下北沢通信

中西理の下北沢通信

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チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」@配信

チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」@配信

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配信映像
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 配信で観劇。コロナ禍のもとで感染リスクが多少ともある劇場での観劇を避けたということもあるが非常事態宣言以降配信や映像演劇に積極的に取り組んだ岡田利規の作品の生での鑑賞とは全く異なる配信での観劇体験が自宅で楽しめたといえるかもしれない。
 この作品では岡田利規は相当に奇妙な言語テキストを展開する。テキストは突然家の洗濯機が故障してしまう若い女性(安藤真理)がコインランドリーに出かけるようになるという日常的な出来事を描いた一コマから始まる。彼女はコインランドリーで洗濯機のフィルターという部品が突如壊れて外れてしまうと同じ故障事故に出会った人々と相次いで出会うという不思議な出来事に遭遇する。
 ところがその物語は突如切断されるように終わり、次のシーンでは公園に突然現れた奇妙なオブジェのようなものの詳しい形状を説明する男が現れる。そして、それが実はタイムマシーンで、それによってこの世界にやってきた未来移民たちが現在のこの世界の政府が行っている政策判断に異議を唱えることになったことが語られる。語りの内容も語りの形式も最初のシーンとは大きく変貌して視聴する側はとまどってしまうばかりなのだが、時の政府がこの未来人の干渉を認めず、さらにその存在自体を否定する政策を決定するという展開はこの作品は2019年10月KYOTO EXPERIMENTとコロナの前に初演されており、昨今のコロナ禍とは無関係だが、どうしてもこのところの政府のコロナや五輪に対する対応のことを踏まえて寓話的に描いたのではないかと思われてしまうような内容となっている。
 さらにシーンはまた変わる。今度は未来人の一人称の語りのような形で「この世界の人間が時間に縛られた人間であり、そのようなものとしてしか認識ができない存在だ」ということが語られる。つまり、現世に生きる我々は私たちが生きている実時間しか本当には認識できず原発が生み出す放射性物質の処理や増加し続ける赤字国債など手に余る難題はすべて自分たちが本当には認識できない未来へと無責任にぶん投げてしまいことで、あたかも解決したかのような気になっていることが指摘される。これはすべてモノローグで語られ、「未来人の声」のような形をとるが本当のところそれが何なのかというのはよく分からない。
 作品はこのような奇妙な構成で、最後に奇妙な存在が示現してモノローグの語りを行うことには岡田がすでに手掛けている能形式を模した現代劇との共通点も感じられるが、だからと言って「消しゴム山」もそうであると言うには憚られる程度にはこの作品世界自体は能的ではないのだ。
 

作・演出:岡田利規
セノグラフィー:金氏徹平
出演:青柳いづみ、 安藤真理、板橋優里、 原田拓哉、 矢澤誠、米川幸リオン

衣裳:藤谷香子(FAIFAI)
照明:髙田政義(RYU)
音響:中原楽(ルフトツーク)
映像:山田晋平
技術監督:鈴木康郎
舞台監督:湯山千景
演出助手:和田ながら
英語翻訳:アヤ・オガワ

プロデューサー:黄木多美子
アソシエイト・プロデューサー:田中みゆき

(東京公演)
舞台監督:川上大二郎
照明オペレーター:葭田野浩介
音響オペレーター:上島由起子
映像オペレーター:樋口勇輝

プロダクションマネージャー:水野恵美
制作・広報デスク:遠藤七海、佐藤瞳

アクセシビリティ制作
プロデューサー:兵藤茉衣
プロダクションマネージャー:和田ながら

・エクストラ音声ガイド貸出 
声:太田信吾
音響オペレーター:安藤誠英

・コネリング・スタディ
ディレクター:臼井隆志、中村茜
プロダクションマネージャー:栗田結夏

ライブ配信
ライブ配信ディレクション:DrillBros(ホンゴウタカシ+イトウユウヤ)
ライブ配信テクニカルサポート:岡本彰生(ネーアントン合同会社
機材協力:株式会社ハーツ
音響オペレーター:葛西敏彦
プロダクションマネージャー:土屋光(SCOOL)

広報:村上晴香
広報ライティング:山﨑健太
票券:谷津有佳

グラフィック:金氏徹平
宣伝美術:Werkbund
ウェブサイト制作:HAUS

企画制作:株式会社precog

製作:一般社団法人チェルフィッチュ
共同製作:

〈消しゴム山〉KYOTO EXPERIMENT、Wiener Festwochen、Festival d’Automne à Paris、Künstlerhaus Mousonturm Frankfurt

〈消しゴム森〉金沢21世紀美術館

協力:コネリングスタディ/山吹ファクトリー、急な坂スタジオ、京都市立芸術大学
京都芸術センター制作支援事業
本プロジェクトは、『消しゴム山』(初演:2019年10月KYOTO EXPERIMENT)、『消しゴム森』(初演:2020年2月金沢21世紀美術館)の両バージョンからなる。

主催:一般社団法人チェルフィッチュ、株式会社precog
共催:公益財団法人としま未来文化財団(あうるすぽっと
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
公演助成:文化庁文化芸術振興費補助金舞台芸術創造活動活性化事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会

<鑑賞サポート>
文化庁委託事業「令和2年度障害者による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」
主催:文化庁、一般社団法人チェルフィッチュ

ライブ配信
令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業『文化芸術収益力強化事業』
バリアフリー型の動画配信プラットフォーム事業
THEATRE for ALL
主催:文化庁、株式会社precog、一般社団法人チェルフィッチュ

【関連企画】
コネリング・スタディチェルフィッチュといっしょに半透明になってみよう」ワークショップ
主催:株式会社precog 山吹ファクトリー、一般社団法人チェルフィッチュ
助成:公益財団法人セゾン文化財
独立行政法人 国立青少年教育振興機構 子どもゆめ基金