下北沢通信

中西理の下北沢通信

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高嶺格個展「Baby Insa-dong」

 高嶺格個展「Baby Insa-dong」AD&D gallery)を見る。
高嶺格の個展「Baby Insa-dong」は、高嶺が在日韓国人である金貴月と執り行った結婚式の模様をドキュメントした作品である。写真270枚ほどとビデオ映像、テキストにより構成されている。「釜山ビエンナーレ2004」で最初に発表され、今回のAD&Aでの展示が二度目、国内では初めての展示となった。さらに今回の個展ではそれに加えて、妻の出産時の顔の表情をビデオ映像として編集した映像インスタレーション「海へ」も合わせて展示された。
 2003年の京都ビエンナーレで「在日の恋人」という展示を見ていたので、その後、その恋人と結婚したという事実関係は一応知識としては持っていたのだが、その妻からの問いにとって、高嶺が自分の内なる差別意識と在日をめぐる諸問題と自分との係わり合いについて、真摯に自問自答を繰り返した、その過程を写真とテキストを元に再構成したのが、メインの展示である「Baby Insa-dong」で、これは1階、2階の全スペースを使って、壁を周回するように写真を横一列に張り、その上下にデザインされた文字でハングル、日本語、英語で記録している。この作品などを見ると、在日あるいは朝鮮半島の問題に関してありがちなステレオタイプに陥ることなく、あくまで個人としての視線を大事にしながら、しかし、その個人の体験を元にして考えたことをただ個別のこととしてとどまらせるだけではなく、広く一般性のあることとしても思考していく。陳腐に言い方になりかねないのを覚悟して言えば、しなやかな感性を持っている人だなと思った。
 ただ、実を言えば今回の展示で個人的に刺激的な体験をしたのはもう一方の映像インスタレーションの方であった。個人的にとあえて書いたのはこの映像作品を2度見ることになったのだが、実は最初はこれがどういう作品であるのかということをまったく知らずに見て、その後、1階の出口のところにこの作品のコンセプトについての提示があるのに気がついて、「そういうことだったの」とびっくりして、もう一度この作品を見直すとこれがどういうものだかを知ってみるのとそうではないのとでは同じ作品がまったく違うものとして見えてくるというめったにない体験をして、そのことで映像ってなんなのだろうと思わず考えさせられたからだ。
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