下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

青年団第80回公演『ソウル市民』(1回目)@こまばアゴラ劇場

青年団第80回公演『ソウル市民』(1回目)@こまばアゴラ劇場

作・演出:平田オリザ
東京公演:2018年10月14日(日)〜11月11日(日) 30ステージ

会場:こまばアゴラ劇場

人が人を支配するとは、どういうことなのか。
日本の植民地支配下に生きるソウルの日本人一家を通して、植民地支配者の本質を明晰確固と描き、現代口語演劇の出発点となった平田オリザの代表作。
多くの要望に応え、青年団のホームグラウンドであるこまばアゴラ劇場にて再演。



『ソウル市民』
(1989年初演)上演時間=約90分
1909年、夏。日本による韓国の植民地化、いわゆる「日韓併合」を翌年に控えたソウル(当時の呼び名は漢城)で文房具店を経営する篠崎家の一日が淡々と描かれる。押し寄せる植民地支配の緊張とは一見無関係な時間が流れていく中で、運命を甘受する「悪意なき市民たちの罪」が浮き彫りにされる。



『ソウル市民1919』

(2000年初演)上演時間=約110分
1919年3月1日、ソウル(当時の呼び名は京城)。篠崎家の人々は、今日も平凡な一日を過ごしている。ただ、今日は少しだけ外が騒がしい。噂では朝鮮人たちが通りにあふれているという。三・一独立運動を背景に、応接間で唄い、笑い合う支配者日本人の「滑稽な孤独」を鮮明に描いた、渾身のシリーズ第二弾。


出演

山内健司 松田弘子 永井秀樹 たむらみずほ 天明留理子 秋山建一 木崎友紀子 兵藤公美 島田曜蔵* 太田 宏 申 瑞季 田原礼子 大竹 直 村井まどか 山本雅幸 荻野友里 石松太一 井上みなみ 菊池佳南* 富田真喜
*=『ソウル市民1919』のみ出演

スタッフ

舞台美術:杉山 至
照明:三嶋聖子
衣裳:正金 彩
舞台監督:中西隆雄 黒澤多生
宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁
宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:林有布子 石川景子 赤刎千久子
協力:(株)アレス

いまから20年近く前、仕事の関係でそれまで住んでいた大阪から東京に住居を移転。当時、劇評などを寄稿していた関西の演劇情報誌「JAMCI」に演劇についてのコラム「下北沢通信」の連載を開始した。その「下北沢通信」で第0回にあたる特別編で取り上げたのが青年団「ソウル市民」のプサン公演のレポートだった。「下北沢通信」本編の連載ではまずvol.1で弘前劇場「職員室の午後」(1993)を取り上げた。いずれも私がその後、「関係性の演劇」と呼び、世間一般では「静かな演劇」などとも呼ばれた群像会話劇であり、その後、日本の現代演劇はこうした演劇の流れを主流としていくのだが、平田オリザがその中心的な役割を果たし、「ソウル市民」ならびにその翌年上演された「東京ノート」が里程となる作品だったというのは間違いないことだ。
最初に見たころの青年団の印象を描いた記述があるか検索して調べてみた。演劇情報誌「JAMCI」の演劇コラム「下北沢通信」が雑誌休刊後にこのブログの前身のサイト「下北沢通信」となったので、雑誌を参照しないと「ソウル市民」自体についての記述はないのだけれど、2000年7月に「カガクするココロ」を観劇した後の記録があったので当時の印象を転載する。

 7月9日 青年団「カガクするココロ」(3時〜)、拙者ムニエル「新しいペンギンの世界」(7時半〜)を観劇。前日の夜中まで昼にランニングシアターダッシュ「FLAG」(2時〜)を見に行くかどうかで迷っていたのだが、起きてみると2時半なのであった。選択の余地なくアゴラ劇場に走り、「カガクするココロ」を見る。

 「カガクするココロ」は若手公演でも何度も見ているので、青年団の芝居の中ではこれか「北限のサル」が一番、回数を見ているかもしれない。サル学研究室のロビーを舞台にした3部作の最初の作品に当たるわけだけれど、この3部作は「北限のサル」「バルカン動物園」と後になっていくほどシリアスなテーマを内包していくということがあって、この作品はそうしたテーマがそれほど前面に出ていないこともあって、一番肩が凝らずに気楽に楽しめる作品といえるかもしれない。

 今回は中堅・若手の劇団員中心の座組みということで、山内健司志賀廣太郎、平田陽子、松田弘子らこの劇団を支えてきたベテラン俳優陣がいっさいキャストに入っていないが、それでもかつて彼らが演じていた役柄を演じて見劣りがしないのは今や若手の域を超えて青年団における重要な役割を担いつつある秋山健一、太田宏、小河原康二といった中堅俳優の充実ぶりに負うところが大きいであろう。私が最初に青年団を見たのはザ・スズナリでの「ソウル市民」(詳しくは調べないと分からないが7年ほど前だろうか)で、その直後にプサンでの公演を見にいくことになり、この劇団とのけっこう長い付きあいが始まったのだが、その時の「ソウル市民」に出演していたキャストが今回の「カガクするココロ」には1人も出演していない(というより、今回のメンバーはほとんどがそれよりずっと後の入団)ということを考えると青年団が確実に新たなメンバーの参加によって、集団としての総合力をつけていっていることが感じられた。

 なかでも前回公演「ソウル市民1919」で次女幸子役を好演。今回も目立っていたのが辻美奈子である。辻の演じる役柄はこの芝居の中ではそれほどドラマ性といったものに関ってくる役柄でもないし、みせどころもそれほどあるというのではないのについついそちらの方に目がいってしまう。私の記憶違いでなければ辻は以前にも同じ役を演じたことがあるはずだが、その時は今回ほどの存在感を感じるということはなかった。今回のキャストの中ではキャリアの長い方だと思うし、今更こういう言い方をするのは彼女に失礼かもしれないのだが、舞台における華のようなものが目立ってきているのに「女優誕生」を感じた。今後がますます楽しみである。

 前作「日本文学盛衰史」でのベテラン、中堅、若手と幅広いキャストと書いたのだが、18年前にすでに「劇団を支えてきたベテラン俳優陣」と書いていた山内健司松田弘子がいまだ健在なのはこの劇団の強みだ。なかでも松田弘子は94年にこの舞台をやっていた時にすでに同じ役をやっていたのではないか*1。「若手の域を超えて青年団における重要な役割を担いつつある秋山健一、太田宏、小河原康二といった中堅俳優」とも書いたが、地点に移籍して中心的な役割を果たしている小河原康二はともかく、秋山健一、太田宏らはもはやベテラン俳優と言っていいだろう。
青年団「ソウル市民」三部作 – ワンダーランド wonderland

*1:ひょっとしたら女中頭だったかもしれない