康本雅子『全自動煩脳ずいずい図』＠シアタートラム
コロナ禍で延期になっていた作品の上演や偶然もあるのかもしれないが、最近規模がある程度以上大きなコンテンポラリーダンス作品の公立劇場での上演*1が目立つようになっている気がする。康本雅子『全自動煩脳ずいずい図』＠シアタートラムもそのうちの１本。今年の春、ロームシアター京都で初演された作品の再演となった。
康本雅子といえばかつて横浜ソロ＆デュオ、トヨタコリオグラフィーアワードなどコンテンポラリーダンスのコンペティションや吾妻橋ダンスクロッシングなどダンスショーケースの常連*2であった。大人計画作品へのダンス振付でも知られ、現在もこの分野のアーティストで演劇作品へのダンス振付と自分のダンス作品の創作を並行して行う活動形態としているダンスアーティストは多いが、そうした活動スタイルの先駆者のひとりと言えるかもしれない。
演劇作品では群舞を振り付けることも多かったが、これまで見た康本のダンス作品の多くは本人が踊るソロ*3であり、本人も出演しているとは今回のように大人数（８人）の作品を観たのは初めてかもしれない。
冒頭から仰向けになって手足をばたばたとさせたり、顔を隠してフロアポジションで四つん這いになったりと赤ちゃんや幼児を思わせるポーズが目立ったり、ダンス的に寓意として処理されているとはいえ、かなり露骨に性行為を思わせるようなシーンが出てきたりと、生殖と性の欲望のようなものが主題なのであろうということは作品全般から感じ取れる。ダンスでは身体そのものを舞台に晒すことから、セクシャルなものに対しては禁忌として扱うことが多い。
確かに康本雅子の場合はソロ作品の時からキュートな女性性を作品のアクセントとして意識していたことがあったが、多くの場合はキャラクター的に処理されていた。こういうドロドロしたものをかなり直接的な表現として出してくるタイプのアーティストではなかったので驚いた。
実はコロナ以降あまり劇場に行ってないこともあり、公演情報に疎くなっていたため、この公演の情報を知ったのも直前だった。今回は合田有紀*4、辻本佳、泊舞々*5らもともとダンスを見たことのあるダンサーも参加していたことも知り、入っていた他のスケジュールをキャンセルし、当日券で飛び込んだ。だが、冒頭からしばらくは生殖のイメージが濃厚に感じられるドロドロした雰囲気にけっこういたたまれないようなところもあった。「来たことが失敗だったかな」と思う瞬間もあったが、最後まで見るとダンスではこれまであまり表現されてなかったような内容が表現されていて、刺激的な作品だったと思う。濃厚接触ありありの作品でもあり、コロナに配慮した変更が作品の演出に加えられることも珍しくない現在の状況下で、感染対策はいつも以上に行われたとは信じるが、相当な決断だったのではないか。
世代が異なるが個人活動としてはやはりソロ活動が中心だった三東瑠璃や東京ELECTROCK STAIRSの高橋萌登も自らのカンパニーを立ち上げ、グループ作品を上演した。こうした動きがコンテンポラリーダンスの復活につながればと思う。
出演・スタッフ
振付：康本雅子
出演：小倉笑*6、菊沢将憲、合田有紀、小山まさし、鈴木春香、辻本 佳、泊舞々
、康本雅子音楽提供：オオルタイチ
舞台監督：原口佳子
音響： 大久保歩（KWAT）
照明： 筆谷亮也
衣装： 南野詩恵
宣伝美術：丹下紘希
企画・制作：奥野将徳
主催：ペーハー、康本雅子
共催：ロームシアター京都（公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団）
レジデンス協力：穂の国とよはし芸術劇場PLAT ／豊橋市
京都芸術センター制作支援事業2020年11月5日（木）～8日（日）＠シアタートラム
2020年11月14日（土）・15日（日）＠北九州芸術劇場 小ホール
チケットについて
【東京公演】
【チケット料金】
前売一般 3800円、学生3000円、高校生以下1500円
当日一般 4500円、学生3500円、高校生以下2000円
※全席指定席
※未就学児童は入場不可
