常に面白くて、コリオグラファーとしての将来性にも期待しているのだが、今回は自らが踊るソロ作品。
 きたまりは自らが踊るソロ作品の場合には舞踏をベースにしたゆっくりとした動きが基調ではあるが、ところどころにいわゆる舞踏的な身体をはみだすような奇妙な身体性を持っている。
 小柄で一見子供のようにも見えるちょっと「いたいけな」感じがするダンサーで、日本のコンテンポラリーダンスの特徴のひとつの極が桜井圭介氏が主張する「コドモ身体」であるとすれば、まさにそれを体現するような存在である。ただ、時折、その表情の変化により、「こども」的なものをはみ出すような奇妙な色気とか、まるで老婆のように見えたりするようなアンビバレントな要素が「こども的な身体」と共存しているのが、彼女のオリジナルな魅力となっている。
 ただ、今回の舞台では緊張もあったのか、本来の魅力がやや出し切れなかった印象もあった。作品はひとつながりのものというよりはタッチが異なるいくつかの独立したパートから構成されている。それぞれの場面、場面では光るところがあるし、彼女ならではの魅力が発揮されている場面もあるのだが、全体としてはそれぞれのシーンがバラバラに見えてしまった。大きな流れのようなものを作ることができていないもどかしさが残り、やや不満が残った。
 例えば途中で正面を見てから、上を向いて口をあける動きを繰り返すところなど、ユーモラスで、彼女らしい振付ではあるのだが、正面を向いた時に舞踏的な無表情を作っているのが、少し気になったりした。こういうところの表情ひとつにしても本来、豊かな表情を舞台上で表現できるのが、強みでもあるのだから、もう少し奔放に作っていてもよかったのではないかと思った。
 期待が大きかっただけにやや厳しい見方になってしまったが、作品を素材と見なせばこれからまだ化けそうな要素はそこここで見せてくれただけに、今後この作品がどのような成長を見せてくれるかに期待したい。
 一方、太田ゆかり「Pulse」はDance Theatre LUDENSの看板ダンサーであり大田が初めて作ったソロ作品。かねがね、太田のことは日本のコンテンポラリーダンスを代表するような優れた踊り手だと思っているのだが、この作品でも太田が優れたテクニックを持つダンサーであることは存分に堪能できた。
 ただ、ダンサーが初めて作品を作るとこういう風になりがちなのかという不満もこの作品を見ていて如実に感じてしまった。というのは太田の本来の魅力は例えば東野祥子や北村明子、白河直子といった屹立型のパフォーマーとは違って観客を自らの表現に共感させて、距離感を無化してインティメートな空間を舞台上に作り出せる能力にあって、それはDance Theatre LUDENSで上演されたデュオ作品「Be」などでは存分に発揮されていた。
 もちろん、太田自身は身体も利いて踊れるダンサーではあって、そういう意味でも優れてはいるのだが、得がたい魅力はそれ以外のところにあると考えていた。そうした魅力が残念ながら、ムーブメントオリエンテッドでハードエッジなこの作品では一切見ることができなかったので、そこのところが物足りなく思われた。
 ほうほう堂「北北東に進む方法」は福岡に次いで今回の「踊りに行くぜ!!」では2度目の観劇。空間が変わったことで、微妙な印象の変化はあったが、やはりこの作品は福岡で見た時と同様によかった。完成度の高さはこの日見た3本の作品のなかでは群を抜いており、ダンスにおいて再演を繰り返すことで、作品が熟成していくことの重要さを改めて感じさせられた。もっとも、2度この作品を見たことでこの作品はほうほう堂にとっては旧作でもあり、これを踏み台として「るるざざ」以降の新しい展開で今度は彼女らが何を見せてくれるのかの方により大きな興味が移ってきたのも確かで、人間の欲望というのは始末が悪いものである(笑い)。 
 「踊りに行くぜ!!」はこのところ地方会場に何ヵ所出掛けているのだが、それはそこで上演されるダンス作品を見たいというのはもちろんあるのだが、その場所、その場所での運営のされ方にそれぞれ特色があって、特に地方の会場においてはお国振りがうかがえるという楽しみとともに地方における現代芸術のあり方についていろいろ考えさせられるという面白さもあるのだ。
 栗東ではこの場所の立地の微妙さを感じて、考えさせられるところがあった。実行委員会形式の福岡とは違って、「踊りに行くぜin栗東」は公共ホールである栗東芸術文化会館さきらの主催事業として運営されている。ここで、「踊りに行くぜ!!」が開催されるのは昨年に続いて2回目。実は昨年はこのホールの主催者としてはいまさら掘り起こさせたくもないところであろうが、この公演と同時期に開催されていた丹野賢一/NUMBERING MACHINE+石川雷太「026-METAL」が中止になるという大事件*2が勃発して、そのせいでこの公演がどうだったとかいう感想などもまったく書かないまま吹っ飛んでしまったということがあったのだが、そういう大きな事件はないにしても、福岡やこの日の次の日に行った広島などと比べて、観客も少なく盛り上がりにかける印象を持ったのも確かなのである。
 前述のような事件が起こったということはあったとしても、栗東栗東芸術文化会館さきらは地方の公共ホールとしては珍しいほどにコンテンポラリーダンスに力を入れており、今年は以前は大阪で行われていた関西地区の選考会をここで開くなどこの企画にも力を入れてきただけにあらためて、栗東のような小規模な地方都市において、コンテンポラリーダンスのような現代芸術を普及させていくということの並大抵ではない難しさというのを感じさせられた。