下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団の志賀廣太郎さんが逝去

志賀廣太郎さんが逝去

青年団所属の俳優、志賀廣太郎が亡くなった。青年団には1990年、41歳で「光の都」に出演したのが初めてで、正式に劇団員になったのは1993年のことだった。私が最初に青年団の舞台を見た「ソウル市民」(1993)では劇団員になったばかりだったことになるが、確か松田弘子と夫婦役を演じていたのではないかと記憶している。この時点ではまだ若かった他の俳優陣と比べて、年齢的にも少し上だったこともあり、志賀の存在が平田オリザの劇世界に同世代の劇団にはない世代の幅と重厚さを付け加えていたことは間違いない。
東京ノート」(1994)での学芸員役もフェルメールと彼が生きた時代の空気をカメラオブスキュラなど専門的な知見を含めて語る語り口には落ち着いたなかに独自の説得力があり、地味な役柄ながらもこの舞台の世界観に重要な役割を果たした。


演技と演劇⑤ 青年団「火宅か修羅か」
青年団における志賀の代表作といえば「家宅か修羅か」を挙げなければいけないだろう。江の島近くの旅館に滞在する小説家と娘の姉妹たちの交友を淡々と描写していくなかで、やはり、この場所の近くで起こったボート事故でかつて仲間を失った男(山内健司)と交通事故で母(小説家の妻)を失った末娘の思いが一瞬交錯する。古きよき時代の日本映画を思わせるような古典的な風格を思わせる舞台だが、上の映像を見ていただければ理解していただけるのは志賀の素晴らしい声とそれが醸し出す空気感がこの舞台にとって決定的に重要だというのは映像を少し見ていただけばすぐに分かることだ。
 志賀は劇団の重鎮でありながら近年はメディア関係の仕事も増え多忙であるにもかかわらず若手の劇団員や劇作家・演出家との交流も好み、こまばアゴラ劇場での若手作家の公演の客席やロビーでもその姿を見かける機会も多かった。そうした中でともに桐朋学園大学短期大学部演劇専攻の出身であった中丸新将と共演したうさぎストライプ と 親父ブルースブラザーズ「バージン・ブルース」@こまばアゴラ劇場では女性のような乳房がある男という「普通でない」役柄を体当たりで熱演。こういう頭の柔軟さ、アヴァンギャルドさも俳優としての志賀の魅力だった。
 映像関係の仕事では人気に火が付いたテレビドラマ「THE3名様」や「三匹のおっさん」が一般には知られるが、個人的に印象深いのは「幕が上がる」での演技。国語教師役で持ち前の声のよさを生かして詩の朗読で観客をうならせる一方で主人公(百田夏菜子)の夢のシーンではジュリエットを怪演し抱腹絶倒の場面を生み出した。
 最後に顔を会わせたのは「日本文学盛衰史」(2018年6月)の吉祥寺シアターのロビー。劇団関係者と挨拶を交わす観客でごったがえした中であったので、ほんのひとことふたことだけではあったが、こちらから声をかけ、目礼した後、青年団の豊岡移転前の最後の大きな公演で「青年団の集大成を思わせる」などと舞台の感想を伝えたのを覚えている。まさに演劇の仲間たちとともに歩んだ演劇人生だったのじゃなかったかと思う。
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(敬称略)
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