原案 森歐外『舞姫』 / 作・演出 三浦雨林(隣屋、青年団演出部)
結成から3年。
道頓堀学生演劇祭vol.9・受賞作『或夜の感想』では芥川龍之介『侏儒の言葉』『蜘蛛の糸』に。 最後の大学内公演『あるいはニコライ、新しくてぬるぬるした屍骸』ではトルストイ『光は闇の中で輝く』に。 利賀演劇人コンクール2016上演審査・受賞作では松岡和子氏・訳のシェイクスピア『ハムレット』に。 2016年、様々な先人たちの作品にアプローチを重ねた隣屋。第10回となる次回公演は、森鷗外『舞姫』を原案に2作品を上演致します。
この3年間、劇団・メンバーともに、それぞれに活躍の場を広げて参りました。 第10回公演、心新たに作品をつくりはじめます。ご期待ください。
『棄て難きはエリスが愛、』
― 他者に救われてみよう、わたしを貧乏や空腹から救ってくれませんか。
主人公とエリスが恋仲になっていくまでの物語を原案に創作。隣屋へ初参加となる4人が出演。
出演
大蔵麻月(白昼夢) 鶴田理紗(白昼夢) 林廉 渡部そのた(空白バカボン)
『わが恥なき人とならん。』
― 誰も触れないわたしの部分、思考、感情、記憶、人のせいにしたい。
主人公とエリスが共に暮らすようになってからの物語を原案に創作。隣屋所属の俳優、ダンサー、初参加となる2人の俳優と作品を創作する。
出演
永瀬泰生 御舩康太 (以上、隣屋) 藤谷理子 春山椋
森鴎外の短編小説「舞姫」を原作とする2作品を同時上演。隣家の特徴のひとつは所属メンバーに俳優だけでなく、ダンサー(御舩康太)がいることで、それゆえ、作品が演劇とダンスの要素を適宜に組み合わせたものとなっていることだろう。2本の作品のうち、劇団のメンバーの2人が出演している「わが恥なき人とならん。」はそうした作風の作品であり、ダンス、演劇の要素を融合させた確固たるスタイルの存在を感じさせた。もちろん、元「水と油」の小野寺修二をはじめ、ダンス、演劇の両要素を組み合わせた舞台はこれまでにもあるが、隣家のそれは他の集団のそれにはない質感を感じさせるものに仕上がっており、この手法での完成度はかなり高い。
実を言えば2本を続けて見終わった印象としては「舞姫」の上演としてはこちらで尽くされているとの印象が強く、演出家によれば「作品ごとにモチーフを変えている」(三浦雨林)ということのようだったが、正直言って2本やる必要はあまり感じられなかった。
ただ、今後を考えるとこれまでの隣屋のスタイルと比べるとより会話劇方向にシフトした1本目の作品も新たな方法論の模索としては必要だったのかもしれない。それは三浦が無隣館をへて、今春から青年団演出部に所属することになったからだ。青年団での上演はスタッフも含む公演の参加者には一定割合以上の青年団所属者が参加することが義務付けられている。そのため、今後はその枠内での上演では隣屋のメンバーを使っての少人数の公演は困難になり、それゆえ、若干の作風の変容が求められることになる。最初の作品はそのための準備の意味合いもあったのかもしれないが、まだ物足りない気がしたのも確かだった。