下北沢通信

中西理の下北沢通信

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『アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 スリーピング・マーダー 』@AXNミステリー

アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 スリーピング・マーダー 』@AXNミステリー

新婚のグエンダ・リードは、新居を求めて夫ジャイルズより一足先にニュージーランドからイングランドを訪れる。そしてディルマスで見つけたヴィクトリア朝風の家、ヒルサイド荘を一目で気に入ったグエンダは、早速その家を購入し改装を始める。しかし、初めての家のはずなのに、石段、居間から食堂へ通じるドアなど、なぜか隅々まで知りつくしているような思いにとらわれ不安を感じ始める。さらに、古い戸棚の中からは彼女がまさに思い描いた模様の壁紙が現れた。

恐怖を感じたグエンダは、ロンドンに住むジャイルズのいとこのレイモンド・ウェスト夫妻からの招待に応じ、レイモンドの伯母のミス・マープルたちと芝居の観劇に行く。ところが「女の顔をおおえ、目がくらむ、彼女は若くして死んだ」という台詞を聞いたとたん、グエンダは悲鳴をあげて劇場を飛び出してしまう。気が狂ったのではないかと思い悩むグエンダは、マープルにこれまでのすべてを打ち明ける。さらに彼女は、芝居の台詞を聞いた瞬間、ヒルサイド荘で殺された女を思い描いたことを話す。マープルは、彼女の告白の中に「回想の殺人」を見出す。

 私が「過去」タイプのホワットダニットと名付けた類型プロットの典型。ポワロの「カーテン」同様に中期にすでに書かれ死後に出版される予定だったが、こちらは生前にミス・マープル最後の作品として発表された。「スリーピング・マーダー」とは直訳すれば寝ている殺人ということだが、もう少し分かりやすく解釈すれば眠ったまま存在さえ曖昧になっている殺人事件を寝た子を起こすように掘り起こすということだろう。「寝た子を起こすな」という諺もあるがミス・マープルの「寝た子を起こすな」というアドバイスを振り切り、過去に起こった義母の失踪事件の真相を探ることに邁進するグエンダ・リードは知らずにすんでいた父親の死の衝撃の真相のパンドラの箱を開け放ってしまう羽目になってしまう。
 この作品のきもは本当は父の病の判明から娘である自分も同じ病に蝕まれているのではないかと自己に対する疑いを引き起こすところにあるのではないかと思われるが、このヒクソン版ではそのあたりは意外とあっさりとスルーされている。劇的効果としてはこのあたりをもう少しきめ細かくフォローした方が物語の流れとしてはよくなるのではないかとも思った。

"Sleeping Murder"
11 January; 18 January 1987
John Moulder-Brown, Jean Anderson, Terrence Hardiman, Frederick Treves, John Bennett, Geraldine Newman, Jack Watson, Jean Heywood, Amanda Boxer, John Ringham, David McAlister, Kenneth Cope, Gary Watson, Donald Burton, Sheila Raynor
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A young wife, Gwenda, believes her house is haunted. With Miss Marple's guidance, she comes to realize she witnessed the murder of her stepmother there 20 years ago, as a child. Despite Miss Marple's advice to let sleeping murder lie, the newlyweds decide to investigate the crime, putting Gwenda's own life at risk by stirring a sleeping murderer in the process.