下北沢通信

中西理の下北沢通信

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落語モチーフにした近未来SF 落語の終末、コロナ禍の演劇と二重写しに Mrs.fictions「花柄八景」@こまばアゴラ劇場

Mrs.fictions「花柄八景」@こまばアゴラ劇場



Mrs.fictionsはこれまで同集団が主催し複数の劇団が競作する短編演劇ショーケース「15 Minutes Made」は見たことがあった*1が、単独の公演を見たのは初めてである。
近未来を舞台に落日の落語界を描いたこの作品は作者の落語愛を感じられて、演劇様式としての革新性などはないが、落語モチーフにした近未来SF でコロナ禍の演劇と二重写しになっている。良く出来た舞台であり、最後まで抵抗感なく見ることができた。
そんなことをわざわざ書いたのは私は演劇に代表される舞台芸術作品を見る場合、既存の演劇表現に疑いを持たず「いい演劇」を志向したような作品がどうしても苦手で、一般観客の評判が良ければ良いほど眉に唾を付けたくなってしまう悪癖があるのだが、演劇を革新するような前衛性がなくてもこの舞台は最初から最後まで楽しく見られたからだ。
「花柄八景」の標題から明らかなようにこの作品は古典落語の「地獄八景」(正式には上方落語では「「地獄八景亡者戯」)を下敷きにして、花柄一門の没落をコミカルなタッチで描いている。とはいえ、物語は花柄一門の師匠、花柄花壇(岡野康弘)が落語AIの挑戦を受けて、その勝負に完膚なきまでに負けてしまい、逆にホログラムの初音ミクが落語をやる「AI落語」は拍手喝采。結果、人間の落語家が演じる落語の定席は相次いで廃業に追い込まれ、落語はすべて「初音ミク落語」となってしまう。弟子たちは全員花柄一門を去り廃業、しばらくしてかつての末弟子(ぐんぴぃ)が師匠、花壇の元を訪ねてみると師匠のところにいるのは弟子とは名ばかりのパンクロッカーとその彼女、近所の橋のたもとに暮らしていたホームレスの少女だけになっていた、などという何とも奇抜な設定だ。
 劇中ではいくつか落語の一部が披露されるが、内容がセックスピストルズシド・ビシャスとその恋人、ナンシー・ローラ・スパンゲンの物語になっていたり、「プリキュア」落語も登場するがそうした一種の遊びを楽しめるのはそれが語り口を含めてちゃんと落語になっているからだ。演技にせよ、演出にせよ、それは簡単なことではないと思う。

作・演出:中嶋康太
20XX年、TOKYO。世はまさに空前の落語ブーム。かつて都内に二つしかなかった落語協会の数は今や百を超え、一億総落語家時代を迎えようとするその影で、一人の師匠が自身の噺家人生にひっそりと幕を下ろそうとしていた……。
もうなにもかも冬の時代にMrs.fictionsが送る、高座の上の人生讃歌。



Mrs.fictions
2007年8月、複数団体がそれぞれ15分の短編作品を1ステージで上演するショーケース型演劇公演『15 Minutes Made』にて旗揚げ。以降、ツアー公演を含む16回開催。2017年には団体旗揚げ10周年記念公演として、吉祥寺シアターにて『15 Minutes Made Anniversary』を開催した。『15 Minutes Made』の継続的な開催の他、団体単独での公演としてこれまでに4本の長編作品を発表。他に、2019年3月に開催したMrs.fictionsの吉祥寺シアター提携公演『伯爵のおるすばん』や再演公演『再生ミセスフィクションズ』、『ミセスフィクションズのまんがまつり』等、様々な形態で公演を企画製作している。



出演
今村圭佑
岡野康弘(以上、Mrs.fictions)

ぐんぴぃ(春とヒコーキ)
永田佑衣
前田悠雅(劇団4ドル50セント)

スタッフ
舞台美術:谷佳那香
照明:南雲舞子(LICHT-ER)
音響:斎藤裕喜(Quebec)、宇田川大介
舞台監督:水澤桃花(箱馬研究所)
宣伝美術:藤尾勘太郎
当日運営:松本悠(青春事情)

芸術総監督:平田オリザ
技術協力:黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力:蜂巣もも(アゴラ企画)

www.youtube.com

*1:その中ではMrs.fictionsによる上演作品も含まれていた。