下北沢通信

中西理の下北沢通信

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第七劇場「ムンク/幽霊/イプセン」@愛知県芸術劇場・愛知県美術館

第七劇場「ムンク/幽霊/イプセン」@愛知県芸術劇場愛知県美術館

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第七劇場×愛知県芸術劇場×愛知県美術館ムンク|幽霊|イプセン」美術館パフォーマンスより。(提供:愛知県芸術劇場
舞台本編の前後に短く、ムンクに関連したテキストが挿入されてはいるが、演劇はほぼイプセンの「幽霊」によるものだった。そういう意味ではムンクはどちらかというとムンクが「幽霊」上演に際して依頼された舞台についてのイメージ画が愛知県美術館所蔵に所蔵されていることから、無理やり関連付けたように見えてしまった。
 同じテキストの抜粋を使った美術館ロビーで上演されたパフォーマンスは実際に展示されているムンクの作品を見ながら鑑賞することができるから「ムンク/幽霊/イプセン」の表題に相応しい気がしたが、劇場版は「幽霊」の上演でよかったのではないかと思ってしまった。
 そういうことは度外視して観劇の印象を語ると、イプセンの上演としては予想したよりオーソドックスなものだったのはないか。イプセン作品の上演は「人形の家」「ヘッダ・ガブラー」「ペールギュント」「民衆の敵」などかなりの数の作品を見ている。
 「人形の家」にせよ「ヘッダ・ガブラー」にせよ家族のなかにはびこる偽善から解放されるように登場人物がふるまうことで家族の関係性自体が崩壊してしまうというような筋立ての作品が多いが、「幽霊」もこの系譜であり、その意味ではイプセンらしい作品といえるだろう。「人形の家」では女性の而立という当時としては目新しい主題を手掛けたが、「幽霊」ではさらに一歩踏み込んで、不倫から近親相関、さらには当時はまだ目新しかったであろう先天性梅毒*1も戯曲の中に入れ込んでおり、スキャンダラスな内容となっているのではないか。

 ノルウェーの画家、エドヴァルド・ムンク(1863〜1944年)が描いた愛知県美術館所蔵の絵画《イプセン『幽霊』からの一場面》と、モチーフとなったノルウェーの劇作家、ヘンリック・イプセン(1828〜1906年)の作品「幽霊」を原作にした第七劇場(三重県)のパフォーマンス「ムンク/幽霊/イプセン」が2020年1月8〜13日、名古屋・栄の愛知県美術館愛知県芸術劇場小ホールで催される。
ヘンリック・イプセン

 1881年に発表されたイプセン「幽霊」の主人公は、愛のない結婚でありながら放埒な夫の元にとどまったアルヴィング夫人。夫の死後、夫の偽りの名誉を讃える記念式典を前に、息子のオスヴァルがパリから帰ってくるが、夫人の目には、因習や慣習、愛や結婚、義務と自由などに対する伝統的な価値観が幽霊のように浮かび上がる——。
 一方、愛知県が2017年に収蔵したムンクイプセン『幽霊』からの一場面》は1906年制作のテンペラ画。県民からの寄付金を使い、県が5億5000万円で購入した。


愛知県美術館のwebサイトなどによると、未亡人の屋敷の一室で、表情の見えない複数の人物が別の方向を向いて立つ場面が描かれている。大きなガラス窓の向こうには、蝋燭の不始末で全焼した孤児院の残り火が見え、画面の痛々しいような赤色や、重苦しい暗色が不安を誘う。「幽霊」がドイツの小劇場で上演される際、イプセンから舞台美術の依頼を受け、構想画として描かれたもので、秘密や苦悩に縛られた登場人物の心の内が表現されている。
 同美術館で2020年1月3日〜3月15日に開かれる企画展「コートールド美術館展 魅惑の印象派」の会期中のコレクション展で、展示室4にムンクの版画8点とともに展示される。美術館でのパフォーマンスは、この展示室で約20分間のモノローグ作品として7回上演する。
 一方、劇場小ホールでは、約1時間半の演劇作品として上演する。美術館パフォーマンスは、美術館入場券で鑑賞できる。
 第七劇場は、1999年、演出家の鳴海康平さんが早稲田大学在学中に設立。国境を越える作品を物語や言語だけに頼らず舞台美術と俳優の身体、舞台上に立ち上がる「風景」によって創作する。国内外のフェスティバルなどに招待されている。2014年から、拠点は三重県津市美里町

 

 

*1:そうだということははっきりとはセリフで示されていない。ただ、戯曲の設定上そうだと思われるのだが、もし、そうだとすると父親だけではなく、母親が感染しているはずであり、実際には現代の知見ではこういうことは起こらないのではないか。