下北沢通信

中西理の下北沢通信

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WI'RE「CROSS2(⇔)」

WI'RE「⇔」(大阪現代演劇祭仮設劇場<WA>)を観劇。

1年を通じて物語と演劇の可能性を探る「スカトリロ」シリーズ
1年間に渡り、1つの物語を3つの視線で展開するトリロジー。といっても前・中・後編と続くわけではありません。また、異なるサブエピソードが広がるわけでもありません。 物語と演劇の可能性を、異なるアプローチで探ってみる試みです。 あくまでもストレートプレイを我々なりに実現するための誠実な実験として取り組んでみようと思っています。
第1作
DOORDOOR
JUNGLE Weekday Frontier参加作品
第2作
cross
No.1
芸術創造館マンスリーシアター参加作品
No.2
大阪現代演劇祭仮設劇場「WA」発表作品
第3作
H●LL
アイホール提携公演

 WI'RE「CROSS2(⇔)」(サカイヒロト構成・演出・美術)を大阪港・中央突堤2号上屋倉庫内の<仮設劇場>WAで観劇した。<仮設劇場>WAは昨年行われた「小劇場のための<仮設劇場>デザインコンペ」により大賞に受賞した作品を実際に製作したもので、これを大阪港の倉庫の中に設置して、今年の4月から6月の3ヵ月にわたって12団体が「大阪現代演劇際」として連続公演を行うのだが、このWI'REの公演が実質的に杮落としとなった。
 今回の公演は1年を通じて物語と演劇の可能性を探るという連続公演「スカリトロ」シリーズの一環として企画されたもので、この「CROSS2」は全体として3つのフェーズに分かれたシリーズの2番目の段階。第1のフェーズはJUNGLE iNDPENDENT THEATEREで上演された「DOORDOOR」と題するリーディング公演。第2フェーズとしてはすでに昨年末、大阪芸術創造館の全館を使うインスタレーション(美術)&パフォーマンス公演として、「CROSS1」が上演されたが、この「CROSS2」は同じ物語と登場人物(キャラクター)、テキストを共用しながら、まったく異なったアプローチでの上演を試みたきわめて実験的な舞台となった。
 「スカトリロ」シリーズはこの後、伊丹アイホールで予定されている「H●LL」でこれまでの集大成としての第3のフェーズへと続いていくことになる。
 舞台を見るにあたって、この舞台がそういう位置づけの作品であること。そして、313本のポリエチレン性エアチューブと布のカーテンで区切られた円形劇場というきわめて特異な空間で上演されること。以上の2点から、この作品自体が演劇の普通の上演形態からするとかなり異色な内容となるのではないかという期待で公演に出かけたのだが、その期待は残念ながら裏切られた感があったことは否定できない。
 まず、空間の使い方からすれば円形の劇場の壁側のところに観客席(それは通常の客席ではなくて、床にそれを敷いて座る座布団ではあるが)が設けられ、中央の開けた空間がアクティングエリアとなり、白い波状の壁の部分に映像が時折映し出されるという青山円形劇場などでも時折見られるようなきわめてオーソドックスな円形劇場の使用法でしかなかったこと。もちろん、そういう風に使うこと自体がだめだということではなくて、ラディカルな実験性が期待された公演だっただけに期待はずれだったのだ。
 もうひとつはこちらの方が今回の舞台だけでなく、以前からこの集団の上演を見て感じていたことなのでより根源的な課題でもあるが、この集団にはまだ表現の核となっていくような独自の身体論、身体性がなされていないのではないかと思われたこと。サカイヒロトは関西では珍しく、むきだしの狂気をその内面にかかえている劇作家で、そこに彼に対する期待がある。この「CROSS2」もエピソードは断片に分解・分断されているが、その中心となるのは多重人格と思わせる「獏」と呼ばれる人格をそのうちに抱え、かつての連続殺人事件の犯人と思われる女とそれを追う被害者の父親と名乗る男というある意味、昨今の状況を反映したような人物たちである。
 狂気を内に抱えたということでいえば関西では遊気舎時代の後藤ひろひとクロムモリブデン青木秀樹の名前が挙げられるが、サカイがこの両集団にかつて俳優として所属したことがあったということはけっして偶然ではない。これらの作家の持つ狂気とサカイがシンクロしていたということがあったに違いない。しかし、これらの両集団にはそれぞれその狂気を体現するような俳優がいて、それがある意味その舞台の演技の規範をつくっていたのに対して、残念ながらこの舞台ではそれを体現するような俳優は存在しなかった。
 もっと正確にいえばいずれも客演である遊気舎の西田政彦、ZLVZXの久保亜紀子、BABY-Qの東野祥子といった俳優(パフォーマー)らはその資質や特異な身体性などからして、うまくところをえればそうした魅力を本来は発揮できる人たちなのだが、この舞台ではおそらく
サカイヒロト個人ならびにWI'REという集団と彼(彼女)らの関係性(の薄さ)からそうした魅力を舞台で体現することはできなかった。
 もっとも、こうしたことは集団のメンバーが体現すべきことであり、内部のパフォーマーも過去に別の作品での演技を見た限りではそうした資質がないわけではないのにこの舞台ではあまりそれが見えてこないというもどかしさがあった。
 それでもサカイの狂気の資質自体は得がたいものだと思うので、今回の公演は途中の段階として、狂気と集団としての身体性が次の「H●LL」でどのように立ち現れてくるのか。期待して待ちたいと思う。