げんこつ団「ダイヤのモンド」@下北沢駅前劇場
今から5年前の2016年11月の「四半世紀の大失態」*1のレビュー冒頭に次のように書いた。
「四半世紀の大失態」は表題通りにげんこつ団の25周年記念公演である。一言で25周年というが、これはある意味驚くべき事だ。「純度の高い笑いだけを追求し続けるのは難しい。関西の雄、ベトナムからの笑い声が活動を休止したいま女性だけの劇団でありながら、なんの意味もなくただ笑いだけを追い求めるげんこつ団の存在は一服の清涼剤といっていい」と書いたのは何年前のことだろうか? ましてやげんこつ団は女性だけをメンバーとしている。作演出以外の旗揚げメンバーはすべて入れ替わり劇団が継続する例はあるがこの劇団は脚本・映像・音響・演出の一十口裏、振付・演出の植木早苗ら中心メンバーが健在であり、こうした形で25年続けてきたというのは稀有な例であろう。
感想の中身はほとんど変わっていないのだが、ということは今年は劇団設立から29年、記念すべき30周年記念の年に後1年と迫っている。その間に成熟したり、大人の表現になったりすることもなくは作風はほとんど変わらない。もちろん、若干マンネリを感じされることはあるが、素晴らしいのは今年の「ダイヤのモンド」がこの作風の中でも1、2位を争うほどの出来栄えではないかと感じされられたことだ。
出演者は全員女性だが、全員が背広を着ての男性サラリーマン役(多くの場合禿ヅラを着けていたりもする)のだが、劇団発足時からのオリジナルメンバーである植木 早苗、春原 久子がいまだに主要キャストを張っているうえに、20代の若手女優も参加しているキャスティングが素晴らしい。
俳優(女優)をどのように集めているのかが見当もつかないのだが、特に秋月三佳という女優に目が留まり、「どこかで観たことがある」という記憶があり、ひょっとしたら映画「幕が上がる」の杉田先輩役ではと思ったのだが、これは私の勘違い(こちらは秋月成美)。秋月三佳は映画公開と同じ年の本広克行演出「転校生」に出演していた女優なのだった*2。
これは直近のももクロの冠番組「ももクロちゃんと。」に本広
克行監督が出演。「幕が上がる」には続編の構想があって、ユッコ(玉井詩織)は小劇場の女優として今でも頑張っている、という話をしていたのが一瞬、この芝居に出てきた秋月三佳と二重重ねになっていたこともあるのだ*3。とはいえ、そんな妄想が惹き起こされたのは秋月三佳がそれだけ魅力的だったからでもある。
そういう勘違い妄想はともかく、人間が巨大化して、その人体の細部(毛穴とか)を住宅として分譲、そこに多くの人が住むようになる未来世界、その世界は皆があるおばさんキャラ(人名は失念)になってしまうという謎のウィルスの蔓延により危機に瀕していることなど相変わらずの突飛な発想だが、コロナウィルスが蔓延する現実世界とのシンクロニシティ―もあってか、ナンセンスにある種のリアリティーも生じてくるような作品に仕上がっていたのではないか。
それにしても、改めて驚嘆すべきなのは植木早苗、春原久子の変わらなさ。怪物的だと思った。変わらないという意味ではSPACの美加理にも匹敵するのではないか。
脚本・演出・映像・音響/一十口裏
振付・演出/植木早苗
出演
植木 早苗 春原 久子 河野 美菜
池田 玲子 三明 真実 丹野 薫
秋月 三佳 藤岡 悠芙子 シゲキマナミふやけた町に生まれて煌めく
ダイヤのモンドの乱反射
げんこつ団の最新作は
ブリリアントなダイヤのモンド
*1:simokitazawa.hatenablog.com
*2:当時もキャスト表を見て勘違いしていたのも同時に思い出した。
*3:つまり、そんなことはそれまで考えたこともなかったが、この芝居に出演していたのがユッコだったとしてもおかしくなかったのだなとも思ったのだ。