下北沢通信

中西理の下北沢通信

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Monochrome Circus×じゅんじゅん「D_E_S_K」@京都アトリエ劇研

じゅんじゅん×Monochrome Circus×graf×山中透
『緑のテーブル』
─机の上と下で起こる、世界の間違い方。─
演出・振付:じゅんじゅん
出演:Monochrome Circus(森裕子、合田有紀、野村香子)
ゲスト出演:森川弘和
舞台美術:graf
音楽:山中透

じゅんじゅん新作ソロ
『deskwork』
─そこにあったような、机のお話。─
演出・振付・出演:じゅんじゅん

モノクロームサーカス 掌編ダンス集より
7つの作品から成る『掌編ダンス集』より机を使った2作品のうちセレクトして上演。
『きざはし』
─150本のナイフ。ふたりの限界点。─
演出・振付:坂本公成
出演:野村香子、合田有紀
『水の家』
─机の上にふたりだけ。雨音がふたりの密度を上げていく。─
演出・振付:坂本公成森裕子
出演:森裕子、森川弘和

 Monochrome Circusの新作は水と油のじゅんじゅんとの共同制作作品。舞台美術である机はgrafが製作。音楽は元ダムタイプの山中透が参加した。Monochrome Circus「掌編ダンス集」から1本とともにじゅんじゅん(高橋淳)振付・演出による本人出演のソロ作品「deskwork」とMonochrome Circus4人に対する振付作品の3本立て。「掌編ダンス集」からはいずれも机をモチーフとした「きざはし」「水の家」のどちらかを1本というプログラム構成だが、この日は野村香子、合田有紀によるデュオ「きざはし」が上演された。
 今回の企画の柱となったのはじゅんじゅん振付の新作「緑のテーブル」(森裕子、合田有紀、野村香子、森川弘和出演)。「緑のテーブル」という表題からは第2次世界大戦を背景に反戦を訴えたクルト・ヨースの「グリーン・テーブル」が思い起こされるところであるし、この表題自体もそれを踏まえて名づけられたものと思われる。ただ、作品内容についてはそれほど深い関連性はないようだ。ただ、舞台装置として本物の芝生が生えた文字通りの「緑のテーブル」が登場。これはgrafが製作したものなのだが、これがその鮮やかな緑の色合いとともにこの作品の印象の中心的な部分を占めるほどにその存在を主張している。こうなるとどうしてもこの芝生の意味合いはどういうことなのか。「グリーン・テーブル」が国際情勢を暗示していたようにこの「緑のテーブル」は隣近所的な世間のようなものを象徴しているんじゃないかなどと意味の領域で解釈を求めたくなるようだが、どうやらこの作品はそういうものではないらしいということがしばらく作品を見ていると分かってくる。
 「緑のテーブル」は登場人物それぞれの具体的な関係性を提示するというような演劇的な構造よりも、舞台美術である「緑のテーブル」を上下左右によりまく4人の人物の不可思議な配置の絵画的なイメージの連鎖から構成されているようだった。
 水と油は共同創作の形態をとっていたから、誰がどういう部分を担当していたのかというのはそれほど明確ではなかったのだが、それでもその時代にはどちらかというとおのでらん(小野寺修二)が演劇的な部分、じゅんじゅんがムーブメント(動き)の部分を担当しているのではないかと思われるところがあった。ただ、それぞれが別々に作品を作りだすようになると逆におのでらんにもダンス的部分があり、出演者それぞれがキャラ立ちした「アリス」などを見る限り、じゅんじゅんの作品にも演劇的な部分があるんだということも分かってきて、それほど単純なことではないのだなと思えてきた。ただ、今回の作品は水と油のようなアクロバティックな演出は若干取り入れながらも、ダンサーの動き自体はそれがなにものかを象徴的に示すというようなものではなくて、むしろ純粋に動きの流れを追求したもののように見え、それでいて舞台美術においては「緑のテーブル」のような抽象物というよりはモノとしての質感をはっきり示すものを介在させるという意味で「水と油」的なテーストも若干感じさせる。そこのところの微妙な匙加減が面白かった。
 
 「アリス」などでは参加ダンサーそれぞれによる個人プレーの色合いが濃かったし、ほかの作品はソロだったので、水と油以外のじゅんじゅん作品ではあまり感じることができなかったが、やはりこの人の振付の特徴が最大に生かされるのはアンサンブルにおいてであるというのが今回の作品を見てはっきりとわかる。精密なアンサンブルを舞台上で実現するためにはパフォーマー相互の阿吽の呼吸がどうしても不可欠で、しかたないこととはいえ、じゅんじゅんにせよおのでらんにせよ、水と油以外で集めたメンバーにはそれがないので、それでは水と油のようにちょっとお互いの間合いが狂っただけでも成立しなくなるようなタイトなアンサンブルは無理で、そのことは分かっているから作品はどうしても個人の演技中心になるか、アンサンブルが入っていても水と油に比べるとスローモーションみたい(失礼)なものになっていたが、それでも仕方がないかというのが本音であった。今回の「緑のテーブル」でそれが可能となったのは振付の対象がただ集められたメンバーではなくて、互いに長い間作品を作ってきたメンバーだつたからこそというのがいえるかもしれない。
 ただ、水と油のメンバーがかなり踊れるとはいえ基本的にマイム演者であるのに対して、Monochrome Circusはマイム的表現をかなるこなせるとはいえいえダンサー集団である。その身体性の違いが今回の「緑のテーブル」と水と油の作品を見た時の印象の違いに大きく作用している。特に大きな違いは例えばリフトといっても水と油ではほかの人の腰を持って持ち上げるぐらいの単純なもので、それゆえ振付はメンバーの横方向の移動が主体となっていたのに対して、机からの上がり下がりとコンタクトインプロビゼーションの技法を生かしての複雑なリフトを縦横に組み合わせて、垂直方向も含めた全方向の動きになっていることだ。
 この日は初日ということで、例えば手だれの作品である「水の家」などと比べるとまだまだ動きの精度がという印象もあったが、今回の公演は東京も含めれば公演数も多く長丁場。これがどこまで進化していくのが楽しみな作品となった。