下北沢通信

中西理の下北沢通信

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明治座創業150周年記念 第2回 ももクロ一座特別公演「座長玉井詩織 大江戸ミュージカル『CHANGE THE FUTURE!~未来を変えろ~』」「ももいろクローバーZ 大いに歌う 2023」

明治座創業150周年記念 第2回 ももクロ一座特別公演「座長玉井詩織 大江戸ミュージカル『CHANGE THE FUTURE!~未来を変えろ~』」「ももいろクローバーZ 大いに歌う 2023」


明治座創業150周年記念 第2回 ももクロ一座特別公演「座長玉井詩織 大江戸ミュージカル『CHANGE THE FUTURE!~未来を変えろ~』」「ももいろクローバーZ 大いに歌う 2023」を観劇。明治座の座長公演の基本フォーマットを踏まえたと言っていい第1部が「お芝居」、第2部が「歌謡ショー」*1という構成。
明治座新橋演舞場、あるいは東京以外では新歌舞伎座(大阪)、御園座(名古屋)などこうした座長芝居がかかる劇場におけるこの種の商業演劇はこれまでも何度も見たことがあるが、その中でも上出来の部類と言っていいだろう。キャストのスケジュールさえ押さえることが出来れば全国巡演しても十分な評価が得られそうな仕上がりとなった。主催者である明治座としても今後の展開を考えればももクロと組んだことは絶好のコンテンツを手に入れたという評価になっているのではないか。なんと言ってもももクロメンバーの歌唱力が上がっていて、ファン以外の人が見に来ても「玉井詩織って子、初めて見たけどキレイだし歌もうまいわね」などという感想を持つのはかなり確実だからだ。
 ミュージカルとして見ても演者という面では「大江戸座」の座員による歌声もアンサンブルとしての迫力を感じられる分厚いものとなっており、その中で座長の娘役(とはいえ、役柄としては男装でもある)彩羽真矢はさすが宝塚歌劇団の男役出身と思わせる颯爽とした歌いっぷりで玉井詩織以外のももクロの3人にも劣らぬ存在感を示していた。座長役の大友康平は持ち曲を歌ったラスト近くの見せ場は「さすが」を思わせるところがあったが、途中ではあまり積極的にアンサンブルに加わるというところがなかったのは少し惜しまれた。
 とはいえ、以前からももクロのファンであり、ももクロと演劇についての論考*2を以前にしたしめたことのある演劇評論家という立場からすると少し話が違ってくる。今回のような明治座座長芝居のようなフォーマットや演劇としての内容では物足りないのだ。
 それぞれの要素について考えるとやはり今回の舞台の場合、脚本(作)が土城温美という人で百田夏菜子がヒロイン役を務めたミュージカル映画「すくってごらん」の脚本も担当している人*3ではあるが、これまでももクロが関わってきて平田オリザや鈴木聡といってそれぞれの分野で日本のトップといっていい人と比べると作家の世界観の提示という意味で物足りなかったことは否めない。舞台を見ていて思ったのだが、今回のようなモチーフであればミュージカルの経験値は不足していたとしても本広克行との関係性から言っても「サマータイムマシン・ブルース」などで一緒した上田誠(ヨーロッパ企画)が適任だったのではないかと舞台が進むごとに思えてきて、もの足りなさに拍車がかかってしまった。
 今回の物語の筋立てとして玉井詩織演じる玉野栞里という就活中の女子大生が明治座みたいな劇場にやってきて、そこにあった鏡から似たような劇場で「大江戸座」という劇団が興行をしている別の世界に転送されてしまうという設定がある。
 SF的な趣向として考えるとタイムトラベルなのかパラレルワールドへの異世界転成なのかがあいまいなところがあり、最後までそれを主人公が探求したり、謎として究明しようというような構えはこの作品にはほとんどない。
 鏡の中にいくという話は昔からファンタジー系の物語にはよくあるものだが、この物語のものはイメージ的には「鏡の国のアリス」に近いかもしれない。だからそういうものとして深く考えずにのみ込んでしまえばよかったのかもしれないけれど、なんといっても「サマータイムマシン・ブルース」を撮った監督なんだからともう少しなんかあるだろうと期待してしまう。そういう経緯で今回の話の展開や物語としての構えが私の期待していたものと大きく食い違ってしまったこともあり、「脚本が上田誠だったらなあ」と余計なことばかりを考えてしまったのだ。
 メンバー4人の歌と演技は非常によかった。よかっただけにミュージカルというのであれば日本を代表するミュージカル「OKUNI 阿国」の脚本を担当した鈴木聡志がなぜ肝心要のこの時に外れたのだろうとも思ってしまった*4
 以前書いた論考は実は平田オリザももクロが出会うよりも前に書いたものだったのだが、そこで二人の作家を挙げていた。劇団☆新感線いのうえひでのりナイロン100℃ケラリーノ・サンドロヴィッチである。
 このふたりと一緒に仕事をいつかやってほしいとの気持ちは今も消えてはいないけれど、組んでほしい作家のイメージとしては現在の時点であれば来年高城れにが組む三浦直之(ロロ)は今後演劇界においてケラのような立場になっていく有力な才能のひとりと考えている作家で今回の結果を受けてますますこちらの方の期待が高まった。やはり、座組の自由度からいってもももクロが演劇と関わるとしたら、個別にそれぞれが作家と組み合うような形がより優れた舞台成果の実現性が高い。
 そうなると玉井詩織にはぜひどこかで平田オリザともう1度タッグを組んで今度は青年団あるいはそのプロデュースのような形でフランス公演も実現してほしい。そして、劇団☆新感線に単騎乗り込むとしたら、そのキャラ立ちの強さからあーりん(佐々木彩夏)かなと思う。そして、論考の時点では有安杏果を想定していたのだが、夏菜子にはぜひいつかケラ作品でヒロインを演じてほしい。
 第2部のももクロライブは最近のアリーナライブで何度も天空席を経験した身としてはライブにおいて距離が近いことはそれだけで「正義」というのを実感させた体験でもあった。時間が短いといえばももクリや春一、夏バカと比較すればその通りなのだが、周回でのゴンドラ演出などがない分、ダンスの振付がフォーメーションも含めてたっぷりと見られるし、特に観劇歴のまだ浅い人にとっては入門編としても最高のライブであったのではないか。

2023年11月25日(土)~12月3日(日)
東京都 明治座

第1部「座長玉井詩織 大江戸ミュージカル『CHANGE THE FUTURE!~未来を変えろ~』」
第2部「ももいろクローバーZ 大いに歌う 2023」
総合演出:本広克行
演出:鈴木ひがし
脚本:土城温美
音楽:宗本康兵
出演:玉井詩織 / 百田夏菜子高城れに佐々木彩夏 / オラキオ、彩羽真矢 / 大友康平 / 伽代子、郷本直也、工藤潤矢ももクロ15周年×明治座150周年の記念イヤーにお届けする未体験ゾーン

スタッフ
<総合演出>

本広克行

<演出>

鈴木ひがし*5

<脚本>

土城温美*6

<音楽>

宗本康兵

<後援>

ニッポン放送

<企画・製作>

明治座

キャスト
<主演>

玉井詩織

<出演>

ももいろクローバーZ

百田夏菜子 高城れに 佐々木彩夏

オラキオ 彩羽真矢/大友康平

伽代子 郷本直也 工藤潤矢

荒木浩介 植木達也 岡野一平 黒沼亮 後藤光葵 七海智哉
伊藤彩夏 小林風花 津覇菜々 萩原麻乃 畠山ななみ 早矢仕彩(スウィング)

simokitazawa.hatenablog.com

*1:今回は第1部がミュージカルということもあり、そこでの歌、ダンスが存分にあるので出演者への負担も考慮して、ここはももクロのみの出演によるライブということになった。

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:「すくってごらん」は原作漫画をうまくミュージカルに仕立て上げていて十分以上に評価に値するものであった。

*4:阿国」の上演権はアトリエ・ダンカンが持っていたはずだが、それがなくなった後どうなっているのかが不明。論考でいつかミュージカル「阿国」をももクロあるいはスタダの手で上演をと考えていたが、いまならそれはより実現性が高くなっているはずだ。ライバルとなる新阿国にはいま配役するならば愛来だと思う。

*5:community.pia.jp

*6:「すくってごらん」の脚本担当。