下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

劇団速度『冒した者』2019@こまばアゴラ劇場

劇団速度『冒した者』2019@こまばアゴラ劇場

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原作:三好十郎
構成・演出:野村眞人
三好十郎による、戦後日本戯曲の傑作『冒した者』。利賀演劇人コンクール2018で優秀演出家賞・観客賞を受賞した本作を、息詰まる体験的な上演としてリクリエーションします。


京都を拠点に活動するアート・コレクティブ。2016年結成。所属メンバーには、演出家のほか、陶芸家・ダンサー・アニメーター・俳優などがいる。制作する作品は舞台作品のほか、蛍光灯をピックアップしたインスタレーションパフォーマンスや、ゲストハウスの客室に宿泊する上演型展示など多岐にわたる。異なるメディアを有するアーティストによる相互批評を通して、上演することでしか成り立ち得ない表現を追求しつつ、同時に自らのメディアを問い続ける態度が特徴的。


利賀演劇人コンクール事務局, 2018

出演
稲森明日香(夕暮れ社 弱男ユニット)
井上和也
神田真直(劇団なかゆび)
瀬戸沙門
武内もも
南風盛もえ(青年団
好光義也

スタッフ
照明デザイン kehaiworks
照明操作 中西美樹
舞台監督 京都公演 浜村修司  東京公演 河井朗(ルサンチカ)
ドラマトゥルギー 朴建雄
舞台・宣伝美術 武内もも
制作 竹内桃子

アニメーション作品制作 竹山真熙

 三好十郎の「冒した者」の現代化というものの現代的の再解釈や翻案とは対極的な作劇。原作テキストの一部を抜粋し、コラージュ的に再構成しているという意味では演出家自らが影響を受けたと断じている地点に似ているともいえなくもないが、地点が基本的には「語りの演劇」の範疇にあるものと考えると劇団速度はそういうものとは言い難く、かなり異なる特徴を持っている。
 舞台を見ていて冒頭近くの部分から最初に気がつくのはこの舞台では俳優それぞれの演技の仕方がバラパラであり、そこには多くの「語りの演劇」がそうであるような共通するメソッドのようなものは感じることができないことだ。最初に発話した俳優の演技が最近のマレビトの会に見られるようは意図的に平板に聞こえるようにしたものであったことから、こういう演技スタイルなのかなと見ていると次にはもっと一般的なセリフ回しの俳優も登場していてくる。こうしてそれぞれ異なるスタイルの演者が舞台上に上がって、演出家はそれに統一感を与えるような演出を入れることほあえてしないで、まるてパッチワークのようにそれを貼り合わせていく。
 それでは演出のようなことを全然していないかといえばそうでない。やっていないのは細かい演技指導のようなことで、おそらくそういう部分は俳優(パフォーマー)の領分ということなのだろう。
 おそらく、もっとも重視しているのはセリフの途中で何度も詰まるような呼吸の仕方で、これが複数の俳優に受け継がれて、舞台全体の空気感を支配しることでそれを見せられて同じ空気感を共有している観客側も何とも息が詰まるようないたたまれないような感覚を共有させられることになる。この日アフタートークに出演した額田大志かAokidsのどちらかが、最後は見ていてこちらの方が呼吸が苦しくなってきたので一刻も早く終わってほしかったと話したが、私も同じような気分であった。そして、そのままそれは「冒した者」の原テキストで描かれた登場人物のなんともいえない閉塞的な息が詰まるような心情とも見事に重なるのであった。
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