下北沢通信

中西理の下北沢通信

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京都コンテンポラリーダンスラボコーチンングプロジェクト

京都コンテンポラリーダンスラボコーチンングプロジェクト(京都芸術センター)を観劇。

「コピュー」
構成・振付:山下残
出演:天野景子 石井千春 岡野亜紀子 川崎歩 新宅一平 田上容子 高以良潤子 辻恭子 豊島由香 畑亜子 星田展江 森本愛子 吉田実納
「This is ・・・」 作・出演:法正まり子
「クリソコラ」 作・出演:倉田真紀子
「PIERROT」 作・出演:林正美 (イム・ジョンミ)

 山下残の新作「コピュー」が彼がこれまで取り組んできた「言葉とダンスの関係性」の追求に新たな地平を開いているようで面白かった。
 「言葉とダンスの関係性」と書いたが、実はこの作品はここのところの山下残の近作「透明人間」「せき」のように舞台上でパフォーマーの動きと対等な関係において言葉が提示されるというわけではない。作品自体は途中、何か所かパフォーマーが言葉のようなものを発するところはあるのだが、それは別段、普通のダンスと比べて、目立つほどではない。
 むしろ、ダンサーの動きを組み合わせて、構成した群舞作品であり、ところどころ出てくる変てこな動きをサンプリングしたようなところに山下らしさがあるとはいえ、ダンスの枠組みを問い直すようなここのところの山下の作品と比べればおとなしい印象がある。
 ただ、見ていてどことなくダンス作品としては変なので、どこがそうなんだろうと考えていたら、当日パンフに書いてあるところではこれは「コピー」「サンプリング」といった行為を通貨したダンス作品なのらしかった。ここでなされている動きというのはいっさい山下が普通の意味で振りつけたものではなくて、稽古場でそれぞれの出演者が動いていたのを
ビデオで取ってそれをサンプリングした動き。これだけならば、ビデオを使うかどうかは別にして、ダンサーの方から提出された動きを構成して、それを作品にするというのはよくあることではあるのだけれど、山下の場合、そうしてサンプリングした動きを一度、言語化したうえで、そうして集められたテキストを切り張りして、コラージュして、そうして作られたテキストを再び、動きに再び翻訳しなおすという作業を行ったらしい。
 この日はあまり時間がなかったので、本人に実際の作業はどうやったのかについての詳しいことを直接聞くことができなかったのは残念だったのだが、動き(ダンス)→言語→ダンスというこれまでの作品で山下が積み上げてきたノウハウが創作の裏側で使われているのが
これまでの普通のダンス作品のコレオグラフの作業と異なるところなのだ。
 もっとも、冒頭で面白かったと書いたが、この舞台自体がクオリティーとして優れていたというわけではかならずしもない。今回参加したパフォーマーはダンスの経験が浅い人たちがほとんどであり、そういう人たちが大勢出てくるということになると始まってしばらくは
いったいどこに集中して、この舞台を見たらいいのか分からなくて、散漫な印象をもってしまったのも確かなのである。ところが見ているうちにしだいに何人か気になる動きをするダンサーが見えてきて(それは別にうまいとかそういうことじゃないのだが)、そうしたダンサーを手掛かりにして、全体の動きを追っていくとそれまでてんでんばらばらに見えていた動きのなかから、それなりの構造のようなもの(もちろん、これも意味というようなものではない)が見えてきて、けっこう面白く見えてきたのだ。
 そして、その構造というのが、なんとなく普通のダンスとは違っていて、それが気になっていたのだが、その違和感というのはおそらく、前述した作り方かたの違いを反映していたのではないかと見終わった後でしばらく考えていて、思われてきたのだ。
 山下が試みた新たな方法論というのはまだ本当に試験段階なのであり、今の時点ではだからどうなんだということがいいにくいところがある。ただ、そこからなにかとてつもなく面白いものが出てくるかもしれない。その予感は十分に感じさせた舞台であった。