下北沢通信

中西理の下北沢通信

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東京芸術祭2020 芸劇オータムセレクション「ダークマスター VR」@東京芸術劇場

東京芸術祭2020 芸劇オータムセレクション「ダークマスター VR」@東京芸術劇場

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 上映時間正味50分程度だから、正直言って演劇公演と考えると物足りない部分があることは間違いないけれども、体験としてはきわめて刺激的だった。技術的にはライゾマティクスリサーチとMIKIKOが以前行った公演*1に近いかもしれないが、ライゾマは生(リアルタイム)でやっているので、あらかじめ収録されたものを流している今回の公演を「VR演劇」などと呼ぶのは間違っているような気はする。 
 会場内には20席強のブースが用意されていて、ブースに入ると目の前の台の上に立体映像が映るVRゴーグルとヘッドフォンが置かれていて、入場者はそれを装着する。
 庭劇団ぺニノの『ダークマスター』は以前、こまばアゴラ劇場で観たことがあり*2、物語は設定の背景などは省略されているものの、客として偶然訪れた男(今回は女かもしれない設定)が食堂のカウンターの中にいたマスターにやとわれて、月50万円というかなりの高額収入でマスターの代わりにカウンターのなかで料理を作る仕事をはじめる、という物語の設定は踏襲されている。
演劇版の「ダークマスター」はリアルな舞台装置で狭いカウンター席だけの食堂(キッチン)が作られていて、全体としては客席の背後から店内を覗き込むような観察的な視点で作品が作られているのに対して、「ダークマスターVR」がゲーム的な一人称視点(いわゆるカメラアイ)。カウンターの客席側からはじまって、その次はカウンターの内側で、耳に仕掛けられたマイクロスピーカーからのマスターの命令通りに料理を作って客に提供する様子を追体験することになる。
 ダークマスターというのは食堂のマスターと同時にダークマスター(闇からの支配者)というダブルミーニングで、ここで働くことになった男(女)はマスターの命令通りに動いているうちに次第にマスターに五感を奪われて、同一化していってしまうという一種のホラーめいた奇譚となっているが、それが最初、食欲(食)からスタートし、次はトイレに行くことを命令され、排泄欲を支配され、最終的に性欲まで支配されることになる。最後のシーンはかなりショッキングなもので今回の作品の肝だと思うが、この作品がそのまま面白かったというよりはこうした技術に今後どのような可能性があるのか*3について、考えさせられたことが今回の観劇の最大の成果だったかもしれない。

原作・画
原作:狩撫麻礼
画:泉晴紀 (株)エンターブレイン「オトナの漫画」所収

脚色・演出
タニノクロウ
庭劇団ぺニノの代表作『ダークマスター』が、VR作品に!?
2003年の初演から根強い人気を誇り、国内のみならず、近年はフランス、オーストラリアでの上演もおこなった『ダークマスター』。2020年の東京で、前代未聞のVR(ヴァーチャル・リアリティ)作品として上演します。

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:近い将来、確実に性風俗的なものには活用されることになるはずと思う。