下北沢通信

中西理の下北沢通信

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スクエア「法廷式」@新ABCホール

スクエア「法廷式」(新ABCホール)を観劇。

作 :森澤匡晴 / 演出:上田一軒
出演 上田一軒 森澤匡晴 北村守 中西邦子(劇団そとばこまち) 森川万里(桃園会) 山本禎顕
+川下大洋(Piper)

ある専門学校が、学生実習のために実施する模擬裁判。裁判長を名乗り出た男(山本禎顕)はくじびきで会場から学生たちを選び、弁護士役(森澤匡晴)、検事役(上田一軒)を選任し、自ら用意した台本通りに裁判を進めようとするが、事件として選んだ結婚詐欺事件についての証言台で被告役の男(北村守)がシナリオにない証言をはじめることで裁判は予期せぬ方向に進んでいく……。裁判モノ(法廷劇)と思ってきたのだが、そうではなくてこれは模擬裁判モノ。どこが違うのと思うかもしれないがまったく違うのである。
 法廷劇といえば普通は対象となる事件ついてのあれこれで観客を引っ張っていくので、アガサ・クリスティーの「検察側の証人」にしても、「十二人の怒れる男たち」にしても、さらにいえばその「十二人……」を下敷きにした三谷幸喜の「十二人の優しい日本人」にしても、法廷劇では事件そのものに対する「本当はなにが起こったのだ」という謎解きの興味がその根底にある。この「法廷式」では実際に取り上げられる事件は結婚詐欺事件で、なぜそんなセコイ事件をという謎は舞台の進行に従いおいおい明らかになってはいくのだが、法廷劇本来の魅力を求めたら物足りない。
 模擬裁判は裁判の内容自体は裁判劇と同様にもちろん重要な要素ではあるのだが、模擬裁判で語られる事件の内容とそのシナリオに従ったいわば芝居がそこで上演されているということ、それぞれが任じられた役割を演じるという意味では役を演じている人たちについての物語、つまりメタシアターなのだ。それゆえ、この芝居の最初の方はそれぞれの役者たちの「演じる」面白さで、観客を引っ張っていく。なかでも、元小劇場の女優という設定の森川万理が演じる役になりきった「女優演技」はおかしくて、笑わせてもらった。こういうのは桃園会ではなかなか見られない(笑)ので、客演の俳優たち(特に女優)にそれまでのその人の劇団での演技とは一味違う魅力を引き出すスクエアの面目躍如といったところだ。
 さらに最初のシナリオが裁判官を演じている男が実際に起こした事件を元にしているのではないかということが途中で分かってきたり、被告役の男がシナリオを逸脱しはじめるのはこの男にもなにかこの事件は実際に起こったことを連想させるのだろうこと、そういう複数の様々なレベルの趣向が同時進行していくところにこの舞台の面白さはあった。