下北沢通信

中西理の下北沢通信

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オフィスコットーネプロデュース『母 MATKA』(カレル・チャペック作品)@吉祥寺シアター

フィスコットーネプロデュース『母 MATKA』(カレル・チャペック作品)@吉祥寺シアター

カレル・チャペックといえば「山椒魚戦争」「ロボット」などで知られるチェコのSF作家だという認識だったが、劇作家としての活動も行っていたことは初めて知った*1。ひとりふたりの死者が亡霊として登場する舞台は珍しくもないが、登場人物のほとんどがすでに亡くなっていて、彼らの姿は母親には見えるが、生きているほかの人物(例えば末息子)には見えない。
それにしても「飛行機に乗って新しい挑戦をしている」といすでに死亡フラグが立っている兄が次にドアから入ってくるとすでに死んでいて、生きている人には見えないはずの父や兄と会話をはじめる(つまり、初登場にしてすでに死んでいる)、アニメ漫画的リアリズムのポストゼロ年代の演劇と比べてさえ、作劇がアバンギャルドなのだ。
舞台下手奥にまるで彫像のように動かずにいた父親(大谷亮介)が突然額縁の中から飛び出してきて、白衣の姿の兄オンドラと饒舌に話し出すところなど思わず吹き出してしまうような演出も多いのだが、作品の主題そのものは肉親の情と世の中の大義を対比して秤にかけるというようなもので非常に重厚な主題を取り扱っている。
 とはいえ、表題は「母 MATKA」であり、舞台がそこに感情の焦点を合わせて語られるということになると大義のために家族が犠牲になっていく母親の嘆きといった一種の反戦劇のフォーマットに嵌っていくような流れを予感させながら、最後の最後に母親の「行きなさい。行って戦いなさい」のセリフに「これはいったいどういうことなんだ?」と驚かされた。カレル・チャペック自身第二次世界大戦では兄ジョセフをナチス強制収容所で亡くしており、命よりも家族への愛よりも重要なものもあるということをどうしても訴えたいということもあったということだろうか。やや、唐突な感があることも確かで考えさせられる幕切れだった。

2021年5月13日(木)〜5月20日(木)
これは家族の戦争——。

一つの家庭を三世代までさかのぼり
今は亡き死者の声から小さな子供の未来まで、大きな時間の流れを描いた普遍的な物語。
時代とともに様々に変化する、母親と息子たちの対立や「親が子を愛し、子が母にもつ愛情」。

フィスコットーネが演出・稲葉賀恵氏と再びタッグを組み、
小劇場界で実力ある俳優陣を揃え、戦争に翻弄される母とその家族の物語に挑みます。

あらすじ
母には5人の息子がいた。 長男のオンドラは戦地におもむき医学研究に身を捧げて死んだ。次男イジー、双子の三男コルネルと四男ペトルは軍人として戦うことを望むが、末息子のトニは夢見がちで、他の兄弟とは違っていた。 国では日々、内戦が激しくなり、ラジオからは国民に戦争への参加を呼びかけるアナウンスが続く。 ある日、母のもとに戦死した夫とオンドラが幽霊になって現れ、「僕たちは大義のための死を悔いてはいない」と語る。隣国の敵も間近に迫る中、トニだけは戦争にとられまいと母は必死に守ろうとするが・・・。


【作】カレル・チャペック
 1938年に48歳という若さで亡くなったカレル・チャペックは、数々の小説・戯曲を遺している。
初期の作品は兄ヨゼフ Josef (1887~1945) と共作。20世紀の機械文明の発達と,人間,その生活,文化に興味をもち,小説,戯曲のほか,旅行記,エッセー,童話などに優れた作品を残し,今日まで最も人気のあるチェコ文学の代表的な作家である。
小説には SF風の『絶対子工場』Továrna na absolutno (1922) ,『クラカチット』Krakatit (1924) ,山椒魚戦争』Válka s mloky (1936) のほか,後期の 3部作『ホルドゥバル』Hordubal (1933) ,『流れ星』Povětroň (1934) ,『平凡な人生』Obyčejný život (1934) がある。戯曲には「ロボット」の新造語を生んだ『ロボット』R.U.R. (1920) ,ヨゼフと共作の『虫の生活』Zeživota hmyzu (1921) のほか,『白い病気』Bílá nemoc (1937) ,『母』Matka (1938) など。園芸家、愛犬家、愛猫家としての顔を持ち、 『園芸家12カ月』Zahradníkův rok(1929) , 『スペイン旅行記』Výlet do Španěl(1930) ,『チャペックの犬と猫のお話』Měl jsem psa a kočku(1939) など 多彩な分野でエッセーを執筆している。 兄ヨゼフ・チャペック(画家・作家)は、ナチス・ドイツ強制収容所で亡くなる。
「母 MATKA」は1938年2月12日にスタヴォフスケー劇場にて開幕。本作はヒットラー及び戦争を痛切に批判しているカレルの代表作である。日本ではほとんど上演されていない。

[作] カレル・チャペック
[翻訳] 広田敦郎
[演出] 稲葉賀恵(文学座
[プロデューサー] 綿貫 凜

[出演]
増子倭文江(青年座)大谷亮介 米村亮太朗
富岡晃一郎 西尾友樹(劇団チョコレートケーキ)林 明寛、田中 亨(劇団Patch)鈴木一功(レクラム舎)

[美術] 乘峯雅寛 [照明] 松本大介(松本デザイン室)
[音響] 青木タクヘイ(ステージオフィス)[音楽]トラペ座
[舞台監督] 尾花 真 [衣裳] 藤田 友 [演出助手] 城田美樹
[宣伝写真] 宮本雅通 [宣伝美術] 郡司龍彦 [Web製作] 木村友彦
[制作] 河本三咲 [制作協力] J-Stage Navi [制作デスク] 津吹由美子

主催:(有)オフィスコットーネ 
協力:(公財)武蔵野文化事業団
後援: チェコ共和国大使館

[協力]
劇団チョコレートケーキ 劇団Patch ゴーチ・ブラザーズ 青年座映画放送
ファザーズコーポレーション 文学座 ポツドール マッシュ mitt management
レクラム舎 ワタナベエンターテインメント(50音順)

*1:というか「ロボット」は小説ではなく、演劇だったのか。