下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

屋根裏ハイツ「すみつくす」@こまばアゴラ劇場

屋根裏ハイツ「すみつくす」@こまばアゴラ劇場


屋根裏ハイツ「すみつくす」では皆が住むシェアハウスが持つ主の老人の老いにともない解体される直前の現在と家主の妻が亡くなって葬儀が行われた10年前の出来事をそれぞれ異なる人物を演じる同じキャストにより、シームレスに交互に描いている。
屋根裏ハイツの演技スタイルは現代口語演劇の群像会話劇に近く見えるが、役を演じる俳優と演じられる役柄の間の関係性がかなり自由に開かれていることで、例えばこの「すみつくす」では若者と60歳を超える高齢者の違いをことさら演じ分けたりはしていないものの、現代の出来事の描写では男女差などはほぼ見かけに近い人物により演じられているのに対して、過去の描写ではそこに出てくる人物は息子役をが女優が演じたり、別の女優はそのまま娘役を演じたりしている。台詞などは女っぽく、あるいは男っぽく演じられることはなく、ニュートラルに発話される。
 実は以前に観劇した別の作品では途中で人物が変わったのにそのこともまったく明示されないままシームレスに入れ替わったりしていた。そして、そのことに気がつくまでしばらくタイムラグがあったりしたが、今回は登場人物が多く(6人×2=12人)、そのままだと誰が誰だか分からなくなってしまうために今回のように同時字幕を映し出す形式を選んだのだと思われる。
 すべての台詞は舞台背後にプロジェクターで発話とほぼ同時に映し出されていて、観客は発話とその役のモニターを見ながら実際の状況を脳内再生するような仕掛けとなっているのである。
 いささか個人的なことではあるが、この12月でいままで何十年も勤めてきた会社を完全に定年退職。完全に無職(フリーランス)の身となった。収入は激減するためにいままでのように観劇や演劇批評の活動ができなくなりそうで、悩んでいたところに会員であれば観劇ができたこまばアゴラ劇場の閉館が発表され、原稿執筆の依頼があったり、招待状が届いている劇団には引き続き観劇し何らかの活動を続けたいなとは考えてはいるものの、家人からは活動を続けたいなら「チケット代や交通費は自分で稼げ」との圧力がかかり、批評活動の今後についても悩んでいる状態である。批評活動に対し何の需要もないようであればアゴラの閉館を機にもうそろそろ潮時かなとも思いつつの観劇でもあった。

作・演出:中村大地
あらすじ
多摩郊外の、シェアハウスに改築された古い家。今は別のまちに暮らす家主、宮地達夫の老いによって土地ごと売りに出されることが決まっている。
3月下旬、ある金曜日の夕方、居住者たちが集まるささやかなパーティーがひらかれる。
部屋を見渡すとそこここに、小さな傷あとやしみがあり、そこから家に流れた時間が広がりだす。かつて商店だった頃の記憶、昔暮らしていた家族の姿、街だってどんどんと変わっていった。その全てが混ざりあっていく。
室内の親密な空間に積み重なるやりとりから、想像力を依り代に過去や未来の風景を自在に描き出す屋根裏ハイツ、10周年を記念する最新作。



2013年、仙台を拠点に設立、2018年より活動拠点を東京に移す。主宰の中村は『ここは出口ではない』(2018)で、第2回人間座「田畑実戯曲賞」、「利賀演劇人コンクール2019」で優秀演出家賞一席、観客賞をそれぞれ受賞。過去も未来も、生者も死者もいつの間にかゆるやかに共存する、何気ない会話劇のような「語りの劇」を特徴とする。最終的には家を建てたい。

出演
佐藤駿、関彩葉、辻村優子、福田健人、村岡佳奈、山田薫

スタッフ
作・演出・音響:中村大地
空間設計:iii architects
舞台監督:山澤和幸
照明プラン:植村真
衣裳:村岡佳奈
日本語字幕:得地弘基
手話通訳:立石聡子、村山春佳
制作:屋根裏ハイツ制作部、白石ころ、千田ひなた
宣伝美術:三澤一弥
キービジュアル撮影:小岩井ハナ
Web:渡邉時生
映像記録:小森はるか