下北沢通信

中西理の下北沢通信

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歌舞伎座壽初春大歌舞伎

歌舞伎座壽初春大歌舞伎

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 歌舞伎座「壽初春大歌舞伎」を三部ともに観劇。この日は幕が上がって2日目だが、半沢直樹効果か松也の出た「壽浅草柱建」猿之助出演の悪太郎の第一部は通常の半分という現在のキャパでほぼ満席に近かったのに対し、他の回は空席が目立ち、観客のキャパを半分に絞り込んでいるから採算がとれない以前の問題として、コロナ禍のもとまだまだ劇場に観客が戻っているとは言い難い現状が痛感させられた。
 とはいえ、全体を通して言えば内容的にはなかなか見ごたえのある演目が並んだ。尾上松也中村隼人らによる「壽浅草柱建」は正月らしく曽我兄弟が登場する舞踊劇だが、例年であれば浅草公会堂での「花形大歌舞伎」に参加する若手が今年はそれがないため歌舞伎座への朝一番での登場となった。曽我五郎時致、曽我十郎祐成、小林朝比奈、大磯の虎ら「壽曽我対面」でおなじみの人物が勢ぞろいするが、舞踊劇とあってセリフはあまりない代わりに登場人物が七福神に見立てられるというビジュアル面での面白さがあって、華やかだし新春の演目に相応しかったのではないだろうか。
 続く「悪太郎」も舞踊劇だが、こちらは狂言がもとになっているだけにコミカル。深みはあまりないが、理屈なく楽しめ、ドラマ「半沢直樹」から猿之助の面白演技を期待してきた観客にも満足感を与えられるものだったのではないだろうか。
 この日の演目では第三部の「らくだ」も酔っぱらった男が大暴れという内容なのだが、舞踊劇として様式化された「悪太郎」と原作が落語で世話物的なリアリズム表現の「らくだ」とでは演技体に大きな差異があり、歌舞伎の表現の幅を感じさせるという意味でも興味深かった。
 第二部は古典歌舞伎の典型的な演目が並んだ。「夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)由縁の月」は「廓文章 吉田屋」で知られる夕霧狂言のひとつだが、舞踊劇となっている。そのために伊左衛門の情けなさをたっぷりと見せていく上方世話物のコミカルさはあまりなくて、私には少し退屈だった。舞踊劇が多いのはコロナ感染対策もあるのかもしれないが、どうせなら「廓文章 吉田屋」そのものが見たかった。
 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)祇園一力茶屋の場はこれも個人的な好みがあるのかもしれないが、なぜか吉右衛門の芝居にあまり魅力を感じなかった。この演目はもちろん何度も観劇経験があるのだが、一昨年末京都南座片岡仁左衛門、昨年年初に浅草で尾上松也の大星由良之助を見ていて、これがどちらも華があってよかったのだが、芸の力はあるのかもしれないけれど、どうも仁左衛門、松也のような役者としてのオーラがこの日の吉右衛門からは感じとることができない。
 第三部は菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)「車引」「らくだ」。 「車引」は高麗屋三代の揃い踏みである。白鷗はみごとな口跡で、幸四郎もそれに負けず劣らずのせりふ回し。比べると染五郎はまだまだ声の深みに欠けるきらいはいなめない。とはいえ、立ち姿の美しさは抜きんでていて、今後が楽しみである。祖父と父はいずれも外部の仕事で評価を高めていった。祖父のミュージカル、父の劇団☆新感線のような新たな出会いが今後染五郎にも出てくるだろうか。
 最後の「らくだ」は愛之助の達者さが際立った。最初はおとなしいのに酒が入ると態度がどんどん大きくなっていく紙屑買久六の酒乱ぶりをみごとに演じて万座の笑いをとっていた。「半沢直樹」でもコミカルな役作りが抜群であったが、これまではどちらかというと仁左衛門仕込みの色気のある二枚目の役が目立った。この人はやはり喜劇にも才能ありだと思う。

演目と配役
第一部
一、壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)
曽我五郎時致
曽我十郎祐成
小林朝比奈
大磯の虎
化粧坂少将
喜瀬川亀鶴
茶道珍斎
小林妹舞鶴
工藤左衛門祐経
松也
隼人
巳之助
米吉
莟玉
鶴松
種之助
新悟
歌昇
岡村柿紅 作
二、猿翁十種の内 悪太郎(あくたろう)
悪太郎
修行者智蓮坊
太郎冠者
伯父安木松之丞
猿之助
中村福之助
鷹之資
猿弥
第二部
坂田藤十郎を偲んで
今井豊茂 脚本
一、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月
藤屋伊左衛門
扇屋夕霧
太鼓持鶴七
同  亀吾
同  竹三
同  梅八
扇屋番頭藤兵衛
扇屋女房おふさ
扇屋三郎兵衛

鴈治郎
扇雀
亀鶴
虎之介
玉太郎
歌之助
寿治郎
吉弥
又五郎
二、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
祇園一力茶屋の場
大星由良之助
遊女おかる
鷺坂伴内
斧九太夫
寺岡平右衛門
吉右衛門
雀右衛門
吉之丞
橘三郎
梅玉
第三部
一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
車引
松王丸
梅王丸
桜丸
杉王丸
金棒引藤内
藤原時平

白鸚
幸四郎
染五郎
廣太郎
錦吾
彌十郎
岡 鬼太郎 作
眠駱駝物語
二、らくだ
手斧目半次
紙屑買久六
駱駝の馬太郎
半次妹おやす
糊売婆おぎん
家主女房おいく
家主佐兵衛
芝翫
愛之助
松江
男寅
梅花
彌十郎
左團次