下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

日本劇作家協会が戯曲デジタルアーカイブ開設

日本劇作家協会が戯曲デジタルアーカイブ開設

日本劇作家協会が戯曲デジタルアーカイブを開設した。ネット上のサイトから検索、掲載された戯曲を自由に読むことができる。これまで劇作家個人が個人あるいは劇団のサイトなどで自ら自作戯曲を公開した例はあったが、日本劇作家協会という公的団体が戯曲アーカイブを開設したことの意味は大きいのではないかと思う。スタート時とあって現在は各作家1~2作程度と限定されているようだが、日本を代表するような劇作家が広く参加する団体が旗振り役となっただけに今後、大規模な戯曲データベースに拡大していく可能性を秘めているのではないか。
 少し気になるのはどの戯曲が選ばれているのかということ。戯曲賞の受賞作品などその作家の代表作品と思われるものが多い半面、例えば坂手洋二氏は「たたかう女」「最後の一人までが全体である」とけっこうレアな作品が選ばれているなど、自選なのか誰かが選んだのかが知りたいケースもある。とはいえ、個人的に嬉しいのは天野天街氏のようにこれまで出版物としてはあまり戯曲が公開されていない人の作品も収録されている*1ことで、ネットから検索可能なのは私自身の批評活動と関連しても大きな意味がありそうなのだ。沈黙劇である太田省吾「水の駅」の戯曲など貴重なテキストも収録されており、興味深い。高間響(笑の内閣)、山田百次(劇団ホエイ、青年団演出部)ら個人的に注目している若手の戯曲作品が収録されているのも嬉しい。畑澤聖悟の高校演劇コンクール参加作品である「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら」「河童」が入っているのも画期的なことではないかと思う。高校演劇コンクール参加作品の代表的な作品は現在も高校生らの手で演じ続けられることも多く、そうした作品もアーカイブにもっと入り、プロの劇作家の作品と同等の基準で演劇ファンの眼にさらされるといいのではないかと思う。
 また、日本劇作家協会らしく戯曲デジタルアーカイブ設立の目的としては「適切な方法で演劇作品として上演してもらいたい」ということも掲げられており、上演に必要な出演者人数やジャンルごとに検索することも可能となっていることも特筆すべきことかもしれない。以前は学生劇団が横内謙介成井豊鴻上尚史といった人気作家の戯曲を上演しているのをよく見たが、最近は若手の人気作家の作品がそうした学生劇団などにより、上演されるという機会も一時期より減っているのではないか*2

戯曲デジタルアーカイブは「一人でも多くの方に、末永く戯曲を味わってほしい、また適切な方法で演劇作品として上演してもらいたい」という思いで運営されています。
ぜひ、気軽に戯曲を楽しんでください。そして、気に入った作品は多くの方に広めてください。
願わくは、ギリシャの戯曲の殆どが失われながらも引き継がれてきたように、現代の作家によって生み出された素晴らしい戯曲たちも、人類共有の財産として未来に引き継がれていきますように。

作品の無断上演、無断使用は、著作権法に基づき罰せられる場合があります。法律を守って楽しくご活用ください。
戯曲デジタルアーカイブについて
戯曲デジタルアーカイブは、以下の2つの目的で設立されました。
未来の演劇人のために、戯曲のアーカイブを残し、貴重な戯曲の散逸を防ぐ。 読者が上演したい場合の上演許諾に対するアクセスやルールを明文化し、上演につながる生きたアーカイブとする。戯曲デジタルアーカイブは、一般社団法人日本劇作家協会が企画・制作・運営しています。

playtextdigitalarchive.com

*1:天野天街「コンデンス」https://playtextdigitalarchive.com/drama/download/177

*2:統計的な資料があるわけではないので、私自身がそういう学生劇団などの公演に足を運ばなくなったというだけかもしれないが。