下北沢通信

中西理の下北沢通信

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玉田企画「サマー」@下北沢・小劇場B1

玉田企画「サマー」@下北沢・小劇場B1

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玉田真也は昨年ほとんどコロナ禍で舞台が上演できなかったこともあってか、映画やテレビドラマの脚本など映像畑の仕事を手掛けることが多かった*1*2玉田企画「サマー」ではドキュメンタリー番組*3を制作している映像制作チームが描かれているが、映像関係の仕事で学んだ現場体験が舞台にもしっかりと盛り込まれており、以前は中学や高校生しか登場しなかったり、その目線からの物語だったことを考えれば登場人物それぞれのリアリティーという意味では格段の進歩を感じた。
 演劇とテレビ・映画の脚本をともに手掛け、どちらもがトップ級の評価を受けている才能としては三谷幸喜宮藤官九郎があるが、玉田はまだキャリアは浅いが将来この2人に続くようなヒットメイカーになりそうな可能性を秘めているひとりだと思う。演劇だけを見ていた時にはあまり分からなかったのだが、自分のスタイルが完全に決まっているというタイプというよりは発注側の注文に柔軟に対応できる職人的な技芸を持っているという意味では宮藤官九郎の後継者を感じさせるところもある。劇作家・演出家の中には映像の仕事が売れてくるとそちらに軸足を完全に移してしまう人も少なくないが、玉田は演劇界にとっても良質なコメディーが作れる得難い才能ゆえに今後も少なくとも年に1~2本にペースでは演劇作品を作ってほしい。
 作品はラブホテルと思われる場所での堀夏子と今野誠二郎による半分ベッドシーンのような際どいシーンから始まる。堀夏子は青年団の女優だが、青年団をはじめこれまで出演していた舞台ではセクシーさを感じさせるような役柄は観たことがないから、何人も出演している女優の中で堀をこのシーンに起用したのは玉田ならではの慧眼だと思う。もっとも、このシーンも三浦大輔のそれのような本格的な濡れ場になっていくことはなく、際どさをチラ見せしながらも、寸止めで次のシーンにと進んでいく。この軽妙さが「玉田らしさ」ということなのだろう。
 「サマー」の登場人物はほとんどが不倫のようなことをしていて、それがバレないようにふるまう時のつなわたり的な行動がいわばドアコメディー的な仕立てとなっている。玉田はそれを組み合わせて次々とシーンを展開していくのが巧みである。こうして綱渡りをつなぎながら、最終的には取材の打ち上げパーティーで登場人物が全員登場してしまい避けられないカタストロフィ―に向けて突き進んでいく。こういう作劇は「タイタニック」をはじめ悲劇的なクライマックスを迎える物語やミステリにもよくあらわれるものではあるが、取材データをすべて目黒川に水没させてなくしてしまったことを他の関係者に言えないカメラマン(玉田真也)とディレクター(神谷圭介)ら、それぞれの登場人物の人間的小ささのせいでそれを悲劇と同じ構造のまま笑いに転化していくというのが面白い。そして、玉田作品では常連組ともいえる神谷圭介、前原瑞樹、山科圭太の期待を裏切らないダメ人間ぶりが素晴らしかった(笑い)。

作・演出:玉田真也
出演:浅野千鶴、神谷圭介、今野誠二郎、玉田真也、深澤しほ、堀夏子、前原瑞樹、森本華、山科圭太

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*1:
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*2:
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*3:NHK制作の本格的なドキュメンタリーではなく、「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京)のように低予算で一般人を密着取材するようなバラエティー番組と「プロフェッショナル」のパクリのような番組を制作している。