下北沢通信

中西理の下北沢通信

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グループアイドルの宿命とカラーソング ももクロの「モノクロデッサン」とTEAM SHACHIの「colors」

ももいろクローバーZは設立13周年を迎えた5月16日に配信アルバム「ZZ's II」「モノクロデッサンZZver.」を配信した。「モノクロデッサン -ZZ ver.-」は2016年発表の3rdアルバム「AMARANTHUS」の収録曲「モノクロデッサン」をセルフリメイクした楽曲で「僕らは日々、もがきながら見えない何かと戦い続けてる まっさらなキャンバスにただ絵を描き続けている」などとももクロの活動を連想させる歌詞をメンバーそれぞれの色(メンバーカラー)と重ね合わせているため、有安杏果の卒業後は彼女を思わせる緑が歌詞中にあり、それを楽曲と切り離すことが難しいなどの理由により、封印状態になっていて4人体制のももクロによって歌われることはなかった*1
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今回は結果的に配信による公開となってしまったが、本来はコロナ禍がなければ開催されるはずだったライブ「ももいろクローバーZ 13周年記念コンサート ~再び、その先へ~」で歌詞をリニューアルしたこの歌が披露されることになっていたのではなかったかと思う。
ZZver.では歌詞に緑や青の文字はないけれど「どの色が欠けてもこの夢の続き描けてないから いろいろあったけどめげずにゆくのさ 綺麗な色、嫌いな色、昔好きだったはずの色 この先も大空を彩る」という歌詞がいままでいたすべてのメンバーのことを肯定しているのだと思う。これまでももクロが苦しんできたファン同士の分断を融和する一助にこの歌がなっていくのだろうか*2
一方、この日にZepp Hanedaで開催されたライブでTEAM SHACHIはやはりメンバーカラーを主題とした「colors」をひさしぶりに披露した。この歌はチームしゃちほこが6人体制であったころに発表された楽曲だ。
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こちらも自分たちの活動を連想させる歌詞をメンバーそれぞれの持つ色(メンバーカラー)と重ね合わせて歌っているものだが、チームしゃちほこの初めての武道館で6人版が披露された後、翌年めまい症により、ピンク担当の安藤ゆずが活動休止に入り、他のメンバーは彼女の復帰を待ったもののかなわぬままに退団となった。
 日本武道館で開催された「しゃちサマ2016 真夏のPOWER BALL」は安藤ゆず欠席のまま5人で迎えたライブであったが、同公演ラストに、マネージャーやスタッフにも告げずメンバーたちの独断で当初の予定にはなかったグループの代表曲「colors」をサプライズ披露。大箱ライブの集客に苦しむ中、中でも重要な、チームしゃちほこにとっても大きな転換点となるはずの日本武道館公演のセットリストに、当然入っていると考えていた「colors」がスタッフに準備されたセットリストに無かったことに違和感を感じたメンバーが、その悔しさを自分たちの責任で解決していく姿勢をこのサプライズ「colors」に込めて披露した。これを転機に、準備されたイベント・ライブをこなしていくだけだった意識から、メンバー自らイベント・ライブの内容に積極的に関与していくようになり、より一層自分たちの活動への意志と責任を強く意識するようになっていった。そういう意味ではTEAM SHACHIにとってはただの人気曲ということを超えて非常に需要な楽曲だった。黄色担当の伊藤千由李が卒業し、新体制となって以降はメンバーカラーがなくなったわけではないが、衣装などでは前面に押し出すことはなくなったこともあり、こちらも「colors」が4人によって披露されることは少なくなった。
 ももクロとTEAM SHACHIのカラーソングが同じ日に復活したのはもちろん偶然以外の何ものでもないと思われるが、あまり歌われなくなったりするのには幾分共通点はあるかもしれない。メンバーの担当カラーを持つグループはその色に仮託した歌を歌いがちだが、超ときめき宣伝部のようにいなくなったメンバーのカラーを新メンバーがすぐ受け継ぐようなシステムならばともかく、ももクロやTEAM SHACHIのようにメンバーが抜けても補充はしないグループでは交代を前提としたグループよりも一人の離脱による打撃は大きいし、メンバーカラーが連想される歌はどうしてもファンに残る傷跡を刺激することになりかねず、あまり歌われなくなるということがありがちだ*3
 「colors」がこの日歌われたのは新曲「HONEY」がこの日披露され、その作者であるBase Ball Bear小出祐介が両方の歌詞の提供者であり、「HONEY]には歌詞の一部に「僕たちの色色」という「colors」の歌詞にもあった一節が引用されていることもあっただろう。ただ、より大きな意味合いでTEAM SHACHIは現在新体制として再び武道館に立つことを宣言しており、前にも書いたように「colors」が武道館を象徴する曲だからということもあるのだろう。そして、この日のTEAM SHACHIはこれまであまりやっていなかったチームしゃちほこ時代の楽曲をセットリストに入れてTEAM SHACHIととチームしゃちほこの融合も図ろうとした。この日ひさびさにメンバーカラーのはっきり分かる色分け衣装を採用したのもそういう一連の流れに沿ったものだろう。
 一方、ももクロがどういう意図でこの時期に「モノクロデッサン」の復活を計ったのかという理由ははっきりとは分からない。今回延期になった13周年記念ライブが開催された時にはその理由もはっきりと分かるのだろうか。

ももいろクローバーZ「ZZ's II」収録曲
01. ワニとシャンプー -ZZ ver.-
[作詞・作曲:前山田健一 / 編曲:宗本康兵]
02. 白い風 -ZZ ver.-
[作詞・作曲:多田慎也 / 編曲:生田真心
03. 猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」 -ZZ ver.-
[作詞・作曲・編曲:前山田健一
04. ニッポン笑顔百景 -ZZ ver.-
[作詞・作曲・編曲:前山田健一
05. サラバ、愛しき悲しみたちよ -ZZ ver.-
[作詞:岩里祐穂 / 作曲・編曲:布袋寅泰
06. 灰とダイヤモンド -ZZ ver.-
[作詞:只野菜摘 / 作曲:前山田健一 / 編曲:近藤研二]
07. GOUNN -ZZ ver.-
[作詞:只野菜摘 / 作曲:しほり / 編曲:木村篤史]
08. ゴリラパンチ -ZZ ver.-
[作詞:ANCHANG / 作曲・編曲:AKIRASTAR]
09. マホロバケーション -ZZ ver.-
[作詞:六ツ見純代 / 作曲・編曲:invisible manners(平山大介、福山整)]
10. モノクロデッサン -ZZ ver.-
[作詞・作曲:CLIEVY(C&K) / 編曲:小松一也

*1:4人になった直後に杏果パートに加藤いずみが入って歌われたことはあったかもしれない。

*2:同じ日の「人のふんどしでひとりふんどし」の中で川上アキラがいままで事実上のタブーとなっていた有安杏果の名前を出した。深い意味はないと装ってはいるが、それまで出せなかった沢尻エリカの名前を出した時のパターンやヒャダインももクロ界隈に復帰した際の対応に少し似ている気もする。歌詞を見てもデリケートに扱っていることには変わりないのだが、タブーからの雪解けに一歩近づいたのかどうか。

*3:「colors」は私が見たライブではあまり歌われていなかったが、ファン(タフ民)の指摘によればメンバーの色が直接歌詞に反映されてはいないため、「歌われないということはない」ということのようだった。確かに映像にあるこのライブでは歌っていた。しかも、演出上の理由で二度も歌っている。www.youtube.com