下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ベトナムからの笑い声「ベトナリズム」

 ベトナムからの笑い声「ベトナリズム」(京都アトリエ劇研)を観劇。
ACT1 モッコリ係長
4コマ漫画家の部屋。そこで繰り広げられる、登場人物たちの、愚痴・ボヤキ・ボケ・ツッコミ・告白・注文。
前作「まんが坂」を彷彿とさせる、グダグダの会話劇。

ACT2 二十七年
25歳の男の家にあらわれた、52歳の男。彼の目的はいったい何か。そして彼は何者なのか。ベトナムがはじめて挑む、本格的SFコメディ。

ACT3 タイムマシーン
27世紀よりやってきた人型ロボット。いじめられっ子を助けるためにやってきた。はずなのだが。
黒川猛と宮崎宏康。長年連れ添ってきた男二人が創り出す、芝居?コント?

ACT4 マンホール
3連作となる"妖怪シリーズ"。前作「将軍馬」から引き続き登場の天邪鬼。彼は今、存在の危機を迎えていた。
ベトナムからの笑い声・第15回公演の"ボーナストラック"。新年のお年玉公演です。

(参考)
 2月10日 ベトナムからの笑い声「ハヤシスタイル」(2時〜、京都アトリエ劇研)、レニ・バッソ「フィンクス/ダブテイル」(7時半〜、神戸アートビレッジセンター)を観劇。
 ベトナムからの笑い声「ハヤシスタイル」は陳腐な言い方だが、腹がよじれるほどおかしい作品だった。この集団については昨年「サウナスターズ」という舞台を見た後の感想では「次回の公演があれば見にいくだろうとははっきり言えるのだが、まだこれがこの集団の売り物だという特徴をつかみかねている。だから、東京などの演劇ファンに「ベトナムからの笑い声」は面白いから皆見てくれと断言するには躊躇するところがあって、そういうことも含めて次回公演でもう一度、確かめてみないとうかつなこといえないというのが私の感想」と書いたのだが、この新作はその域を明確に脱出した。今週この作品は大阪でも公演が行なわれるので、大阪の演劇ファンにはぜひ見てもらいたいし、東京の演劇ファンにだってイチ押し公演として即座に薦めることができる。そんな面白さであった。

 舞台は落ち目の「菊葉」撮影所。再起を賭けて撮影される新ドラマ「ファンタジーショウ」。脚本には映画「少し厚めの死に化粧」の新人を抜擢。一方、ドラマの導入で行き場を失うはずの大部屋俳優たち。そして、京都に初雪の降った12月のある日。東京から敏腕プロデューサーが招聘された。

 これはチラシに掲載された粗筋を実際の作品に合わせて少し修正したものだが、確かにこれは間違っていない、しかし、「サウナスターズ」同様に舞台の魅力はこの撮影所で撮影されている珍妙な番組やそれに登場する珍妙なキャラクター、それを演じるキテレツな役者たちといった出鱈目なキャラの面白さにある。着ぐるみや変な衣装を着て奮闘する俳優の体当たりの演技のおかしさはここの持ち味だが、なかでも3メートルを超える超人「スタイルエース」の舞台への登場には思わず仰天。彼が舞台上に巻き起こす混乱のおかしさはちょっと他の集団の芝居では見ることができないものであった。

 どこまで作者自身が意識しているのかは不明だが、作品自体きせずして三谷幸喜のパロディないしアンチテーゼのようなものになっているところが面白い。一応、主筋としてはお笑いの台本を得意とする脚本家が勘違いをしたプロデューサーのために下品な笑いを禁じられ、すでに書き上げていた「ファンタジーショウ」の脚本を書き直さざるをえなくなって悩むという三谷幸喜の「ラジオの時間」「笑の大学」などを連想させる枠組みを持ちながら、その書き直しの行為に対して入る様々な邪魔の描写のうちにそちらの方がいつのまにかメーンのような状況になっていく。シチュエーションコメディの構造を持ちながら決して作品自体はそういうおかしさを追求したものではない。さらに三谷だったら人情的な情緒に流れがちなラストをあくまでカラッとバカバカしく終われるのがこの集団のいいところじゃないかと思う。