下北沢通信

中西理の下北沢通信

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木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談—通し上演—」@池袋あうるすぽっと

F/T13『東海道四谷怪談—通し上演—』
木ノ下歌舞伎
監修・補綴:木ノ下裕一 、演出:杉原邦生、作:鶴屋南北

序幕・浅草境内の場

塩冶浪人四谷左門の娘(養女)お袖は、楊枝見世のおもんが病になったんで、換わって楊枝見世に出ています。そこにこう諸な岡信の伊藤喜兵衛・孫のお梅・乳母のお槙らが参詣に来て楊枝を購おうと立ち寄りますが、お袖は彼ら一行の会話から仇の家の者と知り、楊枝を売ることを拒みます。そこへお袖に以前から執心の、元塩冶家奥田将監の小者であり、今は藤八五文の薬売りである直助が居合わせ、その場をとりなします。一方、四谷左門は暮らしに困って物乞いをしていますが、うっかり縄張りを侵して乞食に痛めつけられています。そこへ通りかかって乞食を追い払ったのが婿の塩冶浪人民谷伊右衛門。彼は転び合ってまで一緒になり、妊娠までしている妻のお岩を左門に取り戻されたままなので文句言いたくりますが、左門は伊右衛門が御用金を盗んだことを言い、盗人根性のものを縁の人にするのは身の穢れとはねつけます。この様子を観ていた伊藤喜兵衛は孫が伊右衛門にのぼせていることも手伝い、伊右衛門を手なずけて塩冶の動静を知ろうと企みます。その喜兵衛に更に近づいてきたのが奥田庄三郎(奥田将監の息子。つまり、直助の元主君)です。彼は非人に姿を変えており、物乞いをして喜兵衛から高家の情報を聞きだそうとしますが態度がおかしいことと持っていた回文状から塩冶の筋とばれかかります。そこに通りかかったのが(しかし、どうしてこ〜もうまくしょっぱなから主要人物が一堂に会するんだ、いいけど。歌舞伎だからっていやそれまでだし)お袖の許婚でやはり塩冶の家のものであり今は小間物屋に身をやつしている佐藤与茂七で、何とかその場をとりなします。
お袖は昼は楊枝見世に出始めているのですが、夜は以前から按摩宅悦が営む地獄宿(売春宿)に出ています。直助はそれを知り、一度でいいから思いを遂げたいと地獄宿まで来てお袖を口説きますが拒みまくられます。そこへちょいと遊びに来た与茂七が来て、恐ろしいことにお袖が相手をすることとなります。
お袖は自分はこんなところにでてはいるが、義理ある父や姉を養いたいが為云々かんぬんと言いたてて身体の関係を拒みますが、相手が与茂七と知り、互いに驚き、ちょいとした痴話喧嘩などを繰り広げます。面白くないのは直助です。恋の恨みは恐ろしきもの。彼は与茂七を消そうとひそかに決心を固めます

序幕・おなじく裏田圃の場

与茂七は回文状を山科まで届ける為に目立たないように非人姿の奥田庄三郎と着物を交換します。そんなこととは露知らぬ直助は小間物屋の衣装と提灯を目当てに与茂七とばかり思って庄三郎を殺し、ご丁寧に面体が分からぬようにと顔の皮まで剥いでしまいます(この皮を剥ぐくだりは高橋克彦版小説「四谷怪談」にかなりしっかり書き込まれてて、その方が怖いです)同じ頃、同じ辺りで伊右衛門は舅左門を待ち受けて殺してしまいます。二人は互いの犯行を確認しあい、不適な同盟を結びます。そこに帰宅の遅い父を案じて夜鷹のようななりを(というか、ホントに夜鷹紛いをしてるんですが。しかし実はこうこうと言い立てて身体を許さぬ夜鷹という、地獄宿にいるお袖と同じようなことをしているとはお岩の弁)したお岩とお袖が来て変わり果てた許婚と父親の姿を見て嘆き悲しみます。
伊右衛門と直助は何食わぬ顔でそこに来合わせた体をとり、仇をとってやるからとお袖とお岩に申し入れます。お岩は勿論、お袖も仇の為と直助と仮の夫婦になることを承諾します。

2幕目・四谷町の場

お岩は産後の肥立ちが悪く臥せったままで伊右衛門は傘張り内職を日々のタツキにしています。宅悦の紹介を得て雇った小者の小仏小平が旧主の塩冶浪人小塩田又之丞が足腰立たない難病に罹ったのを治す為、民谷家に伝わるソウキセイという万能の妙薬を盗んで逃げたのを伊右衛門の悪友秋山長兵衛・関口官蔵が引き戻してきたので、伊右衛門は杉戸の中に小平を閉じ込めてしまいます。
伊右衛門の隣家に住む伊藤喜兵衛は乳母のお槙に何くれとなく料理や着物を届けさせていましたが、今日は血の道に効くという伊藤家に伝わる妙薬を持参してきました。お岩はそれを有難がっていただきますが、その薬こそが飲めば面体崩れる恐ろしい毒薬だったのです。お岩がまさか、そんなことになっていようとは思いもしない伊右衛門は、能天気に長兵衛・官蔵と共に伊藤家を訪れ、小判や小粒入りの吸い物を振舞われています。喜兵衛はお梅の恋心を打ち明け、嫁に貰ってくれぬかと伊右衛門に聞きますが、伊右衛門は妻ある身と断ります。それを聞いた喜兵衛は実はかくかくしかじかと、毒薬を届けたことをコクります。伊右衛門は、ほいじゃと、嫁取りと引き換えに高家仕官を喜兵衛に約束させます。
民谷家に来ていた宅悦はお岩の苦しみようにアタフタしてましたが、その顔の変化に腰を抜かさんばかりに驚き、理由をつけて家を出ます。帰ってきた伊右衛門はお岩の顔の凄まじさに驚きますが、逆に肝が据わり、蚊帳や着物や櫛を質草にと取り上げようとします。
伊右衛門は宅悦に金を掴ませ、岩と不義をするようにと言いつけます。宅悦はこわごわ密通をしようとしますが、岩の激しい抵抗にあい、実はこうこうと全てを打ち明けます。怒り狂った岩は伊藤家に「礼」を言いに行くと宅悦に鉄漿の用意をさせ、髪を梳きますが、梳くそばから髪は抜け(この辺りが有名な髪梳きの場です)握り締めた抜け髪から血が滴ります。あまりのことに憤死したお岩は更に念入りに、自分が宅悦に斬りかかった刀(柱に刺さってたんですよ)で首を切り裂かれ、完全に死んでしまいます。(ここんとこ、よく覚えといてください。お岩は「自分で死んだ」んです)杉戸の中で縛り付けられ、猿轡をかまされていた小平は一部始終を見聞きしており、伊右衛門を罵りますが、伊右衛門に殺され、しかも不義密通の汚名を着せられて戸板に裏表にお岩と一緒に打ち付けられ、川に放り込まれます。この時、小平の折られた指が蛇に変わるご愛嬌もあります。お岩の死と共に突然飛び出した猫が大きな鼠に食らわれたり、赤ん坊が大勢の鼠に引きずられていくというお楽しみもあります。鼠というのは、お岩が子年の生まれ(あたしじゃん。。。(・・;))からきています。何食わぬ顔でお梅と内祝言を終える伊右衛門ですが、床入りの時にお梅にお岩が取り付き、伊右衛門はお梅の首を落としてしまいます。慌てて外に出ると赤ん坊を食っている小平がいますんで、伊右衛門はそいつもぶった斬りますが、それは実は伊藤喜兵衛でした。
(木ノ下歌舞伎ではここまで1幕目)
3幕目・隠亡堀の場

祝言の日に新妻と舅を相次いで殺害してしまった伊右衛門はそのまま遁走。お梅の母お弓とお梅の乳母お槙は非人にまで身を落として仇である伊右衛門を探しています。しかしお槙は民谷と伊藤の血をことごとく絶とうとするお岩の亡霊に川の中に引きずり込まれ、お弓もまた偶然に出会った伊右衛門によって川に突き落とされます。伊右衛門の実母お熊は現在は小仏小平の父である仏孫兵衛の後妻に落ち着いているのですが(なんてややこしいというか、回る因果の火の車というか)ヤバい立場に立った伊右衣文を死んだと世間に見せかけるために俗名民谷伊右衛門と仕立てた卒塔婆を作って隠亡堀に来て伊右衛門と会います。お熊から高家仕官のためのお墨付を受け取った伊右衛門ですが、盟友秋山長兵衛が伊藤家惨事の咎人としての疑いがかかって高飛びをするから路銀をよこせと迫る為、そのお墨付を渡してしまいます。一方、袖と仮の夫婦として所帯を持った直助は今は権兵衛と名を替えて鰻かきを生計としていますが、その鰻かきに鼈甲の上物の櫛が引っかかり、今日の獲物と持ち帰るところ。隠亡堀で釣り糸を垂れる伊右衛門が引っ掛けたのは戸板でして、これが菰をめくると殺したはずのお岩と小平。有名な戸板返しの場面です。
更に非人の姿で回文状を抱えた与茂七までもが加わって、暗闇の中、だんまりにて伊右衛門・直助権兵衛・与茂七三人が探り合い、与茂七の回文状は直助に渡り、直助の鰻かきは伊右衛門に真っ二つにされ、直助の柄は与茂七が。だから因果は巡る、心火の中。。。。
(木ノ下歌舞伎ではここまで2幕目)
4幕目・深川三角屋敷の場&小塩田隠れ家の場

直助権兵衛と仮の夫婦として書体を持った働き者のお袖は香花を売ったり洗濯の仕事を請け負ったりしています。巷では万年橋に流れ着いた男女を貼り付けた戸板の噂。洗濯頼むと古着屋の庄七が持ち込んだ着物は正に、その戸板の男女の女が身につけていた湯灌場物でした。姉岩の着物に似ていると不審がりながらもお袖は着物を盥に漬けておきます。そこに戻ってきた直助権兵衛に渡された櫛は、こちらは紛れもないお岩が大事にしていた母の形見。盥の中から手が出て直助の腕を掴むシーンも、又有名です。そこへどんな力で迷い込んだか按摩宅悦がふらふらと訪れます。宅悦にお岩の最期の様子を聞いた袖は覚悟を決め、敵の助太刀をしてもらうために直助と「真の夫婦」になる為の固めの酒を酌み交わします。
ところが事が終わった直後に現れたのが死んだと思っていた許婚の与茂七。実は彼は旅先で病を得、江戸で何が起こっているかまるで知らぬままにやっと戻りついたのですが、隠亡堀で回文状を直助に拾われたため、自分が手にした「権兵衛」と焼印のついた柄を頼りに訪ねてきたのです。昔の亭主と今の亭主。進退窮まったお袖は二人にそれぞれ因果を含み、殺しの手筈を伝えます。

さて。舞台変わって、こちらは仏孫兵衛が家。ここでは足腰立たない難病に罹った小塩田又之丞が匿われていますが、後妻のお熊は彼を厄介者扱い。オマケに小平の息子である次郎吉(実は4幕目の最初にお袖の家に蜆売りに来てたりします。因果は巡る。。。もう、いいか)をいびりまくり。おまけに小平の亡霊が次郎吉の身体を使って古着屋庄七から蒲団やカイマキを持って来たため、又之丞は盗人呼ばわりされる羽目に。たまたま仇討ち同士の配分金を持って訪れていた塩冶浪人赤垣伝蔵は又之丞が盗人に成り果てたと思って同士から外されるであろうと告げて帰ってしまいます。進退窮まって切腹しようとした又之丞の前に小平の亡霊が現れ、ソウキセイを渡して消えます。ソウキセイのおかげで信じられぬ勢いで病が癒えた又之丞は義士の面目が立つと喜びます。

さて、再び舞台は変わって、こちらお袖・権兵衛・与茂七の三人三様絶体絶命、三角屋敷。
お袖に言われ、それぞれに行灯の火が消えたのを合図に屏風を突き刺した権兵衛と与茂七が見たものは、二人の刃に突き刺され、虫の息のお袖。与茂七には知らぬこととはいえ、亭主と誓った相手が生きていたのに他の男と枕を交わした面目なさを謝り、来世は同じハスの上での夫婦を誓い、権兵衛には父姉の仇を討った後で臍の緒の書き物を頼りに一人きりの実の兄を探してほしいと頼みます。
ところが。あ〜〜。因果は巡り、因果は回り、因果はうろたえ、因果は走る。
お袖が探すその兄こそ、実は直助権兵衛。更に自分が殺してしまったのが旧主奥田将監が息子庄三郎と知った直助は虫の息のお袖の首をはね、与茂七に回文状を託し、己は自害して果てます。

5幕目・蛇山庵室の場

心の垂れ幕がかかり、伊右衛門の夢の場です。
秋山長兵衛を共に連れた殿様姿の伊右衛門は鷹狩に来て、ある百姓家で糸紡ぎをする美しい娘(実は亡きお岩)と出会います。二人はすぐに心も身体も打ち解けあい、長兵衛は面白くないので出て行って、お化け燈籠などに驚き逃げます。伊右衛門も夜が更けて帰ろうとしますが娘に止められ、更に正体を現したお岩の亡霊に襲われます。

うなされる伊右衛門百万遍の念仏を唱え続ける在所の人々。そこへ伊右衛門の実父である進藤源四郎が訪れます。伊右衛門は覚めても産女姿の岩に襲われます。更にネズミに苦しめられてかなわぬからとお墨付を返しに来た長兵衛を縊り殺すお岩。そのお墨付はネズミに食い破られ、使い物にならなくなっていました。伊右衛門を勘当した源四郎もまたなぜか首を括った自殺体となり、お熊も岩に食い殺され、民谷の血は伊右衛門一人を残して完全に絶えました。
その伊右衛門も駆けつけた与茂七の一刀を浴び、雪しきりに降り、拍子幕
(木ノ下歌舞伎ではここまで3幕目)

 木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談—通し上演—」@池袋あうるすぽっと観劇。ただ、この日はこの後、ももクロのライブビューイングを控えていたため、時間的に3幕目は見られず、1幕目、2幕目のみの観劇となった。昨年、京都で「義経千本桜」の通し上演を見て、それを昨年(2012年)のベストアクト1位に選んだのだが、同じ通し上演でも「東海道四谷怪談」*1と「義経千本桜」では印象が違う。
 「義経千本桜」は幕ごとに演出家・演出プランをがらりと変えての上演であったが、今回は全幕の演出を杉原邦生が担当した。「東海道四谷怪談」は実は彼らの旗揚げ公演でも取り上げた作品。今回は通し上演で同じく通しで上演した「義経千本桜」とは異なり、外部から演出家を招かなかったのはそれだけ思い入れの作品だからということもあるかもしれない。

*1:まだクライマックスとなるはずの3幕目を見る前の段階での感想