ももクロの『家にいろTV』 第4夜 PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」@舞浜アンフィシアター
今回の「家にいるTV」ではももクロのライブ活動を総花的に紹介、その主軸が春、夏、冬の3つの大規模ライブであるとすればそれと同等な重要性を持つのが演劇、映画など演技に関する仕事かもしれない。実は一番最初にももクロの存在を知り興味を持ったのはライブの面白さもあるけれどもそれに加えて彼女らの所属がスターダストプロモーションというもともと俳優のマネジメントに長けた芸能事務所だということもある。これまでの多くのアイドルグループにおいてもAKB48の前田敦子や大島優子をはじめ、卒業した後で女優に転向した人は多かった。しかし、アイドルを続けながら女優も継続的に続けるという例はあまりなかった。それにはいろんな理由があるが最大の理由は多くの場合はアイドル運営は俳優のマネジメントには素人からだ。 そのため、女優に転身したいと考えるアイドルは卒業して俳優のマネジメントが得意な事務所に移籍することが必要だった*1。
対してももクロの所属するスターダストプロモーションは冒頭にも書いたように俳優(女優)のマネジメントが本業。ももクロのマネージャーである川上アキラは沢尻エリカの元マネージャーだった。アイドルについては門外漢であるが、俳優については現場経験は豊富だった。ももクロはSMAPや嵐を目標に上げてアイドルグループとして長く続けていくと打ち出していたが、そのモデルはジャニーズ事務所だったと思う。そして、もしそうであれば活動の柱のひとつに俳優(女優)仕事が入ってくるのは自明の理であったといえよう。
そのため、ももクロの活動には1~2年に一度ぐらいに舞台が入ってきている。コロナ禍の状況次第ではあるけれど今年も9月に玉井詩織を座長役とする明治座公演(時代劇ミュージカルと予告されている)が予定されている。今回配信するミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」(2018年9~10月)もそうした舞台活動のひとつ。演出は本広克行。映画監督としてももクロ主演の「幕が上がる」を手掛けたがその際にはプロジェクトの一環として舞台版「幕が上がる」も上演した。この「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」も映画と同じPARCO Productionによる制作。ももクロの楽曲を使ったジューク・ボックス・ミュージカルとしたのはミュージカルが初めてであったももクロへの負担を極力減らそうという狙いもあったのではないか。*2「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」のアイデアが面白かったのは多数のパラレルワールド(並行世界)があるという世界観を採用し、そのうちのひとつに「HEAVEN」というももクロと似ているがももクロではないアイドルグループを登場させたことだ。
アイドルグループ「HEAVEN」の登場ですっかりこの作品の世界に引き込まれはするが、この舞台の本当の見せ場はこの後にあるかもしれない。
残されたHEAVENのメンバーの新曲として「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」が披露されるが、 妃海風が出てきて「この世界はカナコの夢の中の世界でもうすぐ消滅する」と伝える。本広監督のイメージではこの辺りの作品構造のモデルは押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」*3であるということらしい。
これは本広の確信犯的なもので脚本の鈴木聡に執筆の前に「うる星やつら2 」を見てほしいとの注文をつけたらしい。同作品はループ構造やゲーム的な世界観からゼロ年代の作品に大きな影響を与えているが、大本の「うる星やつら2 」をはじめ多くの作品で導入されているループ構造はここではない。ここで受け継がれているのは「生きることの全ては夢の世界のできごと」というテーマ。もちろん、これは新しいものではなく、元をたどれば「荘子」の一節「胡蝶の夢」からの影響も大きい*1。
「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」が面白いのはその世界観に深みのあるディティールはないのだけれど、その世界はいくつかの短いルールによって規定されているような仕掛けになっていることだ。
このミュージカルは4つの世界から構成されている。一つ目はカナコたち4人がダンス部で翌日に高校ダンスの決勝を迎える世界。ところが冒頭の部分で自動車事故が起こり、次にカナコが気がつくと「天国」に来ている。
仲間の3人(アヤカ、シオリ、レニ)を探すカナコだが、4人は死んでカナコ以外の3人はすでに生まれ変わってしまったと告げられるが、どうしてもダンスの大会で3人と踊りたいカナコは納得しない。
逆に天使たちから時空間転送装置を奪って、生まれ変わった3人のところに会いに行く。
当時書いた感想の抜粋だが、今回作品を見直して思ったのは「幕が上がる」でも「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」でも作品をももクロのリアルストーリーと連関させているのは単なるファンサービスではないということだ。作中人物に「あまりにもうまくいきすぎておかしい」と言わせているが、そもそもももクロのこれまで辿ってきた歴史こそが劇中のセリフのように「できすぎている」「どこかおかしい」「何かの力が働いているとしか思えない」ようなものだ。HEAVENは発足時に9人いたメンバーが次々と卒業し最後にはダンス仲間の4人が残るが、これは最大人数9人いたももクロが現在4人になっている現実のももクロを意図的に反映している。この「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」は2018年9月だからこの年の初めに有安杏果が突然卒業するという最大の危機を迎えたばかりだった。ファンの間にもわだかまりやもやもやが残る中で、カナコの口をかりてやめるのも続けるのも「それが正解」と言わせたことの意味は決して小さくはなかったと思う。今回見て考えたのはこのミュージカルぜひ再演してほしいということだ。この物語は最近のアイドルならびにスターダストプラネットに立て続けに起こる出来事も連想させる*4。
それゆえただ再演するというだけでなく、今度はぜひHEAVENのメンバーにスタプラの後輩のアイドルを起用して、彼女たちにも歌割りを与えてもらいたい。それならば期間限定で実際にHEAVENとして活動することもできる*5。
初演時のHEAVENのキャストを務めたメンバーはとてもよかったけれど、いろんな問題でやむを得なかったけどやはり歌割りがももクロメンバーだけだったことには違和感があった。ももクロ以外のHEAVENメンバーはちょうど5人いるわけだけれど、数も一致するからたこやきレインボーのメンバーが卒業して結成する新ユニットを起用するというのはどうだろうか*6。
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公演日程2018年9月24日(月・休)~2018年10月8日(月・祝)
会場舞浜アンフィシアター
作鈴木聡
演出本広克行
出演百田夏菜子 玉井詩織 高城れに 佐々木彩夏
(ももいろクローバーZ)
妃海風 シルビア・グラブ井田彩花 伊藤彩夏 大澤えりな 草野未歩 KUJINKO 小石川茉莉愛 佐藤マリン 滝澤梨吏華
二橋南 MIO 八尋由貴 結木春衣 吉田 藍 大澤信児 加藤貴彦 sho-ta Anna
*1:ザ・キャンディースは渡辺プロダクションの所属だったので、そういう発想があれば女優のマネジメントも可能だったはずだが、そういう風にはならずメンバーのうち2人は解散後、女優として活躍した。私の最初のイメージはキャンディーズが解散せずにグループとして存続しながらグループとしての活動も続けるという感じだった。
*2:今年の明治座の公演は宗本康兵が音楽にクレジットされており、初のオリジナルミュージカルになるのでゃないかと思う。
*4:この歌割りだとももクロ以外歌割りのソロ部分がないので、歌割りをもらえない不人気メンバーから順番に卒業していったみたいになって可哀想すぎるのだ。
*5:より外部への訴求力を強めるために舞台ではなく、ミュージカル映画でもいいかもしれない。
*6:浪江女子発組合も考えたけれど5人なので、アメフラっシの4人、B.O.L.Tの2人の中から誰か1人だけが外れることになる。それはそれで禍根を残しそう。ちなみにHEAVENメンバーは群舞にも入るので相当以上のスキルが必要である。