下北沢通信

中西理の下北沢通信

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『アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 牧師館の殺人』@AXNミステリー

アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 牧師館の殺人 』@AXNミステリー

 実は「牧師館の殺人」は以前ジェラルディン・マキューアン・ジュリア・マッケンジー版でも見ていて、同じ原作の両者を比べてみることでそれぞれの版の演出的に力を入れている部分の違いがうかがわれて面白かった。被害者となった大佐がいかに嫌な人間であったかを大佐の行動により被害を受けたそれぞれの人物(それはそのまま容疑者ともなっていく)の心情に寄り添うような演出を重視していたのがマキューアン、マッケンジー版。それに対して、ヒクソン版では起こった出来事をもう少し淡々と描いている。劇的な効果は確かにマキューアン、マッケンジー版の方があるのだけれど、行動の裏にはクリスティーが仕掛けた叙述の罠があるのだとすればヒクソン版の登場人物それぞれの心情には寄り添い過ぎない客観描写の方が原作の味わいをより伝えているともいえそうではある。ただ「牧師館の殺人」のようにプロットが比較的単純でともすれば単調とも感じられる物語においては見ていて少し退屈と感じてしまうきらいもあるかもしれない。
 「牧師館の殺人」自体は犯人の設定ひとつとっても複数の登場人物がそれぞれの思惑で動くために全体として誰もが怪しげな行動をとるように見え、犯人の巧緻な犯行計画が逆に目立たなくなるというパターンを踏んでいる。きわめてクリスティーらしい筋立ての作品。ただ、やはり巧みな技巧を駆使した中期以降の作品と比べると物足りないとも感じた。

牧師館の殺人1

牧師館の殺人1

  • メディア: Prime Video
牧師館の殺人2

牧師館の殺人2

  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Prime Video