下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

岸田國士戯曲賞受賞作品受賞後初の上演 神里雄大/岡崎藝術座「バルパライソの長い坂をくだる話」@ゲーテ・インスティトゥート東京 東京ドイツ文化センター

神里雄大/岡崎藝術座「バルパライソの長い坂をくだる話」@ゲーテ・インスティトゥート東京 東京ドイツ文化センター

f:id:simokitazawa:20190821143545j:plain

2019年8月21日(水)〜25日(日)
作・演出:神里雄大
出演:マルティン・チラ、マルティン・ピロヤンスキー、マリーナ・サルミエントエドゥアルド・フクシマ
ゲーテ・インスティトゥート東京 東京ドイツ文化センター

夫/父親の遺灰を海に撒きにやってきた人の話、
太平洋を越えた遥か昔の人類の話、
南米パラグアイで観測された皆既日食の話、
沖縄の地で今も眠る戦没者の骨を発掘する男や
小笠原でバーを経営する男の話───
オセアニアや小笠原や琉球の諸島、ラテンアメリカ
各国を自身で歩き集めたエピソードが織りなす
メッセンジャーとしての演劇”。
自身の劇言語を確立し、文学界からも注目を集める
神里が「移動」で歴史を切り拓く。

アルゼンチンに11ヶ月間滞在した神里が南米各地を訪ねて紡いだ物語。そこで出会ったアルゼンチンの俳優・ダンサーと、日系移民の家系生まれでブラジル育ち、欧州でも注目を集めるダンサーのエドゥアルド・フクシマが、その物語を体現。地球の反対側からやってきた彼らが自分たちの言葉で語る演劇。

2段ベッドや教会や屋台も置かれ雑多な異空間の客席は、建築ユニットdot architectsによるもので、そこに看板屋「看太郎」の廣田碧の書き割りによる幻想的な設えで舞台は彩られる。この珍妙なマッチングのもとで観客は自由に自分の居場所を見つけることになる。

神里雄大 創作ノート
演劇の持つ機能のうち、「伝聞」にぼくは重大な関心を持っている。誰かの言葉を、別の誰かがしゃべり、それをまた別の誰かが聞く。誰かのことに想像を巡らせることが、自らの言動に影響する、という一連の循環が演劇の根本なのではないか。
この作品で登場人物たちはたがいに知らせ合っている。その知らせが積み重なり、作品全体がひとつの大きな伝聞として、観客にもたらされる。これは移動の話であり、土地の移動のみならず、生から死へ、そして死から生への移動のことでもある。移動の積み重ねが受け継がれ、歴史を作る。そういう「伝聞」の作品である。

第62回岸田國士戯曲賞 選評

南米に生まれた彼にしか書けない、その特殊な身の丈が作り出した、他にはない世界である。
野田秀樹

対象の関心領域が国境に限定されないこと。物理的に難しいことでは必ずしもないはずなのに、その実践は少ない。神里氏は実践者のひとりだ。

日本語を、日本語で行なわれる演劇を、拓いたものにできる人の一人である。日本語を、日本を、換気できる言葉を書く人だ。
岡田利規

8月23日(金)14:00公演のアフタートークに、沖縄を拠点に活動するラテンロックバンド「DIAMANTES(ディアマンテス)」のヴォーカルのアルベルト城間氏が登壇!

日系ペルー人を代表するアーティストであるアルベルト氏と、同じくペルー・沖縄にルーツを持つ神里が、本作のテーマでもある「国や言語を越えていく人々」について、言葉を交わします。


ー プロフィール ー

アルベルト城間 DIAMANTES(ディアマンテス)ヴォーカル

ペルー生まれの日系三世。11歳からギターを学び、14歳で日系人歌謡コンクール新人賞を受賞。
中南米歌謡コンテスト優勝をきっかけに1987年来日。1991年にラテン・ロック・バンド「DIAMANTES(ディアマンテス)」を結成。作詞・作曲・ヴォーカルを担当し 1993年、デビューアルバム「オキナワ・ラティーナ」でメジャーデビュー。「ガンバッテヤンド」、「勝利の歌」、「片手に三線を」など数々のヒット曲を生み出し、全国各地でライブ・コンサートを展開。
楽曲提供や編曲・演奏などで他方面のアーティストとコラボレーションし、今まで以上に活動の場も広げている。
《楽曲提供やコラボレーションアーティスト》
宮沢和史(THE BOOM) 、真琴つばさ、中森明菜加藤紀子、大城クラウディア、しおり、MONGOL800普天間かおり・・・他

メッセンジャーとしての演劇”を標榜する最近の三部作である「+51 アビアシオン, サンボルハ」「イスラ! イスラ! イスラ!」「バルパライソの長い坂をくだる話」のうち、仮面劇であった「イスラ! イスラ! イスラ!」は確かに観劇したはずだが、このサイトにはその記録がない。「バルパライソの長い坂をくだる話」は岸田國士戯曲賞の受賞作品だが、これまで実際の上演を見たことはなく今回が初めての観劇となった。
 キャストはアルゼンチン人の俳優3人とブラジル人ダンサー1人の4人。セリフは全編スペイン語での上演で、英語と日本語の字幕つきで上演された。神里自身がアルゼンチン、沖縄、小笠原などを実際に旅行して出会った出来事や人々がモデルにはなっているが、それをそのままドキュメント*1として上演するのではなく、夫(父親)を亡くしたアルゼンチンの母子がその遺灰を海かどこかに散骨しようとしている場面からはじまり、船で出会った男と犬。さらに沖縄や小笠原諸島を訪問した男の語りが一人称で語られるのだが、実はこれが誰の語りかがよく分からない。そこが神里の作品の面白いところなのだ。

*1:ドキュメントとしての報告はこちらで行った。 simokitazawa.hatenablog.com simokitazawa.hatenablog.com