下北沢通信

中西理の下北沢通信

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劇団桃唄309 短編集 おはぎの会 #1『おもいびと いろいろ』@東中野/RAFT

劇団桃唄309 短編集 おはぎの会 #1『おもいびと いろいろ』@東中野/RAFT

劇団桃唄309の長谷基弘による短編演劇集が「おはぎの会」である。桃唄309はここ10年ほど短編演劇の上演に取り組んできたが、今回はそのうち謡曲など古典の世界が題材の、過去作と新作を一挙上演した。
短編演劇としてのまとまりを感じられたのは謡曲隅田川」を下敷きにした「渡し船」。「隅田川」に関しては途中の長谷本人による作品紹介で別役実が手掛けていると紹介しているが、ストーリーが親と子という普遍的な主題を扱っているせいか、最近では劇団あはひや木ノ下歌舞伎も手掛けているように作例は多い。

これは都北白河に。年経て住める女なるが。思はざる外に独子を。人商人に誘はれて。行方を聞けば逢坂の。関の東の国遠き。東とかやに下りぬと聞くより心乱れつゝ。そなたとばかり。思子の。跡を尋ねて。迷ふなり。

 原案の謡曲では以上のように「思はざる外に独子を。人商人に誘はれて」と幼子を人さらいにさらわれてという風になっているのだが、長谷版の「渡し船」では流行り病などで人心が乱れた東国を救うために自ら出向いたということでもっと大人の男性が想定されている。実は「渡し船」では最初渡し守が謎めいた男を乗せて川を渡るシーンから始まる。こんな場面が「隅田川」にあったかなと考えているうちに昔、都からきた男と彼を慕う人々がこの川を渡っていったことがあり、この日は亡くなった男の命日で、向こう岸の柳の下に葬られた彼のことを弔うための祀りのようなことが人が集まり、行われていると渡し守が説明。男が川を渡り終わり、渡し守がこの日の仕事を終えようとした時にいつの間にか今度は老女が船に乗り込んでおり、昔都から出て行って戻ってこない息子を探すためにここにやってきたのだという。
 謡曲の「隅田川」からはかなり変更がほどこされている。下船を待たずしていつの間にか消えており、女もすれ違わなかったというので明らかに幽霊だと思われるが、この話女にも渡し守にも幽霊的なところがあり、変な言い方になるが、謡曲隅田川」よりも能らしいところがある。アイデアが面白いが、オリジナルなのかあるいは調べても分からなかったが、どこかに原典があるのだろうか。
一方、「九十九夜」は小野小町伝説に材を取った「通小町」が原案。こちらも深草少将、小野小町と両方の幽霊が出てくるが、それをともに弔う旅の僧侶にも幽霊じみたところがあり、重層化された幽霊譚になっているのが興味深かった。
 短編も面白いがこうなるともう少し長いものも見てみたいと思った。

2022年09月29日(木) - 10月02日(日)
東中野/RAFT
短編劇の集中上演に取り組み始めて約10年。
その間発表した新作短編は40以上。この蓄積を活かしつつ、新作も交えてまとめてお届けする私たちの心づくしを「おはぎの会」と名付けました。
その第一回となる今回は、古典世界が題材の、過去作と新作を一挙上演。
かみしばいやミニライブなども併せてお楽しみ下さい。
各回とも、全演目を一気に全て上演いたします。
演目
全ステージこのセットです
短々編
『和解』
戯曲・演出 長谷基弘
徳川対豊臣の最後の決戦に参加するため、大阪城へと旅をする牢人二人。うち一人が言い出し摂津国に立ち寄る。それは別居中の妻に一目会うためだった。
謡曲『小袖曾我』を題材にした短々編。2014年初演。
山西真帆 佐藤達 乾優希(StudioEmanon)
トーク
『ご挨拶と作品紹介』
ご来場・ご視聴の皆様にご挨拶を。そして代表自ら作品解説や製作裏話をします。
長谷基弘
短々編
湊川
戯曲・演出 長谷基弘
南北朝時代、一旗揚げようと戦に加わるもあえなく敗走した若武者。落人狩りを避けつつ山奥のあばら屋までたどり着くも、そこには素性のわからない奥方と侍女が……。
曽我物語』の「橘の事」に着想を得た創作狂言テイストの短々編。2014年初演。
楠木朝子 山西真帆 佐藤達
短編
『九十九夜』
戯曲・演出 長谷基弘
都を離れ山奥で修業の日々を過ごす僧。ある日訪れてきた女性はこの世の者ではなく、僧に弔いを願う。だが、かつて彼女に深い恋情を抱いたまま亡くなった男がおり、その執念が成仏を妨げようとする。
謡曲『通小町』を題材にした新作短編。
金川周平(劇団東京オレンジ) 玉木葉輔(オドルニク) モイラ(D.R.A.G)
音楽演奏 尼理愛子
音楽
『ミニライブ』
琵琶奏者・尼理愛子の時を超えた和の世界。いにしえの響きに浸るひととき。
尼理愛子
短々編
渡し船
戯曲・演出 長谷基弘
武蔵の国の渡し守が、夕刻に乗せた旅人二人。東から都へと向かおうとする男。都から東へと向かおうとする老女。たましいが居合わせ、想いがすれ違う。
謡曲隅田川』を原案とした短々編。2014年4月初演。
楠木朝子 佐藤達 乾優希(StudioEmanon)
紙芝居
『五反田のポスト』
絵とお話 佐藤達
小さな思い出をめくる手作り「紙芝居」。秋田から上京した「僕」は郵便ポストに話しかけられる。そのポストにはしっぽが生えていた。