下北沢通信

中西理の下北沢通信

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無声映画のスターの栄光と没落描く ともに映画愛に満ちたケラと三浦直之(ロロ)の親和性 KERA CROSS「SLAPSTICKS」@シアター1010

KERA CROSS 「SLAPSTICKS」@シアター1010

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KERA CROSS 「SLAPSTICKS」ケラリーノ・サンドロヴィッチの作品をケラ以外の演出家の手で上演しようという連続企画の第4弾。第1回の「フローズンビーチ」*1で2019年から始まったが、今回の演出を担当したのはロロの三浦直之である。東京芸術劇場で上演した『Every Body feat. フランケンシュタイン*2 やロロのいつ高シリーズの完結編2本立て*3、映画「サマーフィルムにのって」*4への脚本提供など今もっとも活躍が目立つ劇作家・演出家と言ってもよいと思う。
 「SLAPSTICKS」はふとっちょとして知られたロスコ―・アーバックル*5の栄光と没落を中心にサイレントコメディーが華やかだった時代の米国の映画界を描いた作品(表題のSLAPSTICKSはどたばた喜劇のこと)。ケラの無声映画好きが反映された異色作品で、ケラが無声映画のフィルムの愛好家であったことから、当時の貴重映像などをふんだんに作品中でも上映して、舞台上の俳優の演劇と組み合わせるという珍しい構成となっていた。
「SLAPSTICKS」自体はケラによる上演も見ているが、今回改めて興味深いなと思ったのは『Every Body feat. フランケンシュタイン』 などでの三浦の作品の変貌ぶりやロロのいつ高シリーズの完結編2本立て、映画「サマーフィルムにのって」でいずれも映画を作っている人たちの話であったということは単なる偶然ではなく、どの順番で企画が出来上がったのかということは分からないが明らかに相関関係があるように思う。
もっともケラと三浦には世代は違うが演劇を始める前から映画への愛があり、本当は映画を撮りたかった人が演劇活動を続けているが、映画好きが嵩じて実際に監督として映画も撮ってしまったという共通点もあるのだ。
 KERA CROSS 「SLAPSTICKS」は三浦作品によくあるような少しおかしなこだわりというものも少なくて、きわめて良く出来たオーソドックスな好舞台だったといえるだろう。観客もナイロン100℃やロロのファンというより、主演の木村達成が2・5次元演劇出身の人気俳優であることから、そちらのファンが多い印象もあり、映像の使い方も含めてそういうものを見慣れた観客も見やすい内容となっていた。木村達成はこの舞台の狂言回し的な助監督の役を演じていた。ケラによる上演で同じ役を演じたのはオダギリジョーだったので、今回のような好青年というよりはもうちょっと怪しげだった印象もあるが、木村達成の演技は好感の持てるものだったと思う。
キャスティング権がどこまで三浦側にあったのか、それともプロデュース側にあったのかは分からないのだが、これまでの上演と比べてもっとも違うのははんにゃの金田哲がロスコ―・アーバックルを演じたことだ。ケラ演出では古田新太だったので、まさに適役という感じではあったのだが、どう考えても細身の金田があえて着ぐるみの様な衣装(?)を身にまとってアーバックルを演じるのはどうなのかと舞台の冒頭近くでは違和感がどうしてもあった。
だが、演劇というのは演技であって、見かけ通りのものをそのまま提示するものではない。物語の進行につれてそんなコントの登場人物のような風体でありながら、アーバックルの心情に引き込まれていくようになり、違和感はなくなっていく。金田もそれに見合うように演技をしたということもあるだろうが、三浦演出のマジックを感じさせられた部分でもあった。
 ロロの俳優陣もワキを中心に手堅い演技で舞台を固め、劇団の強みを感じさせたが、アーバックルの親族の新人女優役を演じた島田桃子がせつない心情を演じて印象的であった。
 元乃木坂46メンバーの桜井玲香は同じく東宝製作で三浦が演出した朗読劇シリーズ《恋を読む》に二度出演した時の演技を評価されての今回の抜擢ではないかと思われるが、今回は主人公の幼馴染で元恋仲であったが、別れた後、アーバックルを陥れる虚偽の証言をする女性アリスと言う難しい役柄を演じた。役としては単なるヒロインではなく、観客にどこかもどかしさを感じさせる役柄だけにこれもキャスティング的には冒険だと思われたが、そのくらい女優としての力を期待されてのキャスティングであったのかもしれない。そういえば、今気が付いたのだが、乃木坂時代の2015年に「すべての犬は天国へ行く」*6に出演しており、その時とは演出家は違うがケラ作品ということであれば二度目の出演ということになるのだった。

【スタッフ】

作 :ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演 出:三浦直之(ロロ)

【キャスト】

出 演:木村達成 桜井玲香 小西遼生 壮 一帆 金田 哲(はんにゃ) 元木聖也 黒沢ともよ マギー 亀島一徳 篠崎大悟 島田桃子 望月綾乃 森本華 (以上、ロロ)

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:simokitazawa.hatenablog.com

*5:
www.youtube.com

*6:女優事務所であるスターダストプロモーションのアイドルのファンであるのでもどかしいのだが、出演すべき演劇を見る目としては乃木坂運営は突出している。それが結果的に卒業後、女優への転身の助けとなっている側面も大きく、スタダ各グループの運営はもう少し考えるべきだと思う。